355 東京競馬場ダンジョン5層へ
その後は特筆すべきことは何もない。
ネージュのリクエストで、もんじゃを食べに行ったくらいなものだろう。
何故にもんじゃと思ったけど神様たちからこういう食べ物があるという話を聞いていたらしい。
まあ、俺たちも東京に来ていながら未だ食べていなかったので大人の修学旅行的にはありだろうとなり、お店を探して行ってみた。
少し変わった食べ方が物珍しかったし味も人を選ぶようなものではない。
ただ、何度もお代わりしようとはならないかな。
おやつ感覚で食べるものだと思う。
そのせいか店を出た後でネージュに物足りないと言われてしまったさ。
あと、俺たちの入った店では具材にイカが無かったのも影響しているかな。
そんな訳でコンビニに寄ってあれこれと大量に買い込んでホテルで食べましたよ。
ここでもイカの入ったものが、ほぼ全滅でネージュはショックを受けていたけどしょうがないよな。
そんなこんなで明けて翌日。
東京競馬場に集合したのだけど。
「どういうことだ、張井?」
遠藤大尉に問い詰められることになった。
「どうもこうも転移トラップが本当に確認したとおりの条件で脱出できるかを調べるための人員を連れてきただけですけど?」
そう。俺たちはネージュを含めた4人だけではなく、身内から選抜した面子を集めていた。
ドワーフのジェイドとエルフのネモリーとメーリー他数名のチームと大阪組にウィンドシーカーズ。
ウィンドシーカーズだけでは人数的に心許ないと思われかねないのでドワーフとエルフを1名ずつ助っ人に加えている。
「民間の冒険者をホイホイ調査に向かわせられる訳ないだろう」
「そうですか? じゃあ、俺たちも御役御免でいいですよね」
「そういうことじゃなくてだな」
「ここのトラップは一度限りなんですから仕方ないでしょう。報告に説得力を持たせたいなら検証数は多い方がいいと思いますけどね。これでも少ないくらいですよ」
選抜して東京に連れて来た隠れ里の民たち全員を投入しても構わないんだけど、今日のところは様子見だ。
「本当にいいのか?」
「本人たちは同意してますよ。強制はしてません」
昨日、聞いてみたら誰も拒否しなかった。
むしろ挑み甲斐があると言われたくらいである。
皆はどうやら魔法を使ってくる魔物に興味津々なようだ。
そんな訳でうちの身内も含めた探索が行われることとなった。
遠藤大尉たちは今日から参加する面子のフォローに回るらしい。
つまり、俺たちからマークが外れて動きやすくなったということだ。
実にありがたい。
さっそく最短ルートで4層へ直行する。
特に障害となるものは何もなくスムーズに到着。
今日は4層のセーフエリアから出る際に待ち伏せされていることもなかった。
ダークバクがいない訳じゃない。
探索を続ける間に複数のダークバクと遭遇することもあったからね。
見られていないから鎧袖一触で片っ端から倒していく。
高級馬肉をドロップするのは魅力的だ。
おかげで4層はくまなく探索して地図が完成してしまった。
危うく2周目に突入してしまうところだったよ。
けれども心を鬼にして5層へと下りていく。
「次はどんな魔物が出てくるかなー。やっぱりお馬さん関係だよねー」
「ここまで来て牛とかだったら意味がわからんぞ」
「えー、牧羊犬とか出てきたら面白そうだよー」
「牧羊犬の魔物なんていない」
「残念ー」
何だかなぁと思うようなやり取りをする真利と英花だが、気配に気を配るのは忘れていないので何も言わない。
ちなみに魔物化した牧羊犬はいないが犬の魔物はいる。
階段を下りてセーフエリアに到着した。
休憩の必要はなさそうだったので、そのまま探索を続行。
5層でもダンジョン左手の法則でマッピングを続けていると黒い馬の魔物が現れた。
「たぶんナイトメアだな」
英花が言った。
その名が示すように、悪夢を見せると言われる魔物だ。
細かく分類すると邪妖精の類いなんだけどね。
このナイトメアたちも御多分に漏れず精神系の魔法を使ってきた。
生憎と俺たちは普通にレジストしたので何も起きない。
ただ、このダンジョンに入ることを許可されるであろう冒険者には脅威になりそうだ。
魔法で眠らせて悪夢を見せながらトドメを刺しに来たりするからね。
他にもゼブラッドみたいに幻覚で同士討ちを狙ってきたり。
後は恐慌や混乱の状態異常にさせたりと初手はほぼ精神系の魔法だ。
で、俺たちのように状態異常にかからなかった場合は素早く他の魔法に切り替えてくる。
俺たちが遭遇したナイトメアもその口だった。
火球を乱れ撃ちして弾幕を張ったのかと思いきや、火球に紛らせるようにして風刃や石弾を放ってきた。
「姑息だな」
すべての魔法を凍らせて止めたネージュが不機嫌そうに言った。
そのまま氷弾を放ち命中したナイトメアを氷像へと変えてしまう。
おまけに今回は単に凍らせただけではなく内部から氷が噴き出すように破裂してしまった。
威力が桁違いなんですけど?
「弱いから工夫するんじゃないか?」
「ふむ、それもそうか。勝てもせぬのに真正面から力勝負を挑むバカよりは、まともな頭をしておるという訳だな」
どうやら機嫌は直ったようだ。
出現したドロップアイテムは魔石の他に馬革と馬肉。
どちらも高品質なものである。
「高級馬革と高級馬肉ゲットー」
真利のテンションが高いのは馬肉があったからか。
そういや、昨日は外食とコンビニ飯だったので食べるのを忘れていたな。
今日は馬肉をいただくとしよう。
続いて遭遇したナイトメアとは俺たちが戦った。
精神系の魔法をレジストすると攻撃魔法に切り替えてくるのは同じだ。
ナイトメアの放った火球を火球で相殺。
その間に真利がコンパクトボウで鉄球を放つも魔法障壁で止められる。
それだけではなく英花がほぼ同時に放った風刃も魔法障壁に当たると霧散してしまった。
「ダークバクより魔法の扱いが上手いな」
再び放たれた火球に向けて火球を放ちながら言うと。
「下の階層の魔物だもんねー」
鉄球を放ちながら真利が言った。
特に指示を出さなくても魔力を込めた鉄球だ。
英花はあえて攻撃魔法を選択せず結界の盾を構築した。
向こうからも判別できるように磨りガラスのような色をつけて。
防御しましたよとアピールすることで魔法攻撃がないと油断を誘うのが狙いだ。
ダークバクならば引っ掛かったことだろう。
が、ナイトメアには通じなかった。
魔力が込められたはずの鉄球はナイトメアが構築した魔法障壁に弾かれてしまう。
そう、弾かれた。
鉄球は先程のように真下に落ちるのではなく明後日の方へ飛んで行ってしまったのだ。
多少は魔法障壁にダメージがあった証左と言えるだろう。
貫通してナイトメアに傷を負わせなきゃ意味がないけどね。
「このままだと膠着状態になりかねないな」
ナイトメアの手札を探るという点では意味があるだろうけど悠長にしているるつもりはない。
遠藤大尉たちの目がない間にこのダンジョンも掌握しておきたいからね。
ただ、他の冒険者にも倒せるくらいの方法で仕留めてデータ取りしたいところでもある。
「一度だけ加減しながら倒して、後はパワープレイでいいんじゃないか」
英花がそんな提案をしてきた。
「なるほど。悪くないな」
方針は決まったが、どう倒すかな。
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