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35 警備主任を召喚

「今日は屋敷の守護者を召喚だ」


「ゲートは設置しないの?」


 ワクワクしながら聞いてくる真利。

 気が急いているという自覚はなさそうに見える。


「焦るな。何事も順番だし確認も大事だぞ」


「うん、わかった」


 素直ではあるな。


「涼成、何を召喚するか決めたのか」


 英花が聞いてきた。


「ニャーの後輩ですニャン。興味津々ですニャ」


「私もー。召喚って初めてだもん」


「んー、まだ迷ってるんだよなぁ」


 みんな俺に丸投げしてくれたからさ。


「候補はあるのだろう? そういうのは苦手だから涼成に任せてしまったが」


 言い訳を付け足して聞いてくる英花。

 一応は丸投げした罪悪感を感じているらしい。


「あるにはあるんだけどな」


「迷うということはいくつも候補があるんだね」


 無邪気に聞いてくる真利に罪悪感はなさそうだ。

 ゲーマーの知識を参考にしたかったんだが逆に選択肢を狭める恐れがあるとか言われてしまったし。


「いいや、ひとつだ」


「それなら迷う必要は無いですニャン」


 コイツはコイツで「何でもいいですニャ」とか言ってたし。


「本当にいいんだな」


 ミケに顔を近づけながら確認する。


「えっ、なんでニャーに聞くんですかニャ!?」


「そりゃあ、相性の問題がありそうだからなぁ」


「へ? 相性ですかニャ?」


 ミケはキョトンとした顔になって俺を見返してくる。


「何のために召喚するか思い出してみろ」


「えーっと、真利様の屋敷を守るためですニャ」


「そうだよな。日本じゃ昔から家の番をするのは犬だと相場が決まっている」


「犬ですかニャー」


 ようやく理解したようでミケが渋いような迷うような表情を見せた。


「検討していたのは犬じゃなくて狼だけど、見た目はそんなに変わらんだろう?」


「なんだか激しそうなのが来そうですニャ」


「さあ、どうだろうな。穀物を守護する精霊だったはずだから元農家にはピッタリだと思うんだがな」


「ニャー、アイツらですかニャン」


「知ってるのか」


「よその世界だと信仰の対象になってたせいか農地のある所には何処にでもいましたニャン」


「へー」


「でも、召喚された訳じゃニャいから人間には見えていませんでしたニャー」


 それはますます信仰の対象になるだろうな。

 俺は警備主任として雇うつもりで召喚するから、そういう感覚は全然ないのだけど。


「信仰心がないとヘソを曲げるとかないよな」


「ありませんニャ。アイツら、頼ってこない相手はシカトするだけですニャ」


 種族的に身内以外にはドライな性格をしているらしい。

 そう考えると狼っぽい気がするね。

 召喚したらどうなることやら。


「で、仲間としてやっていけそうか」


 俺が懸念しているのはそこなのだ。

 年がら年中いがみ合うような関係性では俺たちの方が休まらない。

 屋敷を守らせるために呼び寄せた結果がそれでは、たとえ不法侵入者に対処できても意味がない。


「それは何とも言えませんニャー。話の合う奴もいればケンカ腰で向かってくる奴もいるですニャ」


 個体差があるということか。


「召喚するなら後は運を天に任せることになりそうだな」


「それは構わないんだが、結局のところ何を召喚するつもりなんだ?」


 しばらく沈黙を守っていた英花が聞いてきた。


「おお、スマン。精霊のコルンムーメだ」


「精霊? そんなのが屋敷を守れるのか?」


 英花は何か勘違いをしているようだ。

 この様子だと精霊は霊体でしか存在できないとか思ってそうだな。


「召喚すれば受肉した状態で顕現するから問題ないぞ」


「そうだったのか!? よく知っていたな」


 やはり知らなかったようだ。


「向こうで書庫の書物を片っ端から読んだからね」


 だからこそコルンムーメのことも知っていたのだ。

 人のことを散々利用しておいて生け贄にされかけた異世界に良い思い出などないが、色々と経験や知識を得られたことだけは評価してもいい。


「よく許可されたな」


「知識があれば魔王討伐もスムーズに進められると主張したんだよ」


 本音はサボりという名の息抜きがしたかっただけだがね。


「私もその手を使えば良かったな」


 などと言いながら英花が苦笑する。

 軽口を叩けるようになったのは異世界のトラウマを少しは払拭できているのだろうか。

 だとしても、今もなお勇者扱いはダメだと思う。


 なんにせよ召喚だ。

 これでダメならしばらく頭を悩ませることになるだろう。

 来るものすべてを追い払おうとするようなのは不要だからね。


 その点、コルンムーメは人間との交流があったという伝承もある。

 中には人化して応対ができたという資料もあった。

 眉唾物の情報ではあるが、もしそれができるなら安心して留守を任せられるだろう。


「それじゃあ、始めるぞ」


 真利のパワーレベリングをしている途中からコツコツと準備を重ねてきたので是非とも成功してほしいところだ。

 俺たちとの相性が悪かった場合、一からやり直しということになる。

 それだけは勘弁願いたい。


 とにかく仲良くやってくれそうなのが来てくれることを強く願いつつ召喚の準備に入った。

 魔法陣の外側に俺たち全員が並ぶ。

 ミケを召喚するときは英花と相対することしかできなかったが、今回は真利とミケがいるからな。

 強く願う気持ちも反映されやすくなっているはずだ。

 それを信じて儀式魔法を完遂させる。


 魔法陣がまばゆい光を放ち召喚がなされた。

 徐々に光が希薄になっていき魔法陣の中に影が現れる。

 それはワラの色をした毛並みの狼であった。

 今回は俺の方を向いているために眩しさがなくなるのとほぼ同時に目が合った。


「聞こえるな。俺の言葉がわかるか?」


 薄茶の狼がコクリと頷いた。


「召喚されたことに不服があるなら契約はしない。我々と契約するか?」


 狼はすぐには返事をせず、その場でぐるりと回った。

 俺以外の面子もちゃんと見てから決めようということか。

 再び俺と視線を交わした狼はコクリと頷いた。


「随分と無口だけど言葉は喋れるよな」


「必要とあれば」


 涼やかな女の声で、ようやく返事があった。

 どうやら寡黙なタイプのようだ。


「皆もいいか」


「ああ、いいと思う」


「私もいいよ」


「ニャーも異議なしですニャ」


 そうなると契約を完了させるために名付けが必要だ。


「名前か……」


 コルンムーメを召喚するかどうかで悩んでいたために、そこまで考えていなかった。


「それならば稲穂はどうだろう。日本で穀物と言えば稲だからな」


「私はつなぐイメージの紬がいいと思うな。あと麦にもかけてる」


 どうしたものかと思っていたところに英花と真利の2人から提案があった。

 イナホにツムギか。

 日本なら稲の方が馴染み深いのでコルンムーメも守護するなら稲の方かもしれない。

 けれども紬の名にはムギが入っているというのも考えられていると思う。


「どっちがいいと思う?」


 ならばということで名付けを待つ狼に尋ねてみた。

 これならば名付けられる当人が選び決めることなので恨みっこなしとなる。

 そう思ったのだが……


「どちらも良い」


 などと言われてしまってはどうしようもない。

 ならば俺が悪者になる覚悟で決めるしかと考えたところで閃いた。


「姓は稲穂、名は紬で稲穂紬とするのはどうだ?」


「イナホツムギ……、それがいい」


 こうして契約は完了した。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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