表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

354/380

354 これって反省会?

 ダンジョンの外に出てきたのは日が暮れる前だった。


「昨日とは大違いだねー」


「まったくだ。無茶をしなければ、こんなものだろう」


 真利の言葉は無意識なものだったけれど、英花のは悪感情が込められていた。

 昨日、遅くなったことを根に持っていたのかもしれない。

 それが耳に届いたところで遠藤大尉はどこ吹く風で平然としているんだけど。


「ハッハッハ、褒めないでくれよ」


「褒めてないっ」


 やっぱり、この2人は相性最悪だ。

 とりあえず英花の肩をつかんで強制的に回れ右をして真利にパスしておく。

 任された真利が英花を連れて行き距離を取った。


「で、何か用があるんですよね。用がないなら帰りたいんですが」


 チームメンバーを引き連れてきているから何かしら聞きたいことがあると踏んだのだけど。


「俺たちがまだ戦っていないダークバクについてだ。妙な戦い方をしていただろう」


「妙って、何ですか。変わったことは何もしてませんよ」


「張井はそう言うが、不意打ちを予測していたじゃないか。あの透明な盾が何よりの証拠だと思うんだがな」


「向こうが隠れているつもりになっていたからですよ」


「なんだよ、張井。意味がわからないぞ」


 具体性に欠けるせいか氷室准尉が文句を言ってきた。

 仕方ないので闇霧について説明しておく。


「はぁ~、隠れたつもりが魔力のせいでバレバレちゅうことかいな」


 溜め息をついて堂島氏が呆れの色を出している。


「そうは言いますが、我々には見えていませんでしたよ。どうにかしないと4層の調査が滞りかねません」


 大川曹長が肩を落として途方に暮れている。


「魔力を見る訓練でもしたらどうです」


「どうやればいいんだ?」


 遠藤大尉が興味を持ったようで具体的な方法を聞いてきた。


「ペアを組んで一方が魔力操作している間にもう一方が魔力を意識して見るくらいしか方法はないですね」


「つまり、張井たちはそうやって身につけたってことか。やってみる価値はありそうだな」


 俺の場合は異世界での実戦で自然と身についたんだけどね。

 英花も同様だ。

 真利は気がつけば見えるようになっていたので特に訓練したとかじゃない。


「あと気になったのは攻撃方法だ。同じようにしか見えなかったが2発目は弾かれなかったよな」


「あれはダークバクが魔力をケチった結果ですよ」


「何だって!? 意味がわからないぞ、張井」


「どういうことだよ!?」


「意味がわからへんわ。魔物が魔力をケチるてどういうこっちゃ」


 向こうの男性陣が混乱して騒いでいる。

 大川曹長も声に出してはいないものの顔を見れば理解できていないのは明白だった。

 魔力が見えないんじゃ仕方あるまい。


「1発目は普通に鉄球を射ただけです」


 この段階では誰も口をはさまない。


「弾かれたのはダークバクが物理攻撃を感知して魔法障壁で遮断したからですよ」


 遠藤大尉たちが感心するような表情を見せている。


「あれを見切れる魔物がいるのか」


「俺たちは魔力よりも物理攻撃を見切れるようになるのが先かもしれませんな」


 愕然とする遠藤大尉に氷室准尉が声をかける。


「魔法で物理攻撃を感知していたんだと思いますがね」


「魔法の攻撃も見切っとったやないですか。単に攻撃されたことを感知するだけならともかく、どっちか見分けるなんて細かな芸当できるんでっか?」


 堂島氏が目を丸くさせて聞いてくる。

 確かに2発の鉄球攻撃の間に魔法でも攻撃していた。

 風刃同士が相殺したことで、その場の空気が乱れて砂埃が巻き上がっていたから魔法を使ったのがわかったみたい。

 そのせいで信じられない思いが湧き上がってきたのだろう。


「風魔法の応用で簡単にできますよ。広く厚くそれでいて、ごく弱く風の障壁を展開すればいいだけですからね」


 よほど注意深く見ていないと感知できないくらい弱く展開させるのがコツだ。

 敵に警戒されない上に、攻撃の速さや狙われた個所だけでなく魔力が放出されているなら魔法かどうかもわかってしまう。


「そないな簡単な方法で……」


 堂島氏はショックを受けてしまったようで言葉が続かない。


「それで2発目の鉄球はどうやってその感知をかいくぐったんだ?」


 質問が続かないことを確認してから遠藤大尉が聞いてきた。


「それほど精度の高いものじゃありませんでしたよ。鉄球に外へ漏れ出さないよう魔力を込めただけですから」


「意味がわからん」


 氷室准尉が首をひねっている。


「単なる物理攻撃だと勘違いさせたということでしょうか」


 とは大川曹長だ。


「そうです。もっと感知精度が高ければバレていたんですけどね」


「だとしても魔法障壁で弾かれなかったのは何故だよ?」


 食い下がるように聞いてくる氷室准尉だ。


「その魔法障壁が物理攻撃しか弾かないようになっていたからですよ」


「なっ」


 俺の返答に氷室准尉は短く声を発したきり固まってしまう。


「魔力が込められていることで魔法障壁を貫通したということですか」


 大川曹長が確認するように問うてくる。


「その通り」


「だから魔物が魔力をケチったと言ったのか。なるほどなぁ」


 ふんふんと遠藤大尉がうなずいている。


「ゼブラッドの幻覚攻撃も厄介だが魔法を使いこなすダークバクの方が手強いな」


「魔法使いとしての格は上でしょうね」


「張井たちがすぐに引き返したのも納得だな」


 何故か意味不明な納得のされ方をしてしまったんですが?

 どういう意味か聞こうとしたところでダンジョンの入り口の方から気配がした。

 大沢少尉のチームが帰還したみたいだな。


 それにしても中途半端なタイミングで帰ってきたな。

 転移トラップのクリアだけならもっと早く終わっているはずだ。

 クリア後に2層へ向かって探索していたのであれば帰還は日が暮れてからになると思っていたのだが。


「大尉、ただいま戻りました」


 精彩を欠いた表情をどうにか引き締めて報告している大沢少尉。


「御苦労。もしかしてトラップからの脱出に手間取ったのか」


「はい、申し訳ありません」


「謝る必要はない。ヘッドレスホースを警戒した結果だろ。奴らは熱病のキャリアだからな」


「次からは盾を装備していきます」


「バカだなぁ。次はないトラップだって言っただろう」


「あ」


 そこまで頭が回らないとは相当疲れているな。

 まさか、この厳つい面構えの人が天然ボケなんてことはないだろうし。

 それはそれで愉快なことになるかもしれないけど、親しい間柄じゃない相手をからかうなんて真似は俺にはできない。

 そういうのは遠藤大尉の領分だ。


「とにかく今は休め。明日に響くぞ」


 さすがに遠藤大尉も疲れ切った相手を冷やかすような真似はしないか。


「はっ、そうさせてもらいます」


 敬礼をした大沢少尉は部下の元へと戻っていった。


「大きい盾は必須というのは絶対に報告しないとな」


「ヘッドレスホースは側面に回り込めば血を浴びることもありませんよ。首がないから正面にしか血を噴射できないのは確認済みです」


「そりゃありがたい情報だ。盾を持っていても血を浴び続けていればヘマをすることだって考えられるしな」


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ