表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

336/380

336 オーガと戦うのは……

「一体なにしたってんだよ、あの嬢ちゃん」


「彼女は弾道を曲げていました」


 大川曹長が話しに入ってきた。

 先程は聞くだけだったのに我慢できなくなったかな。


「なにぃっ? どれだけ曲げなきゃならないと思ってるんだ。マジでそんなことできんのかよ」


 目を丸くさせる氷室准尉。

 魔法の弾道が直進するものだとばかり思っているんじゃ驚くのも無理はないのか。

 あの状況では、ほぼ直角に曲げるか大きく弧を描かせるしか当てようがなかったからね。

 ネージュは前者を選択していたけど、そちらの方が曲げる際のタイミングの取り方が難しい。


「できたからこその結果じゃないんですか。どうやっているのかまでは私にはわかりませんが」


「言いましたやん。真似できへんて」


「重力を利用した縦の曲射ならともかく、横でそんな芸当ができるとはな」


「違いますよ」


 すかさず大川曹長が訂正に入る。


「何が違うんだ?」


「彼女は直角に曲げたんです」


「は?」


 氷室准尉は完全に呆けた表情になっていた。


「あの弾速で直角に曲げてホブゴブリンを仕留めたってのか?」


「そうですよ。曲がった瞬間は消えたようにしか見えませんでした」


「ウソだろ、おい。減速もさせずに曲げて当てただと」


 元から弾速を落としてるから必要ないんだよね。

 何でそんなことをしているかというと一種のサービスみたいなものである。

 事前にネージュと話をして、何をしたのかわかるように全体のスピードを落とそうということにしていたのだ。


「ええ、本当です。魔物を一発で仕留めたのが何よりの証拠でしょう」


 愕然とする氷室准尉に対して淡々と答える大川曹長。


「実は他の魔法を使っていたとかないのか」


「手品じゃあるまいし意味がありませんよ。魔力の無駄でしかありません」


「そうなんだけどよ。どんな動体視力をしてるんだ」


「さあ、私には見当もつきませんね。彼女の底はまだまだ深いところのようですし」


「あの調子やったら近接戦闘もできるんとちゃいますか」


 堂島氏の発言にギョッとする氷室准尉。


「バカ言えっ。あの体格で接近戦とかあり得るかよ」


「何も力業で戦う必要ないですやん。動体視力は常人離れしてるし、魔法は自由自在に使えるてなったら距離とか関係おまへんわ」


「そうは言うが、何もわざわざ後衛が危険を冒す必要などないだろう」


「そら状況によるんとちゃいますか?」


 その後も彼らの話は続く。

 この時、ネージュが歩きながら彼らの方を一瞥したのだけど、あの調子じゃ気付いていないだろう。

 周囲への警戒がおろそかになっていませんかね?



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 調査と言うからには直線的に奥へ向かう訳ではない。

 幅広く周囲の状況を確認しながらなので、それなりに時間を使う。

 それでも地道に進んでいれば外周部を抜けることになる。


「気配が変わったな」


 向こうのチームでは遠藤大尉が真っ先に気付いたようだ。


「それなりに奥へ来たってことですかい」


 氷室准尉も先程までの無駄口を叩いていた空気を消し去り表情を引き締めた。

 それは大川曹長や堂島氏も同じである。


「その割に張井さんらリラックスしてまへんか?」


 呆れ顔を見せる堂島氏だったが。


「アイツらに常識が通用するかよ。名古屋の時のことを思い出せ」


 氷室准尉の一言で結構前のことを思い出して目を見開いた。


「そういやそうでしたな。この調子でオーガが出てきても瞬殺するんとちゃいますか」


「その前に嬢ちゃんが片付けるだろうよ。そんなことより気を引き締めろ。たるんでるぞ」


「へーい」


 氷室准尉の見立ては間違っていないが最初の遭遇で何をするつもりなのかまでは想像できていないはずだ。

 おあつらえ向きと言ってはなんだけど最初のカモがやって来た。


「前方からオーガが来ますよ。数は1」


 一応は警告を出しておく。

 すると遠藤大尉たちは、より警戒感を強めた。


「張井」


 不意に遠藤大尉から呼ばれた。

 今日は大人しくしているつもりなのかと思っていたら、このタイミングで話しかけてくるか。


「何です?」


「そのオーガ、俺たちにやらせてくれないか。まだ戦ったことがないから戦力評価ができないんだ。数も少ないし何とかなると思う」


 そういうことか。

 遠藤大尉たちの調査には魔物の戦力評価も含まれるから至極もっともな話である。

 ひょっとして静かだったのは、このことをずっと考えていたからかもね。


「だそうだ。ネージュ、どうする?」


「好きにするが良い。ほれ、来たぞ」


 木々の向こうから姿を現した青いオーガは身の丈3メートル近くありそうだ。

 今の遠藤大尉たちからすると結構な強敵だ。

 が、よほどのヘマをしない限り一撃で即死なんてことにはならないだろう。

 彼らも経験を積んできている訳だし疲労も怪我もないからね。


「俺たちは下がりますよ」


 脇に避けながら後方へ回る。

 遠藤大尉たちは前衛と後衛に別れてV字にフォーメーションを組んでいた。

 初手は魔法で行くつもりなんだろう。

 対するオーガの方は悠然と歩み寄ってくる。


「余裕ぶって王様気取りか? 目にもの見せてやるぜ」


 氷室准尉が緊張した表情に似つかわしくない軽口を叩いた。

 自分を鼓舞するためなんだろうけど、そういうのってフラグが立っちゃうんじゃないですかね?

 ヘマしなきゃいいんだけど。


 大川曹長と堂島氏が魔法を構築していく。

 それぞれ地属性と風属性だ。

 確か大川曹長は火の魔法が得意だったと思うんだが、周囲に草木が多いことから避けたのだろう。

 堂島氏は火の属性魔法はあまり得意じゃないと言っていたので、この選択は普通である。


「行きます!」


「狙い撃ったるで!」


 ワンテンポずらして石弾と風刃が、それぞれオーガの顔面と脚部へ向かって飛んでいく。

 石弾は顔の中心からズレているので回避が容易い。

 が、それは牽制を兼ねた誘導だ。

 相手の注意を引くことで風刃から意識からそらさせるのが最大の目的である。

 当たればラッキーくらいに考えているはず。


 オーガがかわしやすい方へ避けようとしても石弾とは反対方向へずらして風刃が飛んでいるのでドンピシャで命中するという寸法だ。

 仮にかわさなかったとしても片脚には当たるようになっている。

 逆に反対方向へ回避されると風刃は当たらない。


 何の打ち合わせもなく自然に実行したということは、これまでの戦闘経験から構築されたパターンのひとつだと思われる。

 オークやミノタウロスあたりには有効な攻撃方法だ。


 が、相手はオーガである。

 大川曹長の放った石弾はオーガの頬に当たって弾け飛び、堂島氏の風刃は左の太ももに当たるも赤い筋をつけるに留まった。


「なっ!?」


「ウソやっ!?」


 現実である。


「3メートル級のオーガは防御力も高いですよ」


「そういうことは先に言うてえな!」


 前を向いたままの堂島氏に文句を言われてしまった。

 次の魔法を準備し始めているが接近戦闘になる前にもう一発とはいかないだろう。

 前衛組が動き出したことからもそれは明らか。


 遠藤大尉がオーガの前に躍り出て氷室准尉が側面へ回り込んだ。

 手にした剣で斬りかかるがオーガも黙ってはいない。

 横に回り込んだ氷室准尉の方へ腕を振り下ろしつつ遠藤大尉には手にした棍棒を振り下ろす。


 氷室准尉は回避を余儀なくされ、遠藤大尉も剣を棍棒で受けられてしまい攻撃はどちらも届かなかった。

 完全に見切られているな。

 けど、まだお手並み拝見でいいかな。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ