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353 ダークバク

 闇霧の中から絶え間なく石弾が飛んで来る。

 結構しつこいものだ。

 突進はしてこないが中に潜んでいる魔物が好戦的なのは間違いない。

 で、その乱れ撃ちをしてくる敵の正体だけど……


「あの闇の霧を吹き飛ばせばわかることだ」


 魔法で突風を起こさせる。

 自然の風ならば魔力をまとった霧も動かなかっただろう。

 だが、こちらの風も魔力が込められているのだ。

 吹き飛ばせないはずがない。


 黒色に彩られた霧はみるみるうちに吹き飛ばされていき中に姿を隠していた魔物が姿を現した。

 が、まだ何者か特定できない。

 魔物が全身黒ずくめだったからだ。

 薄暗いダンジョンの中でこちらの光源が届かない距離にいると判別は極めて困難だ。


「闇の中から黒い魔物か。念の入ったことだ」


「距離があるせいでわかりづらいよねー」


 英花も真利も黒い魔物に呆れの色を見せている。

 好戦的な割にこちらに姿を見られまいとする性根がセコいと感じさせるからだろう。

 通用しない石弾を放ち続ける単細胞ぶりにも思うところはあるはずだ。


「今度こそ化けの皮をはいでやるさ」


 俺は光球の魔法を付与した石弾を奥に潜む魔物に向けて放つ。

 そのまま飛んで行ってしまわないよう飛ばす勢いは最低限に絞っておいた。

 それ故、放物線を描くようにふわっと飛んだ石弾は魔物の手前で落下しカラカラと音を立てて惰性で魔物の足下まで転がっていく。


 そうして光に照らされたのは、およそ馬とは思えないほど首が短くずんぐりむっくりした四つ足の魔物だった。

 後ろ半身を白く塗ればマレーバクそっくりに見えたことだろう。

 確かバクは奇蹄目で馬の仲間だったか。


「あれはダークバクだな」


 英花が忌々しいと言いたげに舌打ちをする。

 馬限定で考えていた答えが間違っていなかったにもかかわらず不機嫌さを隠そうともしない。

 すでに使用している闇霧や石弾だけでなく多彩な魔法を使ってくる魔物だからだろう。

 単調な攻撃もこちらの油断を誘うためのものだと気付けば嫌でも警戒してしまうものだ。


「近づかない方がいいのかなー?」


「その方が無難だとは思うが、あれの手札がどれだけあるかは個体差によるはずだ」


 真利の疑問に英花は断言を避けて答えた。


「じゃあ、ひと当てしてみるねー」


 そういうと真利はコンパクトボウで鉄球を射た。

 が、鉄球はダークバクには届かない。

 魔法障壁で防いだからだ。


「やっぱり三味線を弾いていたな」


 英花の表情が苦々しいものになる。

 実力を隠したままだと長期戦になる恐れが出てきたからね。

 見極めづらいはずの鉄球を防いでみせたことから魔法で感知している可能性が高い。


 推測通りであるなら物理だけでなく魔法も防いでしまうはずだ。

 試しに風刃を放ってみるも、風刃で相殺された。


「面倒な」


 魔法で攻撃した俺ではなく英花が苛立っている。


「そうでもないぞ」


「何っ?」


 英花が驚きの声を上げてこちらを見てくる。


「真利、鉄球に魔力を外へ漏れ出さないよう込めて射てくれるか」


「りょうかーい」


 返事をした真利は、すぐさま練り込んだ魔力を込めた鉄球をコンパクトボウで放った。

 ダークバクは今度も魔力障壁で防ごうとしたが鉄球は貫通し急所に命中。

 一撃でドロップアイテムと化した。

 ドロップしたのは魔石と馬肉だったんだけど、いずれもゼブラッドより高品質だ。


 つまり魔法を使う魔物としてダークバクの方が格上ってことになるのだろう。

 そう考えると、ちょっとマズいかもしれない。

 このまま探索を続けたら俺たちが実力を隠しているのがバレそうな気がする。


 俺は英花と真利にアイコンタクトを送った。

 英花は同じことを考えていたようで小さくうなずく。

 真利は何のことかわからなかったみたいだけど、何も聞かずに目でOKを返してきた。


「今日はこれくらいにしておこうか」


「む、良いのか? 今から帰ってもまだ余裕のある時間であろう」


 ネージュが訝しげな顔で聞いてくる。


「昨日は遅くなったから今日は早上がりだよ」


「気にせずとも良いのに」


「ネージュはね。遠藤大尉たちが厳しいと思うよ」


 戦う機会はほとんどなかったけど、ゼブラッドの幻覚攻撃を受けてからは緊張しっぱなしだったから疲労もそれなりに蓄積しているはず。

 本人たちは俺たちに付いて来ることで疲労を軽減するつもりだったんだろうけど当てが外れた訳だ。

 早めに帰還して休んでもらうのが良いだろう。

 キチンと休息を取って疲労が抜ければ明日以降は別行動になることも考えられる。

 それともバックアップ要員として付いて来るつもりだろうか。

 何とも言えないところだから、そこは覚悟しておこう。


「ふむ、そういうことか。怪我をされては寝覚めが悪くなるかもしれん」


 ネージュがそういうのを気にするようになってくれたのはありがたいことだと思ったのだけど。


「それに昨日は晩ご飯が遅くなったからな。今日は早めに食すのも良かろう」


 こっちの方が重要度が高そうだ。

 ネージュはすっかり食いしん坊キャラが立ってしまったよな。


「おい、どうしたんだ」


 俺たちがドロップアイテムを回収した後も移動する気配を見せないので遠藤大尉たちが寄って来た。


「今日はもう帰ります」


「どういうことだ? 帰りの道程を考えても余裕はあるだろう」


「昨日が遅かったからですよ。ペース配分を考えないと疲労が蓄積していくだけですよ」


 俺の返答に一瞬は虚を突かれた格好になった遠藤大尉だったが。


「それもそうか。明日以降のことを考えると、その方が良さそうだな」


 すぐに納得した。


「帰りは俺たちが先導する。露払いは任せてくれ」


 そんな提案をしてきたのは、ここに来るまで戦わなかったという負い目があるからか。

 気にする必要はないのだけど。

 それを言ったところで首を縦には振らないだろう。


「じゃあ、お任せします」


 という訳で遠藤大尉たちの先導で帰路につくこととなった。

 本人たちがモヤモヤしたままだとコンディションに影響しかねないからね。

 少しでも万全に近い形の方が依頼された仕事も早く終わるはず。

 何かありそうな時はフォローすればいいだけのことだ。


 階段を上って3層へと上がっていく。

 階段を上りきる頃には先行する遠藤大尉たちの緊張感が往路の比ではないくらい高まっていた。


「ガチガチになっておるな」


 ネージュがそう評したが、そう悪い状態でもない。

 単に臨戦態勢になっているだけだからだ。

 それが警戒しすぎだとネージュの目には映ったのだろう。


「さっき俺たちが不意打ちを受けたから警戒しているんだよ」


「放出された魔力が見えておらぬだけでなく索敵能力まで低いのか。鍛え方が足らん」


 なかなか手厳しい。

 あれでも統合自衛軍のダンジョン攻略部隊におけるトップチームなんですけどね。

 現に遭遇したゼブラッドとの戦闘も苦戦することなく数分ほどで方を付けていたし。

 魔力を見る訓練はしておいた方がいいと思うけどね。

 隠蔽されたものは一朝一夕には無理でも放出されている魔力なら見極められるようになるはずだ。

 魔力操作は普通にできているんだから。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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