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346 閉じ込められた?

「つまり、どういうことだ?」


 氷室准尉が困惑の表情で尋ねてきた。


「たぶんダンジョンの閉鎖区画にでも飛ばされたんでしょうね」


「飛ばされただって!? そんなの何も感じなかったぞ!」


 氷室准尉が素っ頓狂な声を出して目を丸くさせている。


「ダンジョンに入る際に違和感を感じますか?」


「いや。けど、それがどうしたって言うんだよ」


「ダンジョンは明らかに別空間ですよね。ある意味、飛ばされている訳ですよ」


 これには氷室准尉だけでなく向こうの面子全員が驚きをあらわにしていた。

 今さら気付かされましたなんて顔をされてもなぁ。


「トラップに引っ掛かったということか」


 表面上だけは平静を取り戻した遠藤大尉が確認してくる。


「そうなるでしょうね。まだ確証を得た訳じゃないですけど、かなり高い確度で疑いを持ってます」


「それにしたって閉鎖区画ってどういうことですか。これにも何かの根拠があると言うのですか」


 抗議するように言ってきたのは大川曹長だ。


「おや、そっちではマッピングしていないんですか?」


「していますが、それが何か?」


 何か嫌な予感でも感じたのか、大川曹長のトーンが下がっている。

 それでも抗議の姿勢は崩すつもりがないようだ。


「こっちの地図ではそろそろ入り口に戻っても良さそうな感じなんですけどね」


「まだ空白地帯があります。この先、何があるかわからないではないですか」


 強気だね。

 無理に強がっているようにしか見えないけど。

 それだけ不安なんだろう。

 脱出できるかもわからない場所に閉じ込められて平静でいられる人間はそうはいないからね。

 堂島氏は不安そうにしているし、遠藤大尉や氷室准尉は強張った面持ちだった。

 プロの軍人でさえ動揺を隠しきれていない。

 場数を踏んでいれば少しは変わってくるだろうけどね。


 ただ、真利という例外もいる。

 実にあっけらかんとして不安など微塵も感じているようには見えない。

 状況を理解できていないのか俺や英花に全幅の信頼を置いているのかのいずれかだろう。

 おそらくは後者だ。

 真利はバカではないからね。

 厳密に言うなら俺や英花の異世界での経験を信じているというところか。

 遠藤大尉たちとはそういう信頼関係がないから向こうが俺たちを信じて大船に乗った気でいることはできまい。


「可能性を信じるのは結構ですけど、こういう時は最悪の事態を想定して動くのが基本ではないですか?」


 大川曹長にそう言い返すと、うっと短く言葉に詰まって反論できなくなった。


「涼成の言った通り、ここは閉鎖された場所だな」


 不意にネージュが断言した。


「ずいぶんと自信満々だね」


 俺がそう声をかけるとネージュはフフンと鼻を鳴らしてドヤ顔になった。


「微細な氷の粒を奥まで広げて確認したから間違いないぞ」


 道理でさっきから肌寒くなってきたと思ったよ。


「すごいのは認めるけど寒いから自重してくれないか」


「そういうと思ったから、ついさっきまで我慢しておったのだ」


「そりゃどうも」


 俺たちの掛け合いを唖然とした様子で聞いている遠藤大尉たち。


「……おっ、おいっ、閉じ込められたんだろ? なんでそんなに落ち着いていられるんだよ!?」


 思い出したように我に返った氷室准尉が前のめり気味に聞いてくる。


「ダンジョンだって出口があるじゃないですか」


「そりゃそうかもしれねえけどさ」


「出口はきっとありますよ」


「楽観的やなぁ」


 今度は堂島氏が呆れた様子で嘆息しながら言った。


「悲観的だと体が硬くなってパフォーマンスが落ちますからね」


「そうかもしれへんけど。初見の罠やろ。動揺するなちゅう方が無理あるで」


 堂島氏の言葉に遠藤大尉がわずかに反応した。

 俺たちに何かしら疑念を抱いたってところかな。


「転移罠は堂島氏も初めてじゃないんだけど?」


「はあっ!? なに言うてんねん。こんなん初めてやて」


「車に乗っているときに隠れ里に飛ばされた覚えがないと?」


 そう問いかけると、記憶が蘇ったのか一瞬だが言葉に詰まる。


「あれはなんか変や思た直後から記憶がないねん。ノーカンや」


 誘い込まれた直後に眠らされたのではカウントできないと主張するのも無理はないか。


「なるほど。ただ、俺たちは転移罠に自ら飛び込んでも気を失わなかったのでね」


「せやけど張井さんらかて、あの時だけやんか」


「入るときと出るときの2回かな」


「でなきゃ堂島氏の救出に向かうなんてできなかったし」


「あん時は世話になったわ」


 ばつの悪そうな顔で礼を言われた。


「あと、その前にドワーフやエルフの隠れ里へ飛ばされてる」


 ということにしておこう。

 現場にいなかった面々にはわからないのだし、ここでカウントを増やしておけば少しは場数を踏んだことになるからね。


「それにしたって経験豊富って訳じゃないだろう」


 堂島氏を静かにさせたと思ったら氷室准尉までもがツッコミを入れてきた。

 遠藤大尉以外には疑念を抱かれていないみたいなので意図的に揺さぶりをかけている訳ではないのだろうけど。


「さっきも言いましたが、普通にダンジョンに入るのと変わりませんよ」


 面倒だけど、そんなことで動じたりはしない。

 この世界で誰よりもダンジョンのことを知っているという自負があるからね。


「俺たちはダンジョンに入るたびに別空間に飛ばされているという認識でいますから」


「おいおい、物騒なことを考えないでくれよ」


 氷室准尉がブルッと身を震わせる。


「そしたらあれか? ダンジョンに入った途端に今回みたいなことになる恐れだってあるのかよ?」


「さあ、どうでしょうね? そんな話は聞いたことがないですから大丈夫なんじゃないですか」


「お前ら、よく平気でいられるな……」


「入ったなら出られるものですよ」


「そうは言うが、ダンジョンで行方不明になる者もいるんだぞ」


「氷室さん、それ魔物と戦ってやられただけやと思いまっせ」


「今の話からすると、そうとは限らなくなってきただろう」


「気にするだけ無駄ですわ」


「お前が言うな」


「ハハハ、ダブスタでしたなぁ。せやけど今は脱出のことを考えた方がええんとちゃいますか」


「そんなものは逆順で戻ればいいだけだろう」


「罠にかかってるんでっせ。そない簡単にいく思たらあきまへんわ」


「なにっ、どういうことだ?」


「一方通行になってる罠やったら脱出方法は探さんとあきまへんがな」


「大事じゃないかよ」


 氷室准尉は自身が考えているよりも状況が悪いかもしれないことに思い至ったのか慌て始める。


「まだ、そうと決まった訳やおまへんで。事実を確認してショック受けんよう覚悟しとかなあきまへんけどな」


「シャレになってねえよ」


 愚痴りはしたものの氷室准尉の顔つきが変わった。

 万が一の時の覚悟を決めたようだ。


「張井、それでどうするんだ?」


 遠藤大尉が聞いてきた。


「とりあえずマップを完成させますよ。実際にすべてを見て回るのは大事です。何かしらヒントがあるかもしれませんし」


「なるほど。じゃあ、そんな感じで行っちゃおう」


 あっさり俺の方針を否定することなく探索の続行を軽い言葉で決定する遠藤大尉。

 明らかにピンチなのに軽いよなぁ。

 こういうタイプの方が逆境に強かったりするんだけどね。


 そうして探索は再開したのだけど……


「やっぱりループしてるな」


 マッピングでも閉じ込められたことが確定した。

 おまけにヒントになるようなものも見つけられていない。

 さて、どうやって脱出するかだな。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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