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321 タコ焼き焼きます

 今宵も高尾山の隠れ里へお邪魔しましたよ。

 フリーパス状態で転移できるのは実に楽ちんでありがたい。


「いやぁ、どうもすみませんねえ。昨日に引き続きこんなに沢山の食材をいただいてしまって」


 それなりの量のタコ肉を渡したんだけど、受け取った倉庫番の烏天狗がヘコヘコと頭を何度も下げるのには参った。

 おまけに修験者の格好をしているから違和感を禁じ得ないし。

 踏ん反り返ればいいというものでもないけど腰が低すぎやしませんかね。

 とはいえ、指摘したところで彼は変えるつもりもないだろうから何も言うつもりはない。


「涼成さーん」


 奥の方から小走りで現れた別の烏天狗が呼びかけてきた。


「頭領が呼んでます」


「はいよ」


 返事をして倉庫を後にする。

 倉庫番の烏天狗もササッと食材を片付けて、すぐに追いついてきた。

 隠れ里に転移してきた直後に出迎えた烏天狗にタコパをする旨を伝えたから楽しみにしているのだろう。


 まあ、彼だけでなく他の面々も楽しみにしているのは一目瞭然である。

 皆そわそわしているし。

 青雲入道も待ちきれずに俺を早く来させるために使いを出すくらいだし。


「涼成さん、鉄板の準備は完了していますよ」


 呼びに来た烏天狗も待ちきれない口のようで向こうの状況を教えてくれる。


「あー、タコ焼きは普通の鉄板を使わないんだ。専用のものを使う」


「なんと!? そうなのですか?」


「タコ焼きは見たことなかったっけ?」


「残念ながら、お供え物は日持ちのするものばかりでして」


「話に聞くばかりで想像を膨らませていましたから」


 ションボリする使いの烏天狗と倉庫番。


「それでよくお好み焼きとか、おでんが作れたなぁ」


 あとはラーメンもか。


「まれに隠れ里へ迷い込む人間がいましてね」


「あー、いるみたいだね」


 それは知っているが、それと何の関係があるのだろうか?


「迷い込む人間は大抵が大怪我をしているのですよ。その傷を癒やす間はここに滞在させているのです」


 へえ、それは初耳だ。

 けれども無慈悲に放り出したりしないのは青雲入道たちらしいかな。

 もっとも、ここで傷を癒やすことを認められる相手は限られているだろうけど。

 例えば三智子ちゃんとか。


「じゃあ、その期間に調理法を教わったと?」


「ハハハ。教わったというか押しつけられたというか」


「んん?」


 押しつけられるってどういうことさ。


「ここでは外の料理を作れる者がいませんからね」


 レパートリーが少ないと言いたいのかな。


「好物が食べられず強く焦がれる人間も出てくるのですよ。そうなると思念がダダ漏れになるんですよ」


「あー、なるほど。嫌でも伝わってしまうと」


 本人が意識しなくても念話のようになってしまっている訳だ。

 修行を重ねた天狗や烏天狗たち伝わってしまうのは必然というもの。

 押しつけられたと言うのも無理はない。


「そういうことです」


 烏天狗たちが苦笑する。


「そして、その中にタコ焼きはなかったと」


「ええ。話には聞いていたんですがねえ」


 ここが大阪ならきっとタコ焼きも押しつけられたラインナップに加わっていたんだろうけど。

 それならお好み焼きはどうなんだという話になるかもしれないが、そこは人の好みはそれぞれだから、そういう縁だったとしか言えない。

 現にお好み焼きは普通のと広島風の両方があったから、その時の遭難者は食べ歩きが好きな人物だったのかもしれないね。


 そんなこんなで雑談をしながら歩いていると青雲入道の元にたどり着くのはすぐだった。


「おっ」


 今夜もいますよ、ネージュさん。


「涼成、タコ焼き」


 第一声がそれですか……

 イカ焼きと言わないあたりに期待感を感じる。

 ネージュの目力のこもった視線がこちらに向けられていることからも、それは明らかだ。


「頼む、涼成。先程から急かされていてな」


 青雲入道は一目見てわかるほどの困り顔だ。

 この目力でネージュからずっとプレッシャーをかけ続けられていたのなら無理もないか。


「はいはい、了解」


 視線で射貫かれてはたまらないので早々に準備を始める。

 ここに来るまでに種は仕込んでおいたから後は焼くだけだ。


 大阪のタコパでお世話になったカセットコンロの魔道具版を次元収納から出す。

 もっと大きなタコ焼き用の鉄板を用意することもできたのだけど、それは失敗しそうな気がしたのでやめておいた。

 プロじゃないので数を焼くのも限度があるのだ。


 ここの面子の胃袋を満たすには20個分の鉄板では到底追いつかないのだけど、そこは人海戦術である。

 錬成のスキルで複製した魔石コンロを次々に出していく。

 面子は……


「あ、英花。大阪組を連れてきてくれるか。しばらくは何とか持たせるから」


「わかった」


 返事をした英花は、すぐ大阪組に念話で連絡を取り転移していく。


「あと、調理に自信のあるカラスさんは前に来てくれるか。見て覚えてくれると助かる」


 俺の呼びかけにより何人かの烏天狗が集まってくる。

 ただ、何故かネージュがかぶりつき状態で真正面を占拠していた。


「自分で作ってみたくなったのか?」


 頭を振って否定するネージュ。


「興味津々。イカ焼きとまったく違う道具が面白い。どうなる? どうする?」


 子供かよ。

 人化した時の見た目は子供なんだけどさ。


「いいけどね」


 普通なら火を使うから危ないと注意するところだけど、相手は白銀竜である。

 タコ焼きのために使う火力でどうにかなるはずもないので何も言わない。

 それよりも調理を始めよう。


 コンロに火を入れる。

 カセットガスのかわりに魔石を使って火属性の魔法が発動するようにしてあるけど、操作方法は同じだ。

 レバーをひねってカチンと音がしたら火がつく。

 そうしたら鉄板のくぼみに油引きを使って油を塗っていく。

 次に種を流し込んでタコの切り身を入れる。


 しばらく待って火の通り具合を見極める。

 頃合いになったらタコ焼きピックを使って焼けた生地の部分を上に来るようにひっくり返す。

 ここはスピード勝負だ。

 でないと最後にひっくり返すタコ焼きが焦げ焦げになってしまうからね。

 とはいえ本職のようにはいかないので一度に焼ける数はどうしても少なくなる。

 だから、このサイズのコンロにしたのだ。


「生き物みたいで面白い」


 ネージュが瞳を輝かせている。

 烏天狗たちも感嘆の溜め息を漏らしながら見入っているな。

 手際は良くないと思うんだけど。

 これで大阪組が来たら、どうなることか。


 その大阪組が来ないから内心ちょっとやきもきしてるのは内緒だ。

 転移で行って戻ってくるだけなら、とっくに姿を見せているはずなんだけど何かあったかな。


 そうしているうちにタコ焼きが焼き上がった。

 真利が差し出してくれた舟に10個ずつタコ焼きをのせていく。

 それにソースを塗って青のりを振りかけ鰹節をまぶして完成だ。

 その間に俺は次を焼いていく。


「中の具合を食べて確かめてみてくれるか。作る時の参考になると思う」


 火を通しすぎるとタコ焼きは美味しくなくなるからね。

 それが言えるくらいの出来にはなっているはずだ。

 ただ、俺は次の焼きに入っているので手が離せず自分で確認はできない。


「涼ちゃん、オッケーだよー。熱々トロトロに仕上がってるー」


 タコ焼きを頬張った真利が口をホフホフさせながら教えてくれた。


「そうか」


 とりあえず一安心だ。

 じゃんじゃん焼いていくぞ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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