331 調整は時間制限付き
ダンジョンコアに干渉して掌握するのはすぐに完了した。
そこからバランス調整なんだけど、これが面倒だったんだよね。
守護者は報告の都合によりオーガジャイアントから変更できないから強さを若干弱めにする程度で済んだんだけど。
魔物の構成がオーガだけだったんだ。
オーガは肌の色が赤と青の2種類ある角の生えた小巨人といった魔物である。
身長は2~3メートルと個体差があり強さもそれに比例する。
弱くてもミノタウロスより強いので一般の冒険者にとっては危険な魔物だ。
強い固体はオークキングよりも強いため守護者になることもある。
今回はさらに上がいたのでモブのような扱いを受けているけどね。
なお、肌の色は強さに関係ない。
「オーガだけというのはマズいな。どうするんだ、涼成」
「オーガジャイアントみたいに弱体化させるのー?」
「それはしない。他の魔物を加えて調整しよう。でないとオーガを侮るバカが出て来ないとも限らない」
その調子でオーガジャイアントに挑まれてしまうとね。
いくら弱体化させているとはいえどもオーガジャイアントは別格だ。
遠藤大尉たちですら逃げるので精一杯になると思う。
逃げるなら追わないようにしておいたけど、逃げない連中についてまで手加減はしない。
そんなことをしてここで調子に乗るような奴は何処に行っても同じなのは目に見えているからね。
「それなら大きさでも調整した方が良くないか」
「奥へ行くほど強いのを出すんだねー」
反対する理由はないので、その意見を採用することにした。
「問題は外周部には何を配置するかだよな」
「オークでいいんじゃないかなー」
「いや、人型は避けるべきだろう。ここまでオーガ一辺倒だとは思わなかった。他の人型が加わると違和感を持たれそうだからな」
真利と英花で意見が割れたか。
「じゃあゴブリンはー? あれなら小鬼として見られることもあるしー」
「そのくらいなら構わないか」
英花の方が折れるとはね。
言い合いにはならないまでも、双方が持論を曲げないんじゃないかと思っていたよ。
「涼成、頭突きウサギはどうするんだ?」
英花が聞いてくる。
俺が言ったことを覚えていたのか。
あれは、たとえ話のつもりだったので本気でラインナップに加えるつもりはなかったんだけどなぁ。
「入れない方が良さそうだよな。もっとバリエーションがあると思っていたのに当てが外れたのは痛いよ」
ハッキリ言ってお手上げである。
「ならばホブゴブリンはどうだ? ゴブリンとセットにできるから違和感を持たれにくいかもしれんぞ」
理由としては妥当なところだとは思うけど、人型の魔物は反対じゃなかったんですかね。
まあ、そこまで強硬に反対という訳じゃなかったんだろう。
「じゃあ、そういうことで」
「即決だな。いいのか?」
「さっさと終わらせないとネージュを待たせているからな」
おやつとしてタコとイカの燻製を渡してあるので多少は時間が稼げるとは思うけど。
ネージュの方を確認してみたが、満面の笑みでしゃぶるように味わっている。
ただし、燻製の残りは半分を切っていた。
「アレがすべて無くなったら猶予はなくなるだろ」
「確かに。まだ大して決まってないというのに、こんな調子ではダメだな」
「思うんだけどー」
急いで調整していこうとなったところで真利が何か提案があるような様子で話しかけてきた。
「追加する魔物の種類はゴブリンとホブゴブリンでいいんじゃないかなー」
「そこからオーガに切り替わると厳しいだろう。間に入る強さの魔物がいた方が良くないか」
「それでまかり間違ってオーガジャイアントの所にたどり着く冒険者がいたら悲惨だよー」
「む、それもそうか」
弱い魔物もいるが奥に進めば地獄という印象を持たせられれば被害も少なくなるか。
「後はここに入るメリットが欲しいかなー」
オーガジャイアントのせいで立ち入り禁止になると厄介だ。
「奥に入らずとも利益が得られるようにするしかないだろう」
「それが難題なんだよねー」
真利が表情を曇らせて溜め息をついた。
が、英花は平然としている。
何か妙案があると見た。
「外周部に薬草を配置すればいい」
「それで大丈夫かなー。悪くはないと思うけど、ちょっと弱い気がするよー」
真利は反対ではないものの不安そうだ。
「それくらいでいいんだ」
薬草はそのままだとポーションほどの効果は見込めない。
それでも確実に薬効があるので、ベテラン冒険者ほど欲しがる傾向にある。
効果がショボくても命拾いすることだってあるからね。
「こぞって冒険者が来るようなことになったらシャレにならないだろう」
薬草からポーションが作れるようになったという話は外からは聞こえてこないし、程良く冒険者が訪れるようにするには良い案だと思う。
「だが、俺たち以外でもポーションが作れるようになったら、ここも冒険者が頻繁に訪れるようになりかねないぞ」
「そこは生やす量を調整すればいいだろう」
「群生しないようにすればいいんじゃないかなー」
「薬効の少ない品種だけにしておくのも良いかもしれない」
「それだと怖いから、たまにレアな薬草が混じるようにした方がいいんじゃないかなー」
「だが、レアものを求めて奥に入る奴が出てきそうじゃないか?」
英花の懸念は充分に考えられる話だ。
調子に乗りやすいタイプは、きっと奥へ入ってしまうだろう。
レアものを出すのはボツにした方が良いか?
「そういうのは自己責任だよー」
真利も身内以外にはドライなところがあるよな。
「レアはやめておこう。品質を少し上げるくらいにしておけば調整できると思う」
絶対ではないけどね。
だから様子を見ながら少しずつ最適な状態に変えていくつもりだ。
まあ、俺は指示を出すだけで実際にコントロールするのは地元で留守番をしているリアなんだけど。
「涼成は何かないか?」
発言したことで注意がこちらに向いたようで、英花から意見を求められた。
「リポップのタイミングを遅めにするのは有効だと思う。それでも人が集まるなら、侵入者が多ければ多いほど生えにくくなるようにする」
「薬草がなければ人も来ない、か」
「それだと人が来なくなってしまう恐れもあるよねー」
「大丈夫だろう。自衛軍が定期的に来るようになるだろうからな」
「監視のためか。ボスがオーガジャイアントならば充分にあり得る話だな」
難しい顔をする英花を見れば歓迎したくないと考えているのは明らかだ。
「それもある」
「それも?」
英花が他に何があるのかと怪訝な顔をしたが、すぐにハッとする。
「誰も来ないなら自分たちで採取することも考えられるか」
俺はうなずいて肯定した。
「面倒だな。自衛軍の奴らが深く関わらないようにできないものか」
「英花ちゃん、オーガジャイアントがいるから無理だよー」
真利の指摘に英花は渋い表情を覗かせた。
「完全シャットアウトとは言わない。何か手がないものか」
自分たちの縄張りに統合自衛軍が我が物顔で入り浸るのが、どうしても嫌なんだろうな。
俺も英花の希望にそうようにしたいところだけど……
「涼成、まだ終わらないのか?」
燻製を堪能し終わったネージュが声をかけてきたから時間切れだ。
ダンジョンの情報を上書きしないと。
読んでくれてありがとう。
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