361 ダンジョンブートキャンプは続く
怒濤のホースマンラッシュ。
まあ、うちの面子に徘徊しているホースマンを釣ってきてもらっているからなんだけど。
そこからローテーションでセーフエリアから出て相手をしていくだけの繰り返し。
「反応が遅い! 予備動作を見逃すな!」
「イエッサー!」
大沢少尉のチームメンバーなんだけど、ホースマンのタックルをどうにか回避したものの反撃に転じるだけの余裕がなく同じ状況が3回は続いていた。
思った以上に個人の能力が低い。
連携で魔物を倒すことに特化したチームなんだろう。
あと大沢少尉個人の能力がチームの中で突出しているので、そこに依存していることも考えられる。
「スタミナは向こうの方が上だということを忘れるな! 相手に会わせているとジリ貧だぞ! 自分からリズムを変えろ!」
このホースマンは獲物がバテて動きが鈍ったところで一気に畳みかけるのを狙っているように見受けられる。
同じ攻撃パターンを崩さねば向こうの思うつぼだ。
「イエッサー!」
で、この戦っている兵士が考えた手が魔法だった。
どうしても反応が遅れてしまうなら、あらかじめ魔力を練って用意しておける魔法でカウンターを狙うということだ。
間違ってはいないが、これも諸刃の剣だ。
大してレベルも上がっていないのに魔力を連発するようなことになれば早々に撤退しなければならなくなる。
この程度の相手に高威力の魔法を使っているようでは先が思いやられてしまう。
ただ、この兵士もそのあたりのことは考慮したようだ。
選択した魔法は光球。
それをホースマンの顔面に放つ。
威力はないが目潰しとなったことでホースマンは悲鳴のようないななきの声を上げ転倒。
兵士はすかさずホースマンの胸に剣を突き込んでトドメを刺した。
最後は悪くない戦い方だった。
問題があるとすれば、たった1戦しただけなのに軽く息を荒げている。
疲労困憊まではいかないものの塵も積もれば後々響いてくるのは明らか。
ウォーミングアップが済んだら2層を後にする予定だったけど、今日は2層で鍛えるべきだな。
遠藤大尉たちの方は最初はタイマン勝負に面食らっていたけど、初戦のうちに修正してきた。
大沢少尉のチームでそれができているのは少尉だけである。
そのせいで最初は2チームに分けようかとも考えた。
ただ、それをしてしまうと大沢少尉のチームが自分たちはこんなものだとモチベーションを下げてしまう恐れがあったのでやっていない。
それに見学も訓練のうちだ。
強い者とそうでない者の戦い方を目にすることで参考にしたり反面教師にしたりできる。
ローテーションで戦わせているのは休憩をはさむためだけではないということだ。
その甲斐あってか、昼過ぎには全員がソロで何とか戦えるようになっていた。
ただ、このまま3層へ向かうのは心許ないものがある。
すでに何人か疲労の色が見え始めていたからゼブラッドの幻覚攻撃の餌食になりそうだし。
という訳でホースマン狩りを続けることとなった。
ただし、午前中より厳しく行く。
「最後まで油断するな! 腕立て百回だ」
ホースマンを仕留める時に危うくカウンターをもらいかけてかすり傷を負った兵士を叱り飛ばして罰を与える。
「イエッサー!」
あるいは──
「この程度の相手にモタつきすぎだ! 腕立て1セット!」
慎重になりすぎて時間をかけてしまった兵士にも罰を与えた。
「イエッサー!」
もしくは──
「闇雲に突っ込むな! 腕立てだ!」
早く仕留めるためにと考えなしで突っ込んでいった兵士も叱る。
そんなこんなで夕方になってダンジョンから出てきた頃には誰もがグッタリしているような状態だったのは言うまでもない。
「今日はこれまでとするが予定よりも大幅に遅れている。あの程度で満足しているようなら話にならない。明日の奮闘を期待する」
「サー! イエッサー!」
「以上、解散!」
初日のブートキャンプはこんな感じで幕を閉じた。
そして2日目。
軽く疲労が残っている者が多く見受けられたので疲労回復用のポーションを配布した。
あまり効果の高いものだと気後れするだろうから効果が低めのものだけどね。
それでも今ぐらいの疲労なら充分に回復できるはずだ。
「それを飲んだら今日も地獄の始まりだ。昨日と同じと思うなよ!」
「サー! イエッサー!」
2日目も2層でブートキャンプを行う。
初日と異なるのは複数のホースマンを相手にさせたことだ。
よりシビアにやらないと普通の人間ではレベルアップなどそうそうできるものではない。
それにこれを乗り切れば乱戦に強くなる。
同時に少々のことでは動じないメンタルも養えるはずだ。
すべて目論見通りにいくほど甘くないことは前日の体たらくでわかっているので楽観はしていない。
どこまで理想の結果に近づけるかが今日の課題だ。
──結論から言えばおおむね満足はできた。
些細なミスもまだまだ見られたものの全員が前日より成長していたからだ。
男子三日会わざれば刮目して見よとは言うが、1日で変わるのは大したものだと思う。
もっとも、そんなことはおくびにも出さずビシバシと行かせていただきましたよ?
3日目。
ようやく本番とも言える3層でのブートキャンプが始まる。
ここからはソロではなくチームで戦ってもらうけど、3層で出てくる赤黒のシマウマ型魔物であるゼブラッドは幻覚攻撃を仕掛けてくるから緊張感を保って戦わねばならない。
その点については3層に到着した時点で説明したのだけど。
「くそっ、なんだってんだ!? 急に魔物が出てきたぞ。皆は何処だ」
「隊長! 何処ですか!? 魔物に囲まれています!」
「もしかしてまた転移トラップなのか!?」
大沢少尉のチームメンバーが3人も引っ掛かってしまった。
しょうがないのでアシスタントのウィンドシーカーズに合図を出して幻覚の魔法を使っているゼブラッドを仕留めてもらう。
これで魔法がキャンセルされて元に戻る訳だけど。
「油断するなと言ったはずだが?」
問いかけながら威圧する。
身に染みてわからないと繰り返しかねないからね。
そんなことで時間を無駄にしている暇はないのだ。
「たるんでいるぞ! 連帯責任だ。全員で腕立て百回!」
「「「「「サー! イエッサー!」」」」」
何故か見学していたはずの遠藤大尉のチームまで腕立て伏せを始めてしまいましたよ?
これには少し面食らってしまったけど何とか表には出さず、さも当然という顔でスルーしておいた。
もしかすると理不尽だと思われているかもしれないが気にしたらブートキャンプの鬼軍曹は務まらない。
腕立てが終わった後は交代して遠藤大尉たちのチームがゼブラッドと戦う。
勝ちはしたけど連戦することになるという思いが念頭にあったのか想定より時間がかかった。
「時間をかけすぎだ! 工夫が足りない。何故、魔石アタックを有効活用しないのかっ。見学している間に戦術を練り直せ! 腕立て1セット!」
「「「「サー! イエッサー!」」」」
交代して再び大沢少尉のチームが戦うが、今度は幻覚攻撃を気にするあまりまともに戦えない有様である。
得意の連携がガタガタだ。
「魔石アタックで牽制しろ! 接近して回り込め! 視界に入らなければ幻覚攻撃は来ないぞ!」
この指示出しでどうにかこうにか立て直してゼブラッドを仕留めた。
遠藤大尉たちよりさらに時間がかかったのは言うまでもない。
「腕立てだ。終わったら戦術を練り直せ。ゼブラッドの幻覚攻撃は死角に入れば通らない。縦列で接近するなど工夫しろ」
「「「「「サー! イエッサー!」」」」」
そこからは多少戦えるようになったけど今日中に4層へ向かうのは尚早だと判断した。
ここで苦戦しているようじゃ話にならないからね。
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