351 罠は攻略の鍵だった
マッドポニーは何度か襲いかかってきたが所詮はオーク相当の魔物。
ネージュが飽きるまでは鎧袖一触で狩っていたし、その後は俺たちが戦ったけど実力を隠してなお余裕の相手だった。
「なんだろう? 魔物の配置に偏りがある気がするんだけど」
「だよねー。奥に行くほど増える傾向にあるような気がするよー」
「我々を奥に行かせたくないようだな」
歩きながらそんな話をしているとネージュが興味を持った。
「ほほう、それは面白い」
そう言って足を止める。
「ならば奥に行かせたくない原因を突き止めようではないか」
例の微細な氷を周囲に展開させる探知魔法を使い始めた。
今日は耐寒装備として冷気を遮断する魔道具の指輪を装備しているので寒くはならない。
後ろから付いて来る自衛軍の面々は軍人なので我慢してもらおう。
堂島氏は民間人で、とばっちりを受けた格好になるけどね。
「ほう」
「何か見つけたかい?」
「階段を発見した。そこを中心に魔物が配されているようだぞ」
ネージュの言葉に背後が騒がしくなる。
主に大沢少尉のチームが。
あり得ないとか否定的な意見を口々に言っているが。
「静かにしろ」
という大沢少尉の一言で口をつぐんだ。
「距離は?」
「数分も歩けば到達するであろう」
という訳で移動を再開。
マッドポニーが何頭も現れたが立ち尽くしたまま動かなかった。
人を見れば突進してくると言われる魔物であるにもかかわらずだ。
まあ、これはネージュが露払いとばかりに進行方向への冷気を強めて凍らせていたからなんだけど。
「凍っただけだと死亡扱いにならないんだねー」
真利がそう言いながらマッドポニーを押し倒す。
仮死状態だったマッドポニーが倒れて粉々に砕けるとドロップアイテムになった。
オークと同等の魔石は結構な値で売れるので回収は必須だ。
回収しきれなくなったら品質の良いものを残して魔石アタックで使用するけどね。
あとは馬革と馬の毛が残ったけど放置決定。
すでに何点か集めているし、2層以降の魔物のドロップアイテムを回収できなくなると困るし。
とにかく魔物に煩わされることなく階段の前までやって来た。
昨日、ミケと念話で話したとおり装飾された入り口を持つ階段だった。
ひとつ異なるのはコンクリートで埋めたようにはなっていないということである。
「階段発見。これで2層があるのは確定しましたね」
背後を振り返るが反応は真っ二つに割れた。
「珍しい階段だな。派手な装飾じゃないか」
と言う遠藤大尉に対し──
「何処に階段があると言うのだ?」
と不思議そうに聞いてくる大沢少尉。
そのため2人で顔を見合わせる格好となった。
その直後から互いのチームで言い合いに発展していくが、双方共に譲らない。
そりゃそうだ。
どちらも相手が事実を誤認していると思い込んでいるからね。
それでも遠藤大尉が命令したことで全員が口をつぐんだ。
「張井、どうなってるのか心当たりはあるか?」
何かおかしいと感じたらしい遠藤大尉が俺に聞いてくる。
「要するに転移トラップのクリアが階段を出現させる魔法の鍵がわりになっているんじゃないですかね」
「それは、その階段が魔法的な効果で隠されていたという解釈で合っているのか?」
「隠すと言うよりは封印でしょうかね。とにかく試練を越えた俺たちや遠藤大尉のチームは進む資格ありということで階段が現れたんだと思います」
「一緒にいても試練をクリアしていなければ階段は姿を現さないということか」
「ええ。魔法的な効果だからこそ個別に判定されるんでしょうね」
大沢少尉たちがどよめき重苦しい空気に包まれていく。
「2層へ向かうにゃ試練に挑めってことか。面倒くさいことを考えるダンジョンだな」
氷室准尉が苦笑しながら愚痴る。
「魔法が使えて相応の実力があれば、さほど難しくはないでしょう。魔石アタックも使えますし」
「簡単に言ってくれるじゃないか。昨日、あのマラソン討伐をやってみて思ったが楽ではなかったぞ」
やさぐれた雰囲気を出しながら愚痴る氷室准尉。
「それは早く帰るために無理をしたからですよ」
本来であればマラソンしながら魔物を倒していく必要などない。
あくまで帰還が遅くならないよう速いペースで脱出条件をクリアするためにとアドバイスしたことである。
やらなきゃ日付をまたいで騒ぎになっていたことだろう。
だから、氷室准尉の言うマラソン討伐は昨日に限って言えば必須条件だったのだ。
「休憩を適宜はさみながら、じっくり挑めば日帰りでクリアできると思いますが」
「張井の言う通りだな。昨日は性急すぎた」
遠藤大尉が苦笑しながら言った。
「大尉、無茶をされますね」
大沢少尉がジト目を向けているが、どういう状況だったのかは聞いていなかったようだ。
であれば常識的に考えて呆れられるのも当然と言える。
精神的プレッシャーのかかる閉鎖空間でタイムアタック攻略などゲーマーの発想だからね。
実際に実行した場合はワンミスが命取りになりかねなかったりする。
命知らずと思われても仕方がない。
「昨日のうちに確認しておきたかったからな。それに、あれ以上遅れていたら少尉が派手に動きかねなかったと思うんだが」
派手の動くとは本部に応援要請とかだろうか。
「それは当然です。無事に帰ってこられたとはいえ無茶をしているんですから。罠の脱出条件の確認など翌日に持ち越せば良かったんです。皆どれだけ心配したと思っているんですか」
遅い帰還を責める大沢少尉。
小言を聞かされる遠藤大尉は両手で耳をふさいでいる。
子供かよ。
「とにかく少尉は罠をクリアしてくるんだな。条件は昨日伝えたとおりだ」
「閉鎖空間に行くには入り口から左手沿いに進む。脱出は外周部を5周しつつ魔物を50体倒す」
「そうだ。今からなら日が暮れるまでに終わらせられるはずだ」
「それは命令ですか?」
どうやら大沢少尉は不服がある様子。
チームメンバーである部下の負担を考えているのかもしれない。
「別に命令はしないけど、2層に下りられないんじゃ満足に報告もできないぞ」
「ぐっ」
遠藤大尉は生真面目そうな大沢少尉の性格を上手く利用しているね。
そんな訳で俺たちは大沢少尉のチームと別れての行動となった。
まだ遠藤大尉のチームが残っているけどね。
こんなことなら昨日の転移トラップへの突入を何がなんでも阻止しておくんだったよ。
そうすれば自由に探索できたのに。
2層でも同じようなトラップがないものかね。
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2層に下りて最初に遭遇した魔物は馬男だった。
ミノタウロスの馬バージョンとでも言えばいいのか二足歩行で手は人間と同じように5本指。
日本でなら牛頭馬頭の馬の方と言われるんだろうけど外国で最初の目撃情報があったためホースマンという名称がつけられている。
ちなみに異世界でもホースマンだった。
ミノタウロスと比較した場合、膂力は劣っている一方で素早さでは勝っているため戦闘力はほぼ同等と言われている。
「奇妙な魔物もいたものだな」
ネージュが蹴り飛ばして一撃でドロップアイテムになってしまったのは御愛敬。
ホースマンもまさか人化したドラゴンを相手にすることになるとは思っていなかっただろうな。
読んでくれてありがとう。
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