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327 隣のフィールドダンジョン

 よりにもよって高尾山の隠れ里の隣にフィールドダンジョンができるとはね。


『隣り合わせとは珍しいな』


『事もあろうに、我の隠れ里を飲み込もうとしてきおったから弾き飛ばしてやったわ』


『おいおい、派手なことをすると隠れ里の存在がバレてしまうぞ』


『心配はいらぬ。日頃から、それくらいの用心は怠ってはおらぬわ』


 隠蔽は何重にも施しているって訳か。


『そうは言うが、隠れ里に迷い込む人間もいるじゃないか』


『それはそうだ。出入り口をつなげておかねば、この世から消えてしまうからのう』


 そうだった。

 亜空間は存在が不安定だから保持してやらないといけないんだよな。

 例えば俺が使っている次元収納もつながっている俺が死んでしまうと消滅してしまう。


 隠れ里の場合は出入り口をつなげることで安定化させることができる。

 言わば、クサビのようなものだ。

 どれだけの空間を確保するかによって必要なクサビの数が変わってくる。

 広い空間を確保すればするほど不安定になるためだ。


 高尾山の隠れ里も複数の出入り口がある。

 迷い込む人間がそれなりにいるのは、そのせいだ。


『だが、迷い込みはしても中を見通すことはできぬよ。見通せぬから迷うとも言えるのだがな』


 何故か青雲入道の豪快な笑い声が聞こえてくるような気がした。

 きっと念話の向こう側でドヤ顔をしているのだろう。


『対策をしているなら構わないさ』


 何事も完璧なんてものはないとは思うけど。


『それでどのくらいの規模なんだ』


 返答しだいによってはアリバイ工作で使うかどうかの判断に影響する。


『そこそこ広いんじゃないか。昔、城があった辺り一帯だからな』


 城があった辺りというと八王子城跡のことだろう。

 高尾山から見て北側の線路と道路の向こう側にある山ひとつ分といったところか。


『アリバイ工作に使えそうだな』


『急げよ。中に入っていった者たちがおる』


『それを先に言えよ』


『案ずるな。うちの者を向かわせた。じきに追い出されてくるだろう』


『犠牲者が出ないようにか』


『左様。死人が出るのは許容できぬからのう』


『いいのか? 烏天狗だって知られたら今後は身動きが取りづらくなるぞ』


『そのままの姿では行かせてはおらぬよ』


 幻影でも被せているということか。


『そちらこそ急がねば中には入れなくなるぞ。人間はこういう時、立ち入り禁止にするのだろう?』


 青雲入道の言う通りだ。

 できたてのフィールドダンジョンで人が追い出されてきたなら通報されるだろう。

 凶暴な魔物がいるとなれば統合自衛軍も黙っちゃいないはず。

 その前に警察が来て冒険者だろうが何だろうが近寄らせないということも考えられる。


「行こう。グズグズしてるとマーキングすらできなくなる」


 英花と真利の2人に声をかけたが異論はなかった。

 念話は2人にも聞こえていたのでね。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 現場はパニックになりかけていた。

 通報を受けたであろう警察官の姿もあったが人数が足りていない。

 それでもダンジョンに突入しようとしたら見とがめられた。


「待ちなさい! 危険だ!」


「御心配なく。我々は特級冒険者です。逃げ遅れた人がいないか見てきます」


 言いながら冒険者免許を提示すれば通してくれたけれど。

 そうして中に入りしばらく進むと烏天狗たちが待ち受けていた。


「お待ちしていましたよ」


「一般人は全部追い払ったのか?」


「ええ、確認済みです」


 とりあえず一安心だ。

 これで誰かを巻き込む恐れだけはない。


「それから頭領からの伝言です」


「青雲入道は何と?」


「奥にネージュを送り込んだから合流するようにとのことです」


 要するに普通に探索してこいってことだな。

 当然、守護者も倒す必要があるだろう。

 そちらはアリバイ工作の都合上ネージュが始末をつけることになると思うけど。


「了解した。それじゃあ行ってくる」


「お気をつけて」


「はいよ」


 背後を振り返らずに右手をヒラヒラと振って返事をした。

 ここから先は安全確保がされていない上に何が出てくるか不明な未知のダンジョンだ。

 すでに気持ちは探索モードである。


「何が出てくるかなー」


 真利は緊張感が薄いな。

 魔物の気配が近くにないからだろう。


「真利、未知のダンジョンだということを忘れるな。気配を消す魔物がいたらどうする」


 俺より先に英花が注意してくれた。


「うっ、ごめーん」


 その後は気を引き締めて探索を続けた。

 ただ、そういう時に限って何もないんだよな。


「これってネージュがすべて狩って回ったのか」


 呆れたように英花が口を開いた。


「あり得るな。ネージュにとっては大抵の魔物が片手間で始末できるだろうし」


 派手に魔法を使った痕跡すらない。

 本当に片手間で倒しているのだろう。


「報告のためにも後で何が出たか聞かないとねー」


「その必要はないと思うぞ、真利よ」


「えーっ、どうしてー?」


「この調子で守護者を倒してしまえば後はダンジョンコアを掌握するだけだからな」


「あっ、そっかー。ダンジョンコアから情報を読み取ればいいんだー」


「もしくは上書きして別の情報にしてしまうという手もあるな」


 英花はそう言うが。


「それはやめておいた方がいいだろう」


「なに? どういうことだ?」


「ここに入ったのは俺たちだけじゃないんだ。目撃証言と異なる魔物が出たら絶対に怪しまれるぞ」


「くっ、そうだった」


 英花は迂闊なことを言ってしまったとばかりに歯噛みする。

 別にそういう行動を起こしてしまった訳じゃないんだし悔やむほどのことではないと思うんだけどな。


「それよりも先を急ごう。ネージュが戦うところを見ておかないと」


「証言する必要があるもんねー」


 そういうことだ。

 アリバイ工作の根幹だからね。

 強いのはわかっているから見なくても実力が確かであることを保証することはできる。

 ただ、具体例を示せないと説得力が薄っぺらくなってしまうんだよな。

 そんな訳で俺たちはダンジョンの奥へと急いだ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「待ちかねたぞ、涼成」


 腕組みをして仁王立ちしているネージュ。

 芝居がかっていた訳じゃないんだけどゲームのイベントシーンみたいだなと思ってしまったのは内緒だ。


 彼女の背後には守護者とおぼしき魔物が氷漬けになっている。


「あーっ、間に合わなかったよー。倒されちゃってるー」


 真利が残念そうに言う。


「それは早とちりというものだぞ、真利」


「え?」


 キョトンとした顔をした真利だったが、すぐにハッとした表情を見せた。


「そっか。まだドロップアイテムになってないんだー」


 という訳で今からネージュの戦いぶりを見学するんだけど、ちょっと心配になってきた。

 フラストレーションを溜めた分だけ派手にやるかもしれないからね。

 見てるだけとはいえ間近で付き合う俺たちが酷い目にあいそうでゲンナリする。


「我が戦いをしかと目に焼き付けよ!」


 そう言ってフィンガースナップでパチンと音を鳴り響かせると守護者を包み込んでいた氷塊を一瞬で消し去った。

 さすがは白銀竜だね。


 氷の中から姿を現したのは肌の赤い角持ちの巨人だった。

 身の丈は2階建ての家に匹敵するほどあるので8メートルは超えているだろう。


「オーガジャイアントか」


 頑丈さとパワーは折り紙付きの厄介な魔物だ。

 具体的に言うと遠藤大尉たちが子供扱いされるであろうレベルの強さを持っている。

 ネージュの強さを証明するには丁度いいかもしれないけどね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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