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34 パワーレベリングの仕上げに実戦もやってみた

 パワーレベリングの再開は思ったほど時間がかからなかった。

 異世界式のトレーニングが最大限に効果を発揮したと言えるだろう。

 もちろん、それも真利のやる気と根性があってこそである。

 ここまで鍛えるとパワーレベリングの効果が期待できると同時に、これからの方が苦労せずにすむんだよな。

 実際、レベルはあっという間に3から8となった。


「これなら実戦をしても良さそうだ」


 英花からのお墨付きも得られたことだし試してみるのもありかもな。


「実戦って、頭突きウサギとマッドボアなら何度も戦ったよ?」


 真利が不思議そうに聞いてくる。

 英花は絶句して固まってしまった。

 これ、冗談とかじゃなくてマジで言ってるな。


「パワーレベリングで動けない状態にしたのを狩っただけだろ。そういうのを実戦とは言わない」


「そうなんだ」


 軽い驚きを見せる真利。

 やはり本気だったな。

 英花はこれにも驚いている。


「まずはゾンビとやってもらおうか」


「えーっ」


 真利は引きつった表情を見せた。

 人型だし腐ってるから不気味ではあるだろうな。


「ゾンビとはコンパウンドボウを使って距離を取って戦うんだから贅沢言うな」


「弓を使わない戦いもするの?」


 なかなか鋭いな。


「当然だろう。俺たちと一緒に他のダンジョンにも行きたいんだろう?」


 トレーニング中にそんなことを言っていたのだ。


「うぅ、そうだけどぉ」


「見通しの悪い場所で戦うこともあるんだぞ。近接戦闘ができなくてどうする」


「わかったー」


 渋々だが一応は了承した。


「でも、ゾンビは嫌だな」


「それは俺たちも嫌だ」


 奴らと接近戦なんて汚い腐汁を浴びに行くようなものだ。


「別の魔物を用意するから安心しろ」


「良かった」


 ゾンビ以外と知って真利が安堵した。

 俺はどんな魔物にするとは言ってないんだが大丈夫なのかね。


「それと魔法での戦闘もしてもらうからな」


「うん。特訓の成果を見せるのが楽しみだよ」


 だと、いいけどな。

 実戦で魔法を使うのは案外難しいのだ。

 何もない状態で練習しているときは普通にできても、実戦のピリついた空気の中だと動揺して発動させられないとかは充分にあり得る。

 魔法に大事なのはイメージだから、とっさの状況なんて特にそうだ。

 恥ずかしながら経験者は語るというやつだな。

 まあ、俺たちがフォローするし問題が発生したりはすまい。


「それができれば屋敷の守護者を召喚してゲートを設置する」


「おおーっ、待ってましたぁ」


 真利がパチパチと手を叩いて喜んでいる。


「喜ぶのが早すぎるぞ。実戦でまともに戦えないならお預けだからな」


「うん、頑張る!」


 真利が小さくガッツポーズをした。

 文句を言うでも愚痴るでもなく前向きな姿勢を見せるのはいいことだ。

 後はそれに結果が付いて来るかだが……



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 魔道具化させたコンパウンドボウ改を用いてのゾンビ狩りから始めたのだけど。


「当たらないーっ!」


 距離を取ると鉄球は命中率がガタ落ちするみたいだな。

 ゾンビの頭部を破壊するため、それまで使っていたものより大きめの鉄球に変えたのが良くなかったのだろう。

 空気抵抗がネックになったんだと思う。

 今回用意した鉄球のためにコンパウンドボウを再改造したというのに誤算もいいところである。


「動揺しすぎだ。大声出すから気付かれたぞ」


「いや──────────っ、こっち来るぅ!」


 そりゃ気付けば向かってくるさ。

 奴らにとっちゃ人間は餌でしかないからな。


「まだ距離があるから小さい鉄球で応戦しろ」


「うっ、うん」


 半べそで今まで使っていた鉄球をつがえて撃ち出す。

 これは接近してきていたこともあってゾンビの眉間を撃ち抜いた。


「当たった!」


「まだだ!」


 ゾンビの動きは鈍ったが完全に止まっていない。

 そんな気がしたから事前に大きい鉄球を用意したのだが思い通りにはいかないものである。


「つ、次の球っ」


「それよりも魔法を使え」


「えっ!?」


「動きが鈍ったんだ。魔法でトドメを刺すには都合がいい」


「わ、わかった」


 動きが鈍ったとはいえ迫り来る魔物の重圧を感じながら魔法を使えるかを見極めるには丁度良い。


「風刃!」


 真利が選択したのは風の刃を放つ風刃だ。

 火球に比べると目に見えないぶん制御しづらい魔法である。

 密林の中では火を使うべきではないと考えた上でのチョイスだろう。

 若干の狼狽えを感じる対応振りだけど頭の中が真っ白になっているという訳でもなさそうだ。


 見えざる風の刃がゾンビ目掛けて飛んでいき首を綺麗に切り落とした。

 切断後は綺麗に霧散させているあたり魔法の制御は完璧と言っていいだろう。

 焦っているときでも魔法で対応できることが証明された訳だ。


「まあ、ギリギリ及第点か」


 今回に限って言えば、指示通りに戦えただけでも合格にできるのだけど辛口の点数をつける英花。

 指示なしでは戦えていなかったあたりが減点ポイントなんだろう。

 先は長いということを考えると妥当な採点かもね。

 ならば、英花の判断に乗っておくとしよう。


「そうだな。まだまだ甘い」


「えー、厳しいよぉ。けっこう頑張ったのにぃ」


「ほう? じゃあ、今の戦闘は俺の指示なしでもゾンビを倒すことができたんだな」


「うっ」


 指摘すると真利はタジタジになった。


「精進しまぁす……」


 コンパウンドボウで使う大きい鉄球を魔改造してリトライすることにした。

 まず鉄球を錬成スキルで変形させて細長い形状に。

 続いて長くなることでできた胴の部分へ螺旋状に溝を入れた。

 ショットガンの単発弾として知られるライフルドスラッグ弾を参考にした訳だ。

 溝の部分に空気が流れ込むことでロール回転し弾道が安定するはずである。

 弓なのでライフリングが刻み込まれた銃で発生するジャイロ効果ほどの効果は見込めないとは思うけれど。


 次も単体でいるゾンビを狙った。

 狙い通りに初弾でゾンビの頭を吹っ飛ばせたので改造した甲斐はあったと言える。


「やったーっ!」


 手直しが一度だけですんだのはラッキーだ。

 その後は複数を相手にしてもゾンビの感知範囲内にわざと踏み込んでもやってみたが、特に問題なく対処できていた。

 言うまでもなく臭いは染みついたりはしていない。

 実戦を始めた初日にギリギリまで追い込むのは、あまりに可哀想だもんな。

 それに返り血を浴びるほどの戦闘はゾンビ以外で経験してもらう予定だ。

 という訳で対ゾンビ戦はこれにて終了ということで初日が終わった。


「どうだった?」


「最初はかなり焦ったりしたけど意外に怖くなかったよ」


「ほほう。では、モンスターハウス並みに群れているゾンビどもを相手にしても大丈夫なんだな」


「涼ちゃん、意地悪だよぉ」


 恨みがましい目で見られてしまったが、こんな応答ができるということは強がりという訳でもなさそうだ。


 次の日は頭突きウサギを相手に近接戦闘をさせてみたが動じることなくスピードに対応できていた。

 左右に飛んでフェイントを入れてきたりするので初めてだと戸惑ったりすることも考えられたのだが。

 このあたりはゲームで動体視力が鍛えられているのもあるのだろう。


 さらに翌日には凶暴さと猪突猛進が噛み合った魔物マッドボアとの戦闘を課題とした。

 これもクリア。

 後は実質レベル上げのようなことが続いた。


「ここまで順応性が高いとはな」


「魔物の殺気に動じないなんてビックリですニャ」


 英花やミケが感心している。


「えー、そうかなぁ」


 真利は恥ずかしそうにクネクネと身をよじらせていた。


「田舎の農家だと生き物の死にかかわったりすることも珍しくないからな」


 真利の爺さんが現役だった頃の話だが鶏を何羽も飼っていた。

 養鶏場レベルの規模ではなかったが卵や肉を売っていたこともある。

 更には獣害対策として爺さんたちが罠猟もしていたしな。

 だから真利が臆することなく戦えるだろうと思っていたのだ。


「なんにせよ、これで真利もレベル13。俺たちに追いついた訳だ」


「うんっ」


「次からは連携しての戦闘になるぞ」


「任せてよ」


 真利は胸の前で拳を握って力強く答えた。


読んでくれてありがとう。

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