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341 ネージュの狙いは?

「ちょっと待てぇい!」


 ネージュの待ったに待ったをかけたのは氷室准尉だった。


「おめえ何考えてんだっつの!? 俺たちゃオーガ相手でもギリギリだったんだぞ。それをはるかに超えるような化け物を倒しに行くって何の冗談だ。威力偵察だとしても無謀すぎるだろうが!」


「誰も貴様に手伝えなどとは言ってない」


「は?」


「昨日も1人で倒した。何も問題はない。黙って見物でもしておれ」


 その言葉には有無を言わさぬ迫力があった。

 殺気が乗っていたなら、どうなったことやら。


 何にせよ圧倒的な存在感で場を支配したのだけは間違いない。

 さすがはドラゴンと言うべきか。

 こうなっては誰も反論はおろか口を挟めるものではなく黙って次の行動を見守るしかできなかった。

 そもそも俺たちはネージュの行動に異を唱えるつもりなどなかったけどね。


 ネージュが少しばかり先に進んだところで立ち止まる。

 振り返ると遠藤大尉たちが固まったまま俺たちを見送る格好になっていた。


「何をしておるか。行くぞ」


 ネージュが声をかけると凍り付いていた遠藤大尉たちの時間が再び動き出した。

 遠藤大尉は腹をくくったのか引き締まった顔つきになる。


「続くぞ」


 短く指示を出し返答を待たずに前へと進む。

 特に抵抗も見せずに大川曹長が続いた。

 それを見た堂島氏もすんなり歩き出す。

 氷室准尉は苦虫を噛み潰したような顔でガリガリと頭をかいたかと思うと──


「どうなっても知らねえぞ」


 愚痴ってから後を追う格好になった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「デケえ……」


 開けた場所が見えるところまで来たところで不意にそれは出現したように見えた。

 氷室准尉が思わずそう漏らしたくらいオーガジャイアントには初めて見る者を圧倒する大きさがある。


「なんでこないなデカブツが今の今まで見えへんかったんや?」


 堂島氏の疑問は至極もっともだ。


「見えたらボスを倒そうと思う奴が減るからだろうな」


「つまりダンジョンが遠くからは見えないようにしているということですか」


 遠藤大尉の推理を大川曹長がやはり推測で補足する。


「そない悠長なこと言うてる場合やおまへんで。こんなん、さっさと逃げんとヤバいなんてもんとちゃいますて」


「だから俺は反対だったんだ」


 堂島氏と氷室准尉は速くも逃げ腰である。


「ゴチャゴチャとうるさい奴らだ。まだアレは動き始めておらぬだろう」


 呆れた様子で溜め息をつくネージュ。


「ここでも近寄らないと戦闘が始まらないというのか」


 またしても正解した遠藤大尉だ。

 クイズ番組ではないので正答しても何も貰えないけどね。


「そういうことだ。貴様らはここで見物しておれ」


 ネージュはそう言うと一瞬でオーガジャイアントと距離を詰めた。

 ワンテンポ遅れてオーガジャイアントが咆哮する。

 わかりやすい戦闘開始の合図だな。


 初手は意外にもオーガジャイアントの方であった。

 ネージュを踏みつけようと片足を振り上げ、そのまま勢いよく踏み下ろす。

 離れた場所にいる俺たちの方にまで地響きが伝わってくるが結果は空振りだ。


「その程度で踏み潰せると思うたか」


 フンと鼻を鳴らすネージュはバックステップで軽くかわしていた。

 これくらいなら遠藤大尉たちにも可能なはず。

 間近で体験するとかなりの迫力だから生きた心地はしないだろうけど。


「よく平気でいられるな。見てるだけで寿命が縮みそうだってのによ」


「ホンマですわ。あんなんが続いたら命が幾つあっても足りまへんがな」


 氷室准尉と堂島氏は早くも戦意喪失している。

 その間もネージュは自分から攻撃はせずオーガジャイアントの踏みつけ攻撃をひたすらかわしていた。


「変ですね。彼女、回避しかしていませんが」


 最初に違和感を感じたのは大川曹長のようだ。


「どういうつもりだろうな? 何か意図があると思うんだが」


 遠藤大尉も疑問は感じたもののネージュの意図はつかみかねている。


「まるでゲームで舐めプしてるみたいですわ」


「何だ、その舐め何とかって?」


 堂島氏の独り言に気になる単語があった氷室准尉が問いかける。


「舐めプ、舐めたプレイの略ですわ。格下相手に手抜きしながらも翻弄するプレイをすることなんですけどね。嫌われますよって、そうお目にかかることもおまへんな」


「そりゃそうだろ。何様だってならぁな」


「だが、お嬢はそれを実戦でやっている訳か」


「オーガジャイアントが苛立ちそうですね」


「いやいや、そんなんする必要ありませんやん」


 普通はそうだが、ネージュには明確な意図がある。

 だからオーガジャイアントの攻撃がどれだけ苛烈になっていこうと回避するに留まるのだ。

 大川曹長が言ったように苛立っているのがよくわかる。


「頃合いか」


 ネージュがそう呟いたが、それを聞き取れたのは俺たちだけである。

 遠藤大尉たちでは何かを呟いたことにすら気づけなかったことだろう。

 だからネージュが急に姿を消すと──


「「「「なっ!?」」」」


 驚きに目を見張り固まってしまう訳だ。


「オーガジャイアントの後ろですよ」


「驚いたぜ。あれじゃあ瞬間移動って言われても不思議じゃねえな」


 目を丸くさせたまま遠藤大尉がそんな感想を漏らした。

 その気になればネージュも転移魔法は使えるが今のは急加速しただけである。


「縮地のスゴいバージョンとでも言うたらええんやろか」


「何だって構わねえよ。俺たちに真似できるもんじゃねえんだからよ」


 氷室准尉は頬を引きつらせているが、そこまで衝撃的だったのだろうか。

 今ぐらいのスピードで動くのは俺たちにも可能なので、うっかり加速してしまわないように注意しないといけないな。


「オーガジャイアントも面食らったようですね」


 大川曹長の言う通りキョロキョロと視線を動かしネージュの姿を探している。


「あの状態でも攻撃はしないんだな」


「そのようですね。何かはわかりませんが彼女なりに考えがあるのでしょう」


 疑問を感じた遠藤大尉の言葉に大川曹長が同意しつつ自分の見解を述べた。


「お前らは嬢ちゃんが何をしたいのかわかるのか?」


 その話に耳を傾けていた氷室准尉が俺に視線を向けたかと思うとストレートに聞いてきた。


「ええ、まあ。見ていればわかりますよ」


「左様」


 不意にネージュが目前に現れた。


「うおっ!」


 氷室准尉が大きな声を出してしまい「しまった!」という顔をした。

 遠藤大尉たちは声こそ発さなかったもののギョッとした表情で驚いている。


(何なんだよっ、敵前逃亡か!?)


 声を潜ませオーガジャイアントに注意を払いながらネージュに抗議する氷室准尉。


「あれをよく見よ」


 ネージュがオーガジャイアントを指差す。

 全員の視線がそちらに向いたのだが。


「何やて?」


 訳がわからないという顔をする堂島氏。

 それもそのはず。オーガジャイアントはゆったりした動作で最初に立っていた場所に戻ったからだ。


「敵を見失うとああするのでしょうか」


「いや、違うな」


 大川曹長の見立てを否定する遠藤大尉。


「見失っても探そうとしていた。おそらく敵が一定範囲外に出てしまうと待機状態に戻るんだろう」


「その通りだ。これならお主らも一度はアレの前に出られるのではないか」


 遠藤大尉の推測を肯定したネージュが意地悪な提案をする。


「じょっ、冗談じゃねえ。あんなのをまともに相手しようなんて奴の気が知れねえよ」


 氷室准尉が慌てて拒否った。

 まあ、今のレベルの彼らではオーガジャイアントに攻撃はまともに通らないから逃げ回るしかなくなるし無理からぬことか。


読んでくれてありがとう。

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