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334 調査前のあれこれ

「結局、アレの頼みを聞くことになるとは」


 帰りの車中で英花がギリギリと歯噛みする。

 遠藤大尉のことをアレ呼ばわりとは相変わらず毛嫌いしているな。


「そんなに嫌か? なら明日の調査、英花は出なくていいぞ」


「出るぞ。報酬はイレギュラーだが正式な依頼になるのだからな」


 この調子だと、ただのお願いだったら英花は出てこないつもりだろう。


「でも、ネージュちゃんの同行が必須なんて条件をつけてくるなんてねー」


「そりゃ当然だろう。俺たちの証言だけじゃネージュの実力を見極めることはできないからな」


「それだけではあるまい。アレは楽ができるなら儲け物だと思っているぞ」


「気にしすぎだよ。俺だって立場が同じならそう思ったさ」


「涼成、儲け物とはどういう意味だ?」


 助手席で流れゆく外の景色を眺めていたネージュが運転席の俺の方へ向き直って聞いてきた。


「明日の調査は統合自衛軍のトップチームである彼らでも命がけだからな。ネージュが片っ端から魔物を片付けてくれるなら死なずに済むと思ってるはずだよ」


「ふむ、命あっての物種というやつだな」


「そんなところかな」


「英花は連中を儲けさせるのが嫌なようだな」


「そこまでは言ってない」


「ならば適当に手を抜くか」


「おいおい、勘弁してくれ。加減をした状態から手抜きをするつもりか?」


「いかんか?」


「死人が出ない程度にしてくれよ」


「なるほど、ギリギリを狙って獲物を仕留めるのだな」


 誰もそんな風には言ってないんだけどな。


「それは愉快な提案だ。今までそんなことは試してもみなかったぞ」


 ドラゴンなら大抵の魔物は瞬殺してしまうだろうから、そういう発想にはなかなか思い至らないんだろう。

 仮にそれを考えついても試そうとまでは思うまい。

 失敗すれば二度手間になるし成功しても何か意味がある訳でもないからね。


「これは面白そうだ。採用しよう」


 思わず「マジで!?」と大声を出しそうになってしまったさ。

 驚いたのは俺だけじゃないのはバックミラーに映る2人を見ればわかる。

 英花は唖然としていたし真利も両手で口を押さえるくらい驚いていたからね。


「涼成はユニークな発想の持ち主だな」


 上機嫌で褒めてくれるが、ネージュの思うような意図で言ったことではないんだよな。

 まあ、誤解を解く必要もないか。

 わざわざ機嫌を損ねるようなことを言っても意味がない。


 そんな訳で明日の八王子城跡ダンジョンの調査は少しばかり冷や冷やさせられそうだ。

 雑魚ほどギリギリで仕留めるのは加減が難しくなるからね。

 しくじると自衛軍の面々に誤解されそうで怖いよ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 明けて翌朝。


「よぉう、早えな」


 先に到着していた俺たちに氷室准尉が声をかけてきた。

 が、他のチームメンバーの姿が見当たらない。


「おはようございます。もしかして現地集合ですか?」


「んな訳ねえだろ。防具を新しいものに変えたから準備に手間取ってるんだよ」


 言われてみれば氷室准尉の装備にも一目で新品とわかる艶が見られた。

 今まで使っていた装備がくたびれてガタが来たのか。

 全員が同じタイミングで新装備になったというのは出来すぎな気もするけどね。


「氷室准尉だけ先に装着完了したんですね」


「俺のはサイズ調整が必要なかったんでな」


「そういうことですか」


「お前たちも早く準備しろよ」


「は? もう終わってますよ」


「防具もなしに何を言ってるんだ」


 訝しんで言われてしまったが無理もないのか。

 俺たち3人は武器は持っているが防具は身につけず平服の状態だからね。


「御心配なく。この服が防具がわりです」


「おい、寝ぼけたことを──」


 険しい表情になった氷室准尉が途中まで言いかけたところで急に我に返ったようなハッとした顔を見せた。


「まさか服を魔道具化させているのか!?」


「御名答」


「それにしたって防具なしでは心許ないだろう。オーガもいるんだぞ」


「そんなに柔な出来じゃないですよ。氷室准尉が装着している積層材で作られた防具より防御力は上ですから」


「なっ……にぃっ?」


 目が飛び出さんばかりに驚いた氷室准尉だったが、どうにか声は大きくならないように抑えられたようだ。


「冗談じゃないぞ。なんでこれが積層材で作られたってわかるんだ」


「厚みと形状に加え氷室准尉の動きから推測しただけですよ」


「何だとっ?」


 言葉は短いが説明しろと目で語っている。

 そうなりますよねえ。


「その厚みでただの鉄板でできているなら重くなるはずなのに、そういう風には見えませんでしたから」


「それが厚みと俺の動きからわかったというのか」


 その点については納得してもらえたようだ。


「なら形状はどういうことだ。普通の鎧とそう違いはないはずだ」


「でも少し違いますよね。カクカクした感じになっているのは単純な積層構造じゃなくて中で凹凸のある材を使っているからだと見受けたつもりですが、違いますか?」


 俺の問いに氷室准尉は一気に脱力して大きく溜め息をついた。


「わずかな違いで、そんなことまでわかっちまうのかよ」


「そこまで小さな差異ではないですよ。鎧に詳しい人が見ればわかると思いますけどね」


「それはお前も鎧に詳しいと言ってるようなものじゃないか」


 そりゃあ異世界で散々見てきたし作ってもきたからね。


「一応はこれでも魔道具を作るために勉強は欠かしていませんので」


「そういうことか。それなら詳しくなるのも納得だな」


 氷室准尉は諦観の境地に達したような顔で再び嘆息した。


「それで服をこの鎧よりも頑丈にしたって? にわかには信じられんぞ」


「服に攻撃が届く前に薄い結界の層が展開するので物理も魔法も防ぎますよ」


「何だ、そりゃ。反則じゃねえか」


「反則と言われても……。そういう風に作った結果をどうこう言われても困るんですが」


 言いがかりもいいところなので俺も反論する。

 しかしながら、それを無視するかのように氷室准尉はズイッと顔を近づけてきた。


「何ですか? 男に迫られて喜ぶような性癖はしていませんよ」


 言葉で牽制すると氷室准尉はギョッとした顔でたじろいだ。

 が、すぐ元に戻る。


「違えよっ」


「じゃあ、何ですか?」


「魔法を防げるとか夢みたいな防具じゃないか。俺たちの鎧を魔道具化させることは可能か? できるよな。なっ」


 必死すぎかと言いたくなるくらい必死な氷室准尉。

 無理もない。普通の鎧じゃ魔法は防ぐのが難しいからね。

 まあ、当たってから威力を下げるのと当たる前に威力を下げるという違いでしかないのだけど。

 鎧に同じ効果を付与できるならダブルで威力を下げられると氷室准尉は考えたんだろうな。


「できますが意味ないですよ」


「どうしてだっ?」


「効果を維持させるには使用者が制御しないといけないですから。常時魔法を使っているようなものです。単発で攻撃魔法を放つのとは訳が違いますよ」


「なっ!?」


 愕然とする氷室准尉だったが、すぐに我を取り戻した。


「効果を少し下げてでも構わないから制御面をどうにかできないのか?」


「制御面まで鎧に効果を持たせるのは魔力をバカ食いしますから魔石と自前の魔力の両方を使っても持続時間が短いですよ。それは効果を下げてもさほど変わりません」


「なんてこったい」


 氷室准尉は絶望したと言わんばかりの表情になって天を仰ぎ見た。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] >ギリギリを狙って獲物を仕留めるのだな 圧倒的強者の余裕 どんだけ加減してもデコピンで頭吹っ飛ばしてるの図にしかならんような
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