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337/380

337 後衛だと誰が言った?

 目の前にいるオーガのパワーは今までの魔物とは桁違いのはず。

 遠藤ジョーは直感的にそう感じ取っていた。

 それは間違いなかったのだが。


「くっそ、冗談じゃないぞ!」


 剣を振っても棍棒で受けるかいなされる。

 それも氷室准尉と連携を取りながらの状態でそれだ。

 時折、後衛組から援護の魔法が飛んで来るが、それも回避されるか棍棒で叩き落とされてしまう。


「ボスより強いじゃないかっ」


 向こうも戦い始めた頃のような余裕は無くなったようには見受けられるが、依然として不利なのは自分たちの方だ。

 オーガは受けに徹することで完全にこちらの攻撃をさばいていた。

 スピードがこちらより上なのがよくわかる。


 歩いて向かって来たくらいだから素早く動くことはできないのではないかと読んだのは完全に誤算だった。

 もし、オーガがダメージを負うことを厭わず攻めに転じてきたなら対処しきれる自信がない。

 向こうがそれをしないのは自分たち相手では傷を負うことなどないと確信しているからだろう。

 その状態が続けば、いずれ均衡が崩れることも理解しているに違いない。


 それで不利になるのは自分たちの方だ。

 向こうの方がスタミナがある。

 こちらは他の冒険者たちよりは持久力もあると自負しているが、それでもオーガのような超人的なスタミナはない。

 後衛の魔法も魔力が尽きればそれまでだ。


「愚痴っても良いことなんざ、ひとつもありませんぜ!」


 攻撃の合間に氷室准尉が苦言を呈してきた。


「んなこたぁ、わかってるさ。それでも言わなきゃやってられない時もあるだろうが」


 正面でオーガと切り結びながら反論するが。


「そういうのは1人の時になさってくださいよ。部隊の士気に関わりますぜ」


「そりゃそうだ。スマンな」


 切り返されて矛を収めることになった。

 それが合図であるかのようにオーガへ向かって火属性の魔法が飛んでいく。

 かなりの大きさがあり3メートルはあろうかというオーガを丸々包み込んでしまいそうだ。


 ギリギリまで粘って氷室准尉とともに飛び退る。

 オーガは巨大な火球に向けて吹き飛べと言わんばかりに咆哮した。

 もちろん、そんなことで火球は散ったり流されたりはしない。


 ようやく起死回生の一撃がオーガに叩き込まれた。

 だが、それで終わりではない。

 炎に包まれ全身に火傷を負ったオーガに向けて間髪を入れずに水球が飛んでいく。

 こちらも先程の火球に劣らずかなりの大きさだ。

 火傷を冷やして継続ダメージを減少させてしまわないかと危惧したが、堂島がそんなヘマをするとは思えない。


 水球が命中するとオーガの全身からもうもうと白い煙が湧き、オーガはまたしても吠えた。

 いや、絶叫したと言った方が良いだろう。

 あの水球は煮えたぎる熱湯だったのか。

 火傷に熱湯は傷口に塩を塗り込むのに等しかったようで、さすがのオーガも動きが鈍った。


「ナイスだ、大川、堂島!」


 オーガに斬りかかりながら後衛組を褒め称える。

 その一撃はオーガの足を切り裂き片膝をつかせることとなった。


 こうなると、後は必勝パターンだ。

 氷室准尉が背後に回り込んで背中に切りつけると深手を負わせただけでなく、腕を使えなくさせた。


 その後は特に語るようなことはない。

 トドメを刺すまで数手かかったが、どうにかオーガを仕留めることができた。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「一時はどうなることかと思ったよ」


「愚痴ってましたもんね」


「それを言ってくれるなよ」


 遠藤大尉が苦笑いすると氷室准尉も遠慮することなく笑った。

 が、後衛組は笑っていない。

 座り込んでしまっているのは魔力を使いすぎたせいだ。


 しばらく休憩する必要があるだろう。

 そういう時に限って魔物は待ったを許してくれないものだ。

 次のオーガが迫っていた。


「次が来ていますね。たぶんオーガですよ」


「なにぃっ!?」


 氷室准尉が驚愕の目を向けてくる。


「たまたま、さっきのオーガの近くにいたんでしょう。あれだけ派手に戦えば近寄ってきても不思議じゃありませんよ」


「ついてねえな」


 氷室准尉は運のなさに歯噛みする。


「曹長、さっきの魔法を使えるか?」


 遠藤大尉が大川曹長に対して問いかける。


「今すぐは無理ですね」


 頭を振りながら表情を渋らせて答える大川曹長。


「堂島は?」


「1発くらいなら。けど、大川さんのアレなしやと当たらんのとちゃいますか」


「たった一度オーガと戦っただけでこれか」


 いつもはポジティブな遠藤大尉も重苦しい空気をまとって硬い表情を崩せずにいる。

 いくらなんでも悲観しすぎだな。

 戦って勝ったはずなのに、これでは次の行動にも支障が出るというものだ。


「あの個体はオーガの中でも強い方だと思いますよ。いま近づいている奴らはさほどでもないですね」


「まだ姿も見えていないのに魔物の強さまでわかるのか!?」


 目を白黒させながら氷室准尉が聞いてくる。


「待ってください。いま張井さんは奴らと言いませんでしたか?」


 俺が答える前に大川曹長が准尉たちに向かって確認の問いかけをした。


「言うてましたな」


 堂島氏の返答に同意のうなずきをする遠藤大尉と氷室准尉。

 そして4人そろって暗い表情になった。


「張井、何体いるんだ」


 お通夜のような雰囲気を出しながら問うてくる遠藤大尉。


「全部で3体ですね」


 脅しにならないよう淡々と答えたにもかかわらず4人は愕然としていた。


「さっきのと同じのが3体とは言ってないですよ。さほどでもないと言いましたよね」


「だから、どうしてそんなのがわかるんだ」


 氷室准尉が懐疑的な目を向けながら聞いてきた。


「気配の強弱とか空気感ですね。さっきのオーガほどピリついた感じがしません」


 これ以上は説明しようがないのだけど、これだけでは納得が得にくい。

 なるほどとうなずいているのは遠藤大尉だけである。

 こんな状態で士気が戻るはずもない。


「張井、すまないが任せる」


 間近に迫ったオーガの気配を感じ取ったらしく遠藤大尉は迷いなく決断した。

 もし戦える状態だったら連戦するつもりだったのだろうか。


「了解」


 返事をした俺はネージュの方へ向き直る。


「じゃあ任せた」


「うむ。では次は少し趣向を変えてみるとしよう」


 不敵な笑みを浮かべながらトコトコと前に出る。

 俺たちも後に続くとネージュが首だけを振り向かせて訝しげな表情を向けてきた。


「涼成たちも戦うつもりか?」


「いいや。遠藤大尉たちに休んでもらおうと思ってな。壁になっておけば安心できるだろ」


 だから俺たちは遠藤大尉たちの前に出たところで立ち止まる。


「ふむ、そういうことか。好きにするが良い」


 ネージュがさらに前に出たところで3体のオーガが姿を現した。

 2メートル半の赤オーガが1体と残りは赤と青で上背は2メートルほどだ。


「涼成の言った通り歯応えのなさそうな奴らよ」


 そういった次の瞬間、ネージュがダッシュしオーガとの距離を一気に詰めた。


「はあっ!」


 気合いを込めた飛び膝蹴りを先頭にいた大きい赤オーガの胸に叩き込む。

 そのままオーガの肩に手をかけて前転しながら飛び越えると、頭を下にして後ろにいたオーガどもに開脚の旋風脚を見舞った。

 まるで何処かの青い格闘家のお姉さんみたいだ。

 もっとも、つま先から氷の刃を放つのはネージュのオリジナルだけど。


 ゴロリと赤と青のオーガの首が転がった。

 それだけではなく飛び越えたオーガの首も落ちている。

 最初の膝蹴りで心臓を凍り付かせて破裂させているというのに。

 氷室准尉がネージュを後衛と決めつけたのが気にいらなかったんだろうな。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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