352 探索は進む
ホースマンとは俺たちも戦ってみたけど奇妙な感じだった。
武器を手に戦う馬ってどうよということだ。
ミノタウロスはゲームとかで馴染みがあるせいか違和感がなかったんだけどね。
強さ的には世間で評価されているとおりミノタウロスと同等だと感じたよ。
パワーファイターではないのでフットワークを使ってきたりするあたりが違うけど。
ドロップアイテムはミノタウロスと同等の魔石の他に馬革と上質な馬の毛だ。
ラインナップがマッドポニーと似ているけど、馬の毛はこちらの方が良い品質である。
馬革の量も多いし稼ぐなら1層より2層の方がいい。
そのためには転移トラップをクリアしなければならない訳で。
そういや2層も同じようなトラップがないかと思ってダンジョン左手の法則で回ってみたけど、今のところ飛ばされていないようだ。
1層よりも確実に広いので望みは捨てていなかったけど、何度かホースマンと戦っているうちに階下へと下りる階段を発見してしまった。
まだ2層のマッピングは完了していないけど、そういうのは後から来ることになるであろう大沢少尉のチームに任せるとしよう。
「この階段ですけど下りますよ」
後ろから付いて来る遠藤大尉たちのチームに声をかけた。
それだけでダダダッと駆け寄ってくる。
まさか引き止めるつもりか?
「こんなにあっさり3層への階段が発見できるとは、さすが張井たちだな」
遠藤大尉がヨイショしてくる。
「別に隠し階段じゃないじゃないですか。マッピングしながら歩いていたら誰でも発見できるでしょう」
「ノリが悪いなぁ。未知のダンジョンの新しい階層なんだぞ。しかも試練を越えなければ、ここには来られない」
ノリとかどうでもいいんですけど?
なんだか厨二病的なスイッチが入っちゃってませんかね。
試練をクリアして封鎖されていた区画に入れたことでテンションが上がっているのかもしれない。
こういう時はスルーしておくに限るな。
という訳で何も言わずに3層へと向かった。
「今度はゼブラッドか」
ゼブラッドは赤と黒の縞模様を持つシマウマの魔物だ。
好戦的ではあるが近接戦闘を苦手にしている。
故に離れた場所から魔法を使ってくるのだけど、これが曲者だ。
「なんだっ!? みんな何処に行った?」
「うわっ、急に魔物が出てきたで!」
「大尉、何処ですか!?」
「訳わかんねえぞ! とにかくこの魔物どもを何とかしねえと大尉たちと合流もできねえ」
後方にいる遠藤大尉たちの方が魔法に抵抗し損ねたか。
ゼブラッドはああやって魔法で幻を見せて同士討ちを狙い、離れた場所でそれを見ていることを好む魔物だ。
悪趣味極まりないったらありゃしない。
まあ、幻を見せている間は集中していないといけないので距離を取っているという説もあるけどね。
「何やってるんですか!」
俺は声に魔力を乗せて彼らを一喝。
それだけで遠藤大尉たちは見せられていた幻覚の呪縛から解き放たれた。
「うおっ、アブねえ!」
「ちょっ!? 何しますねん」
「何がどうなって?」
「マジで訳わかんねえわ」
未だ混乱したままだが同士討ちは避けられた。
堂島氏は危うく遠藤大尉に斬り伏せられるところだったけど。
「ゼブラッドの幻覚攻撃です。幻を見せられて同士討ちするところでしたよ」
そう言っている間に真利がコンパクトボウで鉄球を放ってゼブラッドの眉間を撃ち抜いていた。
「意外だな。奴らは物理攻撃を魔法障壁で防ぐものだとばかり思っていたのだが」
英花が軽くではあるが驚いている。
ゼブラッドは近接戦闘を苦手にしているため魔法障壁で攻撃を防ぐからだ。
故に倒しにくい難敵として異世界でも厄介がられていた。
「鉄球攻撃は見えづらいから魔法障壁を展開してなかったんじゃないのかなー?」
「油断したということか。あり得ない話ではないな」
英花も納得したみたいだ。
ゼブラッドは敵の接近を許すと魔法障壁でガチガチに防御しつつ風刃を使ってくるから油断ならないんだけど、鉄球攻撃が有効なら楽に倒せるかもね。
その後もゼブラッドと何度か遭遇したけど鉄球だけでなく魔法も有効だった。
アイツら自分でも使うのに風刃で攻撃されても無防備なんだよな。
魔法を妨害した時もまるで抵抗がなかったし、ゼブラッドは魔法を使う割に魔力が見えてない。
ちなみに遠藤大尉たちもさすがに幻覚攻撃にはかからなくなった。
ゼブラッドの魔法も無防備でなければ抵抗できる訳だ。
これは調査終了後に許可されて入ってくる冒険者たちにとって有益な情報となるだろう。
あとドロップアイテムだけど、魔石と馬肉だった。
異世界でもゼブラッドからドロップした馬肉は食べたことがないので初めて食べることになる。
聞くところによると馬肉は一度食べると病み付きになるそうだ。
馬刺しとか舌の上でとろけるらしい。
それでいて焼けば脂を感じつつもあっさりしたところもあるというし、どんな味がするのか今から楽しみだ。
その後も3層を回っていたところ階下への階段を発見した。
時間もまだ次の階層を探索する余裕はある。
ということで4層へGOだ。
「ここはホンマ結構な広さの割に階層が深いですなぁ。何層まであるんやろか」
階段を下りながら堂島氏がなかばボヤくように言った。
「何層あるかはわからんが上級者向けのダンジョンってことなんだろうぜ。向こうがそんなことまで考えてダンジョンを構築しているのかは分からんがな」
氷室准尉が苦笑しながら相づちを打っている。
「2人とも緊張感が薄れていますよ。階層は深いほど強い魔物が出るんですから気を引き締めてください」
大川曹長が駄弁る2人に堅苦しい小言で注意を促す。
「「へーい」」
緊張感のない間延びした返事で応じる堂島氏と氷室准尉に大川曹長からジロリと鋭い視線が飛んだ。
ビシッと直立するときのように姿勢を正す両名。
別に階段で気がゆるむくらいは構わないと思うんだけどね。
階段を下りた場所の周辺まではセーフエリアなんだから。
気を引き締めるべきはセーフエリアを出るときだ。
場合によっては不意打ちで魔物の攻撃が飛んで来ることがあるからね。
ちょうど今みたいに。
カッ!
不意に固いもの同士が当たる音がした。
「何事だっ」
異変に気付いた遠藤大尉が声をかけてきた。
「結界の盾に敵の攻撃が当たっただけですよ」
「なにっ!?」
敵の姿が見えないためか、より警戒感を高める遠藤大尉たち。
敵の姿が見えないのは闇霧の魔法で姿を隠しているからだろう。
これは周囲を闇で包む黒色の霧を発生させる魔法だ。
暗闇の中で使って闇霧の中に姿を隠せば普通は視認できなくなる。
ただ、魔力まで隠蔽する魔法ではないので闇霧を使っているのが丸分かりだけどね。
だから結界の盾を使って様子を見たのだ。
こうして話をしている間も石弾が次々と飛んで来る。
その度に結界の盾が弾き飛ばすので俺たちにはひとつも届いてはいない。
まあ、上級免許持ちの冒険者でもやられる恐れはあるかな。
この4階層では大きめの盾が必須になるだろう。
「魔法を使う魔物が続くねー」
結界の盾で防いでいるおかげで真利はのんびりしたものだ。
「ここはそういうダンジョンなんだろうさ」
「魔法を使う馬型の魔物には何がいたかな」
英花は石弾を飛ばしてくる魔物を馬限定で考えているみたいだな。
あまり先入観を持って考えるのもどうかと思うけど、今までがすべて馬つながりだったから無理もないか。
その答えを知るには、まず闇霧をどうにかしないとね。
読んでくれてありがとう。
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