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340/380

340 工夫すれば大したことはない

「それじゃあ、サクッと終わらせますか」


「ああ。いつでもいいぞ」


「援護は任せてねー」


 英花と真利もいつものノリで準備万端。

 もちろん俺も魔法の術式構築はすでに完了している。

 こちらのタイミングで戦闘を始められるのは実に楽だ。


 向こうが待ちの体勢を崩さないのは絶対の自信があるからなんだろうか。

 遠藤大尉たちがこの青オーガとパワープレイで戦えば万全の状態で挑もうとも苦戦は必至となるくらいの相手であるのはわかるんだけどね。

 ただ、それはあくまで真正面から戦えばの話である。


「参る!」


 英花がダッシュした。

 が、先程のネージュとは比べるべくもない遅さだ。

 遠藤大尉たちに合わせたから無理もないんだけどね。


「頑張ってねー」


 見送りつつコンパクトボウを構える真利。


「行ってら~」


 俺の方は構築した魔法をタイミング良く放つために待つだけだ。


「お手並み拝見といこうか。さて、どうする?」


 ネージュがそんなことを言ったあたりで俺は最初の魔法を青オーガの足下へ放った。


「まずは、こう」


 いやぁ、ナイスタイミングな声掛けだ。

 というほどでもないか。

 たまたまだし合図の掛け声でもないもんね。


 ちなみに俺が放った魔法はオーガにはかすりもせず地面に着弾した。


「「「「外した!?」」」」


 外野の人たちがうるさいですよ?

 当たらなかったから、どうだと言うのか。

 真利がフォローの射撃をしないあたりで予定通りだとは思わないんですかね。


 英花がもう少しで間合いに入ろうかというところで、初めて青オーガが反応した。

 右手に持った棍棒を大きく振りかぶる。

 あの角度だと斜めに振り下ろして英花の頭を叩き割るつもりのようだ。


「ここだ!」


 俺は次の魔法を放つ。

 オーガの開き気味だった上半身に着弾。

 ドンという破裂音とともに青オーガは大きく仰け反った。


「「「「なっ!?」」」」


 遠藤大尉たちは、いちいち驚きすぎですよ?


「見えない爆発だったぞ」


「どないなってるんや?」


 見えないのは気体だからだ。

 魔法で圧縮した空気の弾を撃ち、命中したら破裂して指向性を持たせた衝撃波となるようにした。

 ゴブリンあたりに放つと威力が強すぎて命中個所は消し飛んでしまう代物だ。

 この青オーガ相手だと仰け反らせる程度の効果にしかならないのだが。

 名付けて裂波弾である。


 遠藤大尉や堂島氏が話している間に英花は次のフェーズに入っていた。

 スライディングで青オーガの左脇をすり抜け背後に回り込んだ瞬間、ブレーキをかけつつ立ち上がりながら膝裏に蹴りを叩き込む。

 俗に言うところの膝かっくんだ。

 これが通常の状態なら3メートル級のオーガであればビクともすることなく耐えていたことだろう。


 だが、ここで俺が最初に放った魔法が効いてくる。

 あれは地面を凍らせるための魔法だったのだ。

 膝かっくんそのものには耐えられても足裏がツルツルと滑りやすければ踏ん張れるものではない。

 加えて裂波弾で仰け反らされた状態ともなれば、勢いよく後ろに倒れ込んでしまう。

 それこそ古いアニメかマンガで見たようなバナナの皮を踏んで派手に転ぶような形でね。


 奴の背後までカチカチに凍らせたので倒れ込めば投げ技と同じようなダメージになる。

 しかしながら、その程度で終わらせるようなマネはしない。

 英花が魔法を使った。

 青オーガが倒れた際に心臓と首のあたりに命中するよう地属性の魔法で地面を鋭角に隆起させる魔法を。

 強度も出るようにしたので青オーガが倒れ込んでも破損することはない。


 そうなると結果がどうなるかは自明の理というもの。

 青オーガの首が物理的に飛び、胸からは鋭いトゲが生えていた。


「「「「なっ!?」」」」


 驚愕に固まる遠藤大尉たち。

 どうやら当初の目的通り実力を隠したまま度肝を抜くことができたようだ。


「はい、逆ギロチンで一丁あがり~」


 あえて軽い口調で言ってみたのは、遠藤大尉たちが固まったまま戻ってくる気配がなかったからだ。

 幸いにも今の一言で全員が復帰してくれたので余計な労力を費やすことはなくて済んだ。


「本当にアレが3メートル級なのか?」


 疑わしげな表情を隠そうともせず氷室准尉が聞いてくる。

 それだけ信じられないってことなんだろう。


「強敵を相手にするとわかっているのに真正面から力押しで戦う方がどうかしてると思いますけど?」


「ぐっ」


「つまり俺たちも真似すれば、効率よく倒せるということか」


 遠藤大尉が考え込み始めるが。


「大尉、無茶を言わないでください。オーガにトドメを刺したあの魔法を真似るなんて私には無理です」


「俺も水魔法は使えるけど凍らせるんまでは無理ですわ」


「何も丸々真似をしろとは言わないさ。トドメを刺すのは斧とかピックとか使えばいけるだろうし、ぬかるみにしてしまえば凍らせなくても転ばせるのは難しくないはずだ」


 自分たち用にアレンジを考えていたか。


「できますけど、ええんでっか?」


「何がだ?」


「それ実行したら前衛が泥だらけになってしまいまっせ」


 遠藤大尉もそこまでは考えていなかったようで頬を引きつらせて一瞬だが言葉に詰まっていた。


「仕方あるまい。効率よく魔物を倒すためなら、そのくらいはな」


「それやったら地面をコンクリみたいにして少し砂をまいた状態にした方がええんとちゃいますか」


 堂島氏の案の方がスマートだ。

 実現可能ならだけど。

 それは遠藤大尉たちも考えたようで3人が大川曹長の方を見た。


「やってみないと何とも言えませんね。そんな魔法は試したことがありませんから」


 そりゃそうだ。大川曹長はもっぱら攻撃魔法が専門だ。

 地属性の魔法は使えるが石弾以外は使ったことがないのではないだろうか。

 英花が青オーガを仕留めるのに使った隆起と硬化の魔法コンボは無理だと言っていたことからも、その線が濃厚である。


「帰還したら練習することですね。大川曹長ができないと言った魔法も地面を隆起させて硬化させただけですから無理ではないですね」


「だとよ」


 クックックと喉を鳴らして笑いながら氷室准尉が言った。


「精進します。ですが、准尉は魔法を使えるようになってから言ってください」


 思わぬ反撃を食らった氷室准尉が言葉を詰まらせる。


「1本取られたな、氷室」


 遠藤大尉がアハハと笑うが。


「大尉もです」


 大川曹長に釘を刺されて撃沈した。


「どうです? やりようによっては強敵も難なく倒せるでしょう」


「君らはそうだったな。最初に出会ったときのことを思い出すよ」


「目潰しのことですか? 今も持ってますよ」


「どうして使わなかったんだ?」


「あんなの使ったらオーガが無茶苦茶に暴れるだけでしょうよ。逃げるとき以外に使うのは悪手だと思いますがね」


「なるほど。そりゃ道理だ」


「まあ、ここのオーガは逃げるものを追ったりはしないみたいですから必要ないですけどね」


「それも検証しないとなぁ」


「今日はいいでしょうよ。それとも魔力に余裕がない状態で実行するつもりですか?」


「いんや、無理はしないさ。今日は撤退しよう」


 普通なら遅すぎる決断だけど、そこは俺たちやネージュがいるから今まで粘ったというところか。

 だから間違った判断とは言えないのだが。


「待て」


 遠藤大尉の決断に待ったをかけたのはネージュであった。


「せっかくここまで来たのだ。ボスと戦っていくぞ」


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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