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345 次も馬ですよ?

「魔力を込めた攻撃だとすぐに片付く雑魚でしたっと」


 背後に振り返って歩み寄ってきていた遠藤大尉たちに報告する。


「瘴気のよどみも感じなかったから間違いなくアンデッドじゃないねー」


「見た目はグロテスクだったがな」


「だから違うと言ったであろう」


 真利や英花の言葉にフンと鼻を鳴らすネージュ。


「えー、アンデッドって言ったのは私じゃないよー」


「それは向こうの面子だな」


 英花が遠藤大尉たちの方を見る。


「いや、言ったけどよ。未だに信じ難いんだが」


 とは氷室准尉だ。


「魔法が使えん奴は瘴気の有無もわからんのか」


 ネージュは呆れているが必ずしもそうとは言い切れないんだよな。


「瘴気て言われても、そんなん感じたことないさかいわかりまへんのや」


 堂島氏が言うようにアンデッドと遭遇したことがないせいで感覚がわからなかったりするのだ。

 こればっかりは再現できないからなぁ。


「知らん。そんなとこまで面倒見切れぬ」


 バッサリ切り捨てられて堂島氏は苦笑するばかりだ。


「張井、ちょっといいか」


 会話が途切れたのを見計らって遠藤大尉が話しかけてきた。


「何です?」


「敵の魔法攻撃が途中で消えただろう。あれは何をしたんだ」


 遠藤大尉だけでなく氷室准尉たちも気になるらしく一斉に視線が集まる。


「これのことですか?」


 まだ消していなかった結界の盾を遠藤大尉たちの前に移動させた。

 半透明なので距離があると視認しづらいが間近で見ると盾の形状が判別できる。

 そのせいか氷室准尉や大川曹長はギョッとしていたし、堂島氏はあんぐりと口を大きく開けていた。

 遠藤大尉だけが興味津々で観察し始めている。


「ガラス?」


 首をかしげながら結界の盾をコンコンとノックするように叩く遠藤大尉。


「じゃないよな。これは何だ?」


「魔法を防ぐために作った盾ですよ。御覧の通り、ある程度は物理攻撃も防ぎますけど」


「魔法で作ったってことだよな」


「そうですね。敵の攻撃を防ぎたいというイメージを盾の形に集約させた感じです」


「ほとんど透明なのは何故だ?」


「敵が気付かず真正面から魔法を撃ち込んでくれるからですよ」


「エグいな」


 呆れた様子で声を漏らしたのは氷室准尉だ。


「あと近くだと視認できるので受けやすいし攻撃もしやすいです」


「君らは本当に面白いなぁ」


「そうですか? ちょっと工夫しただけですよ」


「そこがいいんじゃないか。目潰しだったり魔石アタックだったり、本当に楽しませてくれる」


「別に遠藤大尉を楽しませたくて工夫している訳じゃないですよ」


 そんな話をしながらドロップアイテムが落ちたあたりに行ってみたのだが……


「うわー、外れかぁ」


 グロテスクで怖そうな見た目に反した小さい魔石しかなかった。


「魔石だけだねー」


 真利も落胆している。


「ゴブリンのものよりは質が良さそうだが思ったほどではなかったな」


 英花は俺たちほどではないが、やはり落ち込んでいる。

 あまり稼げないかもしれないという思いが脳裏をかすめたからだろう。


「それでも持っていくのだな」


 ネージュが確認してくる。


「調査目的だからサンプルは必要だろう?」


「そういうことか」


「それと魔石アタックで使える」


「何だ、それは?」


 さすがのネージュも魔石アタックについては知らなかったようなので説明しておいた。


「つまり、次にホースヘッドが現れたときに使えば魔力の節約になると言うのだな」


「そゆこと。倒せばサンプル用の魔石も回収できるから問題ナッシングって訳。あと荷物を増やさずにすむってのもある」


「ちゃっかりしとるのう」


「省エネで戦えば調査も継続しやすいから、そうしているにすぎないよ」


 こんな具合にゆるい空気を放ちつつ探索は続く。

 次に遭遇した魔物は……


「首だけの次は首なしかよ。ヘッドレスホースってところかね」


 首が切られた馬の魔物で雑な切断面から血を滴らせているグロテスクな見た目をしていた。


「これも報告になかった魔物だな」


 俺と英花はこんなことを言っているが実は異世界で見たことがある魔物だ。

 突進からの体当たりをしてくる魔物だが厄介なのは近づくと血を噴射してくるところである。

 これを浴びてしまうと高確率で熱病を発症することになるからね。

 俺たちは耐性があるから何ともないけど、血なまぐさいニオイが染みつくのは嫌だから速攻で倒すに限る。


「レアものを引き当てるねー」


 言いながら真利がコンパクトボウで切断面を狙う。

 鉄球が命中し血が噴き出した。


「うわぁ、グロいねー」


 顔をしかめながらも次弾を準備する。

 その間に俺は風刃で前脚を狙った。

 走り出していたために派手に転んだが、まだ距離がある。

 今のうちにトドメを刺しておくのが吉だな。


 という訳で英花がヘッドレスホースに野球のボール大の火球を放った。

 火球は切断面に着弾し一気に全身へと燃え広がる。


「なっ!?」


 驚きの声を上げたのは背後で観戦していた大川曹長だ。

 火球のサイズに見合わない燃え広がり方をしたからだろう。

 大川曹長が同じことをしようとした場合、放つ火球のサイズはヘッドレスホースとほぼ同じになるはず。


 これは彼女の魔法制御がまだまだ甘いからだ。

 だから魔力を無駄に消費するし威力も低いんだよね。


 なんにせよヘッドレスホースは立ち上がれぬまま消し炭のような姿になり果てた。

 そして、消滅しドロップアイテムへと転じていく。

 残ったのは魔石と馬革だ。


「ホースヘッドよりはマシかな」


「こういうのを五十歩百歩と言うのであろう」


 俺の独り言に反応したネージュがそんなことを言った。


「ネージュにしてみれば何でも雑魚になってしまうからそう思うんだろうけど、一般の冒険者にはどちらも脅威だぞ」


「そういうものか」


 未だに緊張感がない会話が続くのは敵の気配が把握できているからだ。

 もう少し進めば、おそらくホースヘッドが複数いる。

 その先もホースヘッドだ。


 気付かないふりをしてダンジョン左手の法則を維持したまま探索を続けた。

 結構奥まで進んで魔物との戦闘も何回か繰り返したのだけど途中からずっと違和感を感じている。

 その違和感は魔物と戦うごとに強くなっていく有様だ。

 そして、とうとう我慢できなくなり俺は足を止めた。


「涼ちゃん、どうしたのー?」


「さっきからずっと変なんだよ」


 足を止めた俺は背後を振り返った。

 離れてついて来ていた遠藤大尉たちが何か異変があるのかと小走りになって向かってくる。


「涼成もそう思うか」


 英花も表情を渋くさせている。


「変って何が? 怪しい気配はしないと思うんだけどー」


「そういう感じじゃない」


 たぶんダンジョンに入る前に報告のデータを確認していなかったら気付くのが遅れたと思う。

 そういう類いの違和感だ。


「どうした、何があった?」


 俺たちの前まで来た遠藤大尉が聞いてきた。


「このダンジョン、変なんですよね」


「変? 何が変なんだ?」


 真利と同様に遠藤大尉たちも気付いていなかったか。


「これだけ探索して魔物とも何度も遭遇しているのに大沢少尉のチームから報告のあった魔物とは遭遇していないじゃないですか」


 この説明で真利だけでなく遠藤大尉たちもハッとした表情を見せた。

 気付いてもらえて何よりだよ。

 それで問題が解決する訳じゃないんだけどね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] まんま首なし馬なんて妖怪は居るね あるいはどっかで乗ってるデュラハン落馬させたコシュタ・バワーか
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