325 受け入れ問題
「事情はわかった。三智子を魔法で癒やすのは得策ではないというのだな。ならば仕方あるまい」
ネージュさん、回復系の魔法を使おうとしてましたね?
こちらの都合を考慮して思いとどまってくれたのは幸いだ。
一応、人間社会を理解しようとしてくれているらしい。
そういや今後しばらく俺たちのところに来るという話だったよな。
神様たちに押しつけられたようなものだけど、面倒を見るのが大変そうだからって友達を無視する訳にはいかないもんなぁ。
日常生活を送る分には存在感を抑えてもらって常識を教えていけば何とかなりそうか。
問題は俺たちがダンジョン攻略をする時だ。
何日かは修学旅行に切り替えることになっているから時間は稼げるけど。
その後は絶対に付いて来ようとするだろうし。
毎回、姿を消してなんてことを続けていたら、そのうちボロが出そうな気がする。
真正面から堂々とダンジョンには入れるようにできればいいんだけど、どう考えても難しいなぁ。
見た目が小学生では上手く戸籍を偽造できたとしても冒険者免許を取得する試験の際にバレる恐れが大だ。
実に厄介な問題である。
今すぐ答えが出せそうにないから宿題にしておくか。
後で英花や真利と相談してみよう。
三人寄れば文殊の知恵とも言うから妙案が出てくるかもしれない。
「三智子よ、我が友はお主の今後を真剣に考えておるようだぞ」
何故かドヤ顔で語るネージュである。
それを受けて三智子ちゃんは神妙な面持ちでコクリとうなずいた。
「三智子が納得したのであれば、後は今宵の宴を楽しむのみよ」
「宴? タコ焼きパーティのこと?」
「うむ。涼成たちに言わせればタコパと言うらしいがな」
若干、不思議そうにしながらも三智子ちゃんは、ふうんとうなずいた。
「タコ焼き、食べたことない」
「なんだ? まだ食べておらなんだか」
ネージュは今晩だけのことと思っているようだが、そうではあるまい。
あの親代わりを務めていた親戚がまともな食事を与えていたとは思えないからね。
ペットフードを与えていたと言われても驚かないよ。
もし事実だったら本気で怒るけど。
「ならば、空いている所に並んで少しでも早く食べるのだ」
そう言ってネージュは三智子ちゃんの手を引いて行ってしまう。
「順番を守るという概念を理解しているのは助かるな」
2人が奥の方で並んだのを見て英花が言った。
「理解はするだろうさ」
有象無象の魔物とは一線を画す存在であるドラゴンだからね。
問題はそれを受け入れるかどうか。
気に入らないからと拒否されていたら今後が大変なことになっていたことだろう。
それを思えば、中身がどうであれ結果が同じならば満足すべきだと思う。
「うちで面倒見ないといけないそうだからな」
「そうだったー。青雲さん、あんなこと言ってたけど本気なのかなー?」
「青雲入道は、あんなことを冗談で言ったりしないだろう」
半信半疑な真利の疑問に英花が答えた。
「だねー。大変だー」
「他人事みたいに言うな、真利。さては涼成に丸投げするつもりだな」
「えーっと、できれば涼ちゃんにお願いしたいなとー」
まだ完全にネージュと打ち解けた訳じゃないから、逃げ腰なのもしょうがない。
英花もそれがわかっているから深くは追求しないようだ。
「俺がメインなのは構わないんだがフォローは頼むぞ。丸投げは勘弁な」
特に女子でなければならない状況の時は俺は無力だし。
「はーい」
憂鬱そうな表情を覗かせながらも一応は返事をする真利。
返事をした以上は約束を違えることはないだろう。
「本当に大丈夫か?」
懸念材料があるのか英花は安請け合いはしなかった。
「じゃあ、英花は断れるか?」
そう問い返すと英花は表情を渋らせた。
「いや、無理だ」
「だよな」
神様たちからのお願いなんだから。
「問題はどうやって冒険者免許を取得させるかなんだよ」
「涼成はそんなことを考えていたのか?」
英花は呆れ顔で聞いてくる。
「しょうがないだろ。俺たちがダンジョンに潜ってる間は留守番してろってネージュに言えるか?」
そう問うと英花はグッと言葉に詰まっていた。
「しかし、いくらなんでも無茶すぎないか」
「人化した時の見た目が小学生だもんねー」
「それなんだよー」
「大人の姿に変身してもらうとかは無理なんだろうな」
それは俺にはなかった発想なんだが素直にうなずくことはできそうにない。
「できるかできないかで言えばできると思うけどー、たぶん嫌がるんじゃないかなー。たぶん今の姿が一番のお気に入りなんだと思うよー」
「俺もそう思う。頼んでも拒否されるか、機嫌を損ねるだろうな」
さすがに激怒はしないと思うけど。
「では、どうするのだ?」
「それ以前にネージュちゃんは戸籍がないから冒険者登録できないよー」
「そうだった。八方ふさがりじゃないか。どうするんだ、涼成」
「それを相談してるんだって」
そう簡単に良いアイデアは出てこないか。
3人で溜め息をついてしまう。
難問すぎて途方に暮れてしまうよ。
お通夜のような空気のまま沈黙が続くことしばし……
「ヤッホー。今宵もお呼ばれに来たよー」
不意に声をかけられた。
青龍様たちだ。
「ゲームで勝負してたんじゃないんですか?」
「お呼ばれしてるのに何の制限もなくゲームをするほど愚かではないつもりだよ」
「よく言う。3本勝負が10本勝負になっていたではないか」
自制が利いていると胸を張る青龍様に金竜様のツッコミが入った。
「それは言わないでよー」
嘆きつつ抗議する青龍様だけど自業自得というものではないだろうか。
一方で歯止めがきかなかったことを反省しているのか猿田彦命は無言でションボリしていた。
負けたことも影響してると思うけど、それを言ってしまうと余計に落ち込ませてしまいかねないのでスルーしておこう。
「ところで宴にしては雰囲気が暗かったな」
そう声をかけてきたのは白龍様だ。
話を振ってくれたのは幸いかもしれない。
元々、神様サイドから振られた話から発生した問題なんだから遠慮することはないよな。
そんな訳でお知恵を拝借とばかりに事情を説明した。
「そんなに悩むことかな」
説明が終わった直後に口を開いたのは猿田彦命だった。
「だね。解決するなんて簡単だよ」
「何を悩む必要があるというのだ」
青龍様も金竜様も同じ意見らしい。
「灯台もと暗しとも言うし、気付いておらんのではないか」
白龍様は意味深なことを言っているようだけど俺にはピンとこない。
英花や真利の方を見てみたが小さく頭を振られた。
「ネージュは異世界から来たんだから正直にそれを言えばいいだけじゃないか」
「ドワーフやエルフもそうだっただろうに」
猿田彦命が答えを教えてくれただけでなく白龍様も前例があると補足してくれた。
「そうは仰いますが、北海道を支配するドラゴンだなんて言った日にはどうなることか」
だからこそ悩んでいたのだ。
「言わなきゃいいじゃないか。謎の異世界人で凄腕の氷魔法使いという触れ込みにしておけば何の問題もないと思うよ?」
「左様、すべてを語る必要などない。それが処世術というものだ。ついでに適当なフィールドダンジョンで出会ったことにすれば言い訳もしやすかろう」
青龍様も金竜様もスゴいことを言い出したものだ。
知っている情報を一部伏せたり、アリバイ作りをしろと言ったり。
神様としてその考え方はどうなんですかね。
読んでくれてありがとう。
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