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359 ようやく解放されると思ったのだけど

 遠藤大尉たちがトライコーンに勝てるかどうかは言わずに見た姿をそのまま伝えた。


「トライコーンって奴か」


「でしょうね」


「そんなのと戦わないといけないのかよぉ」


 早くも泣き言が出てきたのはトライコーンのことを知っているからという訳ではないだろう。

 遠藤大尉お得意の直感だと思う。


「ヤバいと思うなら保留にしておいた方がいいんじゃないですか」


「だよなぁ。命あっての物種と言うし」


 遠藤大尉は憂鬱そうに表情を暗く沈ませて返事をした。


「報告書には見ただけでちびりそうになりましたって書いとくよ」


 即座におどけて付け加えたけどね。


「それでも一応は姿を拝んでおかんとなぁ」


 嘆くように言って大きく溜め息をつく遠藤大尉。

 軍人も大変だとは思ったのだけど、溜め息ひとつでスパッと切り替えたらしい。

 すぐに平然とした表情に戻った。

 ころころ変わるから、どれが本音なのやら。


「ところで」


 話を切り替えることを強調するように間を取ってくる。

 そんなに勿体ぶるような話があるのだろうか。


「君らんとこの人材はどうなっているのかな?」


 今度は諦観がにじみ出るような哀愁漂う空気をまとっている。


「どのチームも転移トラップを1時間かからずクリアするし」


「早く2層に行きたかったんじゃないですか」


「……確かにそんなことを言っていたな」


 内にあるモヤモヤを吐き出すように大きく溜め息をつく遠藤大尉。


「それにしたって無茶苦茶だろう。全力疾走で周回して戦闘もこなすなど、どんなスタミナをしてるんだ」


 あー、そこまでやっちゃったかー。

 加減しろと言ったのになぁ。

 どうせ魔物と遭遇した時に足を止めて休憩していたんだろう。

 戦闘もしなきゃならないけど相手は雑魚だから手抜きで戦っても不覚を取るようなことはないはず。

 そういう意味ではちゃんと加減していたことになるのか。


「冒険者は体力勝負ですからね」


 正論というか冒険者の基本のひとつを言ったはずなのに苦虫を噛み潰したような顔をされてしまった。

 限度があるとでも言いたいのだろうか?

 そんな訳ない。


「それに撤退しなきゃならないような状況に陥った時に疲れ果てていては逃げ切ることなんてできませんよ」


「そりゃそうだが」


 まだ納得がいかないようで遠藤大尉の表情は渋さを残している。


「うちの基本方針は必ず生きて帰ることですから徹底して体力作りをするんです」


 そう言うと、少し目の色が変わった。


「どうすればいい?」


「そういうのは軍人の得意分野でしょう」


「俺たちも普段からトレーニングは欠かしちゃいないが、それでもアイツらのペースについて行くのが精一杯だったぞ」


「戦闘中は休めたでしょうに」


 転移トラップの中では手助けをすると魔物ハントのカウントから除外されるからね。


「だから信じられないんだ。戦闘が終わってもケロッとしててすぐに走り始めるし、大沢少尉んとこなんかトラップから抜け出した途端にへたり込んでいたぞ」


 レベルが違うからだろうね。

 そこまで言うくらいなら15以上のレベル差があるはずだ。

 遠藤大尉のチームでも10レベル前後の開きがあるんじゃなかろうか。


 安全マージンを取り過ぎているせいで伸び悩んでいるんだな。

 シビアすぎるのも命に関わるからダメだけど、手ぬるいと経験値の入りは大幅に減少する。

 下手すりゃゼロだ。

 軍人がぬるま湯につかり続けるのはどうかと思うよ。


 けど、下手なことを言って死なれても困るしなぁ。

 目の届くところでブートキャンプでもしてもらいますかね。

 ぶっちゃけパワーレベリングである。

 統合自衛軍のトップチームに実行するとなると本格的なものにしなければ効果は薄いだろう。


 ここまでのものは身内以外にはやりたくなかったんだけど。

 ただ、そうでもしないと統合自衛軍のダンジョン攻略部隊が戦力的に停滞してしまう。


 しょうがないから割り切って鬼になろう。


「そんなにうちのブートキャンプを御希望ですか」


 トレーニングと言わなかったのは新人扱いするが覚悟はあるかという問いかけの意味を込めたからだ。


「いいのかっ!?」


 飛びついてきそうな勢いで迫られてしまった。

 熱苦しくて鬱陶しいけど我慢する。


「じゃあ、明日もここ集合で」


「ダンジョンの中でトレーニングするのか?」


 遠藤大尉が目を丸くさせて驚いている。

 何処かのトレーニング施設でも使うと思っていたのだろう。


「明日以降も調査は続くのでしょう?」


「そりゃそうだが」


 任務を放り出す訳にはいかないことを思い出し、遠藤大尉はばつが悪いと言わんばかりの顔をした。


「実戦の場に身を置いた方が効果が上がるんですよ」


「そうなのか?」


「当然でしょう。運動場で汗を流したくらいで短期間に強くなれる訳がない」


「言われてみれば、そうかもしれないな」


 眉間にシワを寄せて考え込む仕草をする遠藤大尉だ。


「それに誰がトレーニングだと言いましたか?」


「何だって?」


 俺が何を問いたいのかわからず遠藤大尉は怪訝な顔で聞いてきた。


「俺が言ったのはブートキャンプですよ」


「そうだったな?」


 認めつつも首をかしげている遠藤大尉の顔にはそれがどうかしたのかと書いてある。

 何が言いたいのか読めないからだろう。


「階級に関係なく新兵同然に扱いますから覚悟してくださいね」


 視線で射貫くように遠藤大尉をジッと見つめながら言った。


「お、おう」


 詰まりながら返事をした遠藤大尉は明らかに気押されている。

 本気で威圧したつもりはなかったんだけど敏感に感じ取ったのかもしれない。

 この調子だとレベル差が大きく開いていることも感づかれる恐れがある。

 冷や汗ものだよ。


 あと、ダンジョンを掌握したから後の調査は数日で終わらせられるかと思っていたのがダメになったのは誤算だった。

 もっと早い段階で統合自衛軍のダンジョン攻略部隊が停滞していることに気付いていればね。

 とはいえ時間は巻き戻せない。

 ならば明日からのメニューを考える方が建設的というものである。


 とりあえず2層から始めるか。

 1層のマッドポニーではタイマンでも物足りないからね。

 ホースマンもチームで戦うと温いので1人ずつ相手をしてもらおう。

 このあたりはウォーミングアップなので時間はかけない。


 本番は3層からだ。

 ゼブラッドは幻覚攻撃を仕掛けてくるから緊張感を保って戦うには丁度いい。

 釣ってきて連戦させれば、そこそこは鍛えられるだろう。


 慣れてきたら4層でダークバクの相手をしてもらう。

 ゼブラッドをより強くした魔物だから獲得できる経験値も上がるはずだ。

 ここで本格的に鍛えてレベルを上げていく。

 今の遠藤大尉たちでは5層で鍛えるのは時期尚早と言わざるを得ないからね。


 様子を見て5層でも戦ってはもらうつもりだ。

 ひたすら作業のように連戦するより己の強さを実感する機会をはさんだ方がモチベーションが上がるからね。

 ダークバクで物足りなく感じるようになってきたらナイトメアの相手も本格的にしてもらうということで。


 そこまでやってトライコーンの相手ができるかどうか。

 勝てたとしても帰路において魔物と戦えるだけの余力は残せないと思う。

 ナイトメアを相手にタイマン勝負できるくらいにならないと難しい。

 ただ、今回のブートキャンプではそこまでする気はない。

 そのくらいは自助努力でなんとかしてもらわないとね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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