326 何処でアリバイ工作するか
どう頭をひねったところで他の案など浮かぶはずもなく。
自作自演でアリバイ工作をすることになった。
「だとしても、それなりに理由は必要だろう。つなぎを任せる相手が相手だぞ」
「だよねー。遠藤大尉は勘がいいからー」
英花の言う理由とは俺たちがフィールドダンジョンに向かうことについてだ。
何の脈絡もなくフィールドダンジョンに向かえば怪しまれるのは明白だもんな。
「そんなに悩むことか? 俺たち、ちょくちょくフィールドダンジョンに潜ってるだろ。向こうだって把握してるさ」
「だが、最近は行ってないぞ」
「だったらフィールドダンジョンの探索も再開しよっかー」
「やめとけ。余計に怪しまれるだけだ」
「じゃあ、どうするのだ?」
「どうと言うほどのことはしないさ。修学旅行のついでに見かけたダンジョンが気になったから様子を見に行ったということにすればいい」
「気になって覗いてみたらネージュちゃんと遭遇したってシナリオにするんだー」
「そゆこと」
「本当にそんなので上手くいくのか」
「猿芝居をする必要はないさ。余計なことは喋らない。真利は俺たちの後ろに隠れていればいつも通りだし、英花は遠藤大尉を無視していればいい」
交渉役はいつも通り俺ってことだ。
そのぶん負担は大きいけど、異世界で王侯貴族とやり合ってきた経験を生かすだけである。
アイツらがめついところがあったから油断ならなかったんだよなぁ。
まあ、世界ごと滅んだから遺恨はないさ。
兵士長みたいなしぶといのもいたけど、奴も滅んだ訳だし。
「最悪、何かがあると思われても決定的な情報をつかませなければ構わない」
「えーっ、そんなのでいいのー?」
「いや、下手に完璧にやろうとするとボロが出やすいからな。怪しまれるのは仕方ないと開き直った方がマシだろう」
「そういうことだ。だから真利は喋らなければ大丈夫」
ネージュがドラゴンだとバレなきゃ良いのだ。
そういう訳で本人がカギを握ることになる。
俺たちが上手く立ち回れてもネージュが自ら白銀竜であることをバラしてしまえば意味がないからね。
そういう訳でタコパの後で当人に説明したところ──
「人間とは面倒くさい生き物なのだな」
呆れ顔で嘆息されてしまいましたよ?
それでも謎の異世界人設定を了承してくれたので結果オーライだ。
ちなみに長命種なので幼く見えるということにしている。
というか、実際にドラゴンは人間などよりはるかに長生きをするので本当のことなんだよね。
本人に聞いてみたら数百才を超えたあたりで数えるのが面倒になったそうなので正確な年齢は不明とのこと。
「たぶん千は超えておらぬ」
だそうだ。
こういう大雑把なところがあるから俺たちのアリバイ工作にも付き合ってもらえるのだと思う。
ちなみに何処でアリバイ工作をするかの相談は難航したよ。
東京近郊で広くてあまり人が手を出していないフィールドダンジョンという条件だったからね。
「まさか高尾山で出会ったことにする訳にはいかないしなぁ」
地図とにらめっこで、あそこでもないここでもないと言い合ったあげくに出てきたのは愚痴だった。
「そもそも青雲入道の隠れ里であってダンジョンではないだろう」
すかさず英花にツッコミを入れられてしまったさ。
「やっぱり八王子の滝山公園じゃないかなー。攻略予定だったけど保留にしてるから丁度いいと思うんだよねー」
「さっきも言ったが広さが微妙だろう。少なくとも今回のアリバイ工作には向かないと思うぞ」
真利の提案はまずまずのものだったが英花は否定的な考えを持っているようだ。
「えーっ、そうかなー?」
「ネージュが範囲魔法を使うくらい派手なことをやって我々が無事でいられるような広さがほしい」
「それだったら大丈夫じゃないかなー。真正面からブレスを受ける訳じゃないんだしー」
「我々の実力を部外者に覚られたいのか」
「あっ、そっかー」
「東京都以外で探すか」
「それもやめた方がいいだろうな。奴ならば確実に怪しむぞ」
奴というのは遠藤大尉のことだよな。
充分に考えられる話だ。
「どうすりゃいいんだよぉ」
思わず嘆きの声が漏れ出てしまう。
「いっそのこと新しいダンジョンとかできたりしないかなー」
「そんな都合良くできたら苦労しないって」
「しかもフィールドダンジョンだからな。御都合主義がすぎるというものだ」
「だよねー」
という訳で場所の選定は宿題ということになった。
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翌日は予定通り大人の修学旅行である。
特に場所を決めていた訳ではないので朝になってから地図の上に6面ダイスを落として決めた。
コイントスだと転がって何処かへ行ってしまう恐れがあったからね。
で、決まった場所が多摩動物公園だった。
「上野の動物園じゃないのがランダムで決めた感じがするねー」
「そっちの方が良かったか?」
真利にダメ出しされたのかと思って聞いてみたのだけど。
「そういう訳じゃなくてダイスの神様は気まぐれだねって話だよー」
ニッチなネタを出されてしまった。
「TRPGゲーマーにしかわからん話だな」
自嘲気味な笑みを浮かべながらツッコミを入れる英花。
「ここには一般人はいませーん」
まあ、遠征中に微妙な空き時間ができた時のためにとルールブックやダイスなんかを持ってきている時点で俺たちは一般人ではないよな。
それほど濃いTRPGプレイヤーではないつもりなんだけどね。
身内だけで遊んでいるだけだし。
それはともかく、やって来ました多摩動物公園。
「ムフロンが見たいなー」
真利のリクエストは大きな巻き角が特徴の岩場などに生息する羊の仲間だ。
家畜の羊の原種と言われているそうだけど角があるせいで山羊っぽく見えてしまうのは俺だけだろうか。
「園内マップで見ると奥の方だな。英花は見たい動物はいるか?」
「インド象とアフリカ象を見比べたいところだが」
「離れた場所で飼育されているからなぁ」
「涼ちゃんは何が見たいー?」
「サーバルとタヌキだな」
「え?」
真利には意外そうな顔をされてしまった。
真利の「え?」は十中八九、タヌキと答えたからだろう。
何と思われようと構わないけどね。
園内に入ってあれこれと動物を見て回る。
ただし、昆虫園は全員一致でスルーしましたよ?
粗方は見ただろうというところで──
『涼成、いま大丈夫か?』
青雲入道から念話で連絡が入った。
スゴく嫌な予感がするけど応じない訳にはいかないよな。
仕方ないので目立たない場所へ移動しつつ返事をする。
『どうした、何か問題でもあったのか?』
『我の隠れ里の隣にできたぞ』
『何がさ?』
『お主らがフィールドダンジョンと呼んでいるものがだ』
「なっ」
思わず声が出てしまったところで、どうにかブレーキをかけた。
周囲を見渡すが俺たちに注意を向けてくる人はいない。
どうにかセーフだったようで安堵する。
まあ、見られたとしても変な人だと思われるだけで大きな実害はないだろうけど。
なんにせよ俺たちに連絡してくるということは、ここでアリバイ工作しろってことなんだろうな。
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