表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

339/380

339 結局、奥まで行くことになる

「太鼓判を押されても上を納得させるには調査が必要なんだよなぁ」


 遠藤大尉は後頭部をガリガリとかきながらぼやいた。


「この世界の人間は面倒なことを好むのだな」


「ネージュ嬢が上の方でも信用されるようになれば少しは変わると思うんだがね」


「まだ得体の知れぬ相手でしかないが故に、か。仕方あるまい。ならば証明するまでよ」


 ヘソを曲げることなく前向きにとらえてくれたのはありがたいことだ。


「証明って、どうするつもりなんだ?」


 氷室准尉が頬を引きつらせながら問いかける。

 その様子から察するに聞くまでもなく答えの想像がついているといったところか。


「奥に引っ込んでいる親玉を軽くひねり潰すだけだ」


「軽くひねり潰すって……」


 唖然とする氷室准尉は途中から言葉を失っている。


「無茶言いますなぁ。親玉て2階建ての家屋を越えるようなデカさのオーガジャイアントでっしゃろ?」


「デカければ強いというのは妄信の類いだぞ。該当しない魔物はそれなりにいるものだ」


 ネージュの基準で見た場合の話だけどね。

 一般の冒険者たちからすればデカいだけで脅威となる。


「オーガを瞬殺するお人は言うことちゃいますなぁ」


 堂島氏は呆れてしまって、これ以上の言葉は出てこないようだ。


「寝ぼけたことを言うでない。あの程度ならば涼成たちも軽く一捻りで終わらせるぞ」


「おいおい、無茶言うなよ」


 こっちは手の内を明かすつもりはないんだから、そういう余計なことは言わないでほしいね。


「この中でまだ戦っていないのは張井たちだよな」


 興味を持った遠藤大尉がこんなことを言い出すんだからさ。


「という訳で次は張井たちの番な」


 どういう訳だよとツッコミを入れたくなったが、断ったら断ったで理由とか追及されそうで面倒だ。

 適当にお茶を濁して終わらせるとしよう。


「結局、奥へ進むんですかい」


 諦めきった無の表情で氷室准尉が問うと遠藤大尉が苦笑した。


「そう言うなって。俺たちも弱そうなオーガと戦っておかないと正当な評価は下せないからな」


「それは明日にすれば良いのでは?」


 呆れ顔でさらに問う氷室准尉。


「比較対象として見ておきたいんだよ。どれだけ俺たちの先を行ってるのかをね」


「それも明日ではダメなんですかい?」


「今日中に見ておけば晩のうちに脳内検証できるだろ」


 研究熱心なことで。

 実りが少ないことになるのは申し訳ないところだ。


 とにかく、奥へ進むことが決まった。

 で、そういう時に限って魔物は出てこないものなんだよな。

 このままオーガジャイアントが待つ場所まで至ってしまうのではないかと思い始めたところで……


「ようやく来たか」


 かなり奥まで来たところで草木をかき分けて悠然とオーガが現れた。

 青オーガ1体だけだがデカい。

 遠藤大尉たちが戦ったオーガとさほど変わらないように見受けられる。


「3メートル級かぁ」


「何だ、そりゃ?」


 氷室准尉が聞いてきた。


「オーガは大きさで強さが変わりますよね」


「はぁー、それで強さの指標をサイズで言ってみたってことか」


「そういうことです」


「3メートル級ということは、かなり強いのか?」


 遠藤大尉が真剣な面持ちで聞いてきた。


「悠長なことを言っている場合ですかっ」


 大川曹長が声を抑え気味にしつつも厳しい表情で吠えた。

 大声を出さないのはオーガを刺激したくなかったからだろう。

 ここのオーガはその程度で興奮したりはしないんだけどね。


「いや、大丈夫とちゃいますか? なんかアイツ立ち止まってまっせ」


 堂島氏が言ったように青オーガは姿を現した場所から少し前進はしたものの俺たちとは距離を取っている。


「何だぁ? ビビってるって訳じゃねえよな」


「何をバカなことを」


 氷室准尉の軽口めいた疑問を一蹴する大川曹長。


「ありゃあ最後の関門を死守する門番ってところかもな」


 遠藤大尉がそんな推測を口にした。


「最後かどうかなんてわからないでしょう」


 オーガが現れてからずっとピリピリしたままの大川曹長がツッコミを入れる。


「そういう雰囲気があるってことだよ」


「感覚で状況判断しないでくださいっ」


「そんなこと言われても直感は大事だぞ。俺はそれで生き残ってきたようなものだからな」


 こういう風に言われると大川曹長もお小言は言いにくくなるようだ。

 苦々しい表情で睨みをきかせることしかできないでいる。


「けど、そういうヤバそうな奴相手なら撤退も視野に入れた方がいいんじゃないですかね」


 氷室准尉がかわりに提案してきた。


「そこは張井たちに任せるさ。今は俺たちのターンじゃないからな」


 まるでシミュレーションゲーマーみたいなことを言ってくれる遠藤大尉である。

 他人のプレイするゲームを観戦する気分でいるんじゃないだろうな。

 どことなく無邪気な子供を思わせる目をしているように思えてならないんだけど。

 英花などは今にも噛みつかんばかりにピリピリしている。

 これは多少発散した方がいいかもね。


「ネージュ、ちょっと打ち合わせしたいから見張っといて」


「うむ、任せるが良い」


 胸を張って請け負ったネージュが少し前に出る。

 それでも青オーガは一瞥しただけで動かない。

 遠藤大尉の言った門番というのは言い得て妙なところがあると思った。

 ファジーな設定にしたら、こんな風に動いただけなんだけどね。


 という訳で俺たち3人で頭を突き合わせるように上体をかがませて軽く打ち合わせをする形になった。

 もちろん会話を聞かせるつもりはないので特殊な音声結界を展開している。

 音を遮断するのではなく漏れ出る音をランダムで変換し聞かれたとしても何を言っているのかサッパリわからないという代物だ。

 それで堂々と喋ると結界を使っているのがバレるので声は潜ませるんだけどね。


(奴のあの挑発的な目を見たか。我々があたふたするのを見物したがっているとしか思えん)


 声を潜ませながらも英花の憤慨ぶりは相当なものだと思った。


(安い挑発だ。俺たちの底を知りたいんだろう)


(本気なんて出せるはずないのにねー)


 真利は呆れ顔だが口ぶりから怒っているのが伝わってくる。


(そこまでとは思ってないんだろうよ。せいぜいレベル40前後を想定しているんじゃないか)


(だったら、それくらいで倒しちゃおっかー?)


 やはり怒っているな。

 遠藤大尉の目が気に入らなかったのは英花だけではなかったようだ。


(いや、もう少し抑えよう。やりようによっては労せず3メートル級を倒せるというのを証明しておいた方がいい)


(そっかー。立ち入り禁止になったら面倒だもんねー)


 真利はちゃんと俺たちの目的を忘れていなかったようだな。


(仕方ないな。力ではなく技で奴の度肝を抜いてやるとしよう)


 英花も目先のことに囚われてしまうようなことにはならなかったようで何より。

 とにかく愚痴まじりの方針は決まった。

 後はどうするかだが、そちらはササッと決まり誰がどの役割をするかの割り当てだけとなる。


(はーい。援護やりまーす)


 真利はいつも通りのポジションを選んだ。


(今回は私が前に出る)


 英花がアタッカーに志願した。


(じゃあ補助と魔法攻撃は俺だな)


 これにて打ち合わせ完了。

 さて、本番だけど遠藤大尉たちの度肝を抜くには手早く終わらせないとね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ