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320 6層探索4日目・ひとつじゃない

 7層への階段は対岸にあった。

 砂浜に上がって装備を通常のものに戻す。

 水中戦装備に完全防水がついているおかげで濡れていないから、ササッと終わったよ。


「時間がかかった割になんだか呆気なかったねー」


 色々とあったせいか真利の言うこともうなずけるというものだ。

 RPGだとイベントバトルが同じ階層で2回あったような感じか。

 これが通常戦闘だけだったら、こんな風に思うこともなかったんだろうけど。

 作業プレイになりがちだからね。


「7層もこんな感じだと先が思いやられるな」


 イベントバトルばかりだとダンジョンに振り回されている気がしてならないんだよね。

 普通に探索して魔物を狩るだけだと時間経過とともに飽きが来るので贅沢な悩みではあると思うのだけど。

 ほどほどにイベントを入れてくれませんかね、とダンジョンに言いたいところだ。

 もちろん、ダンジョンコアがそんな要望を聞き入れてくれるはずもないのだけど。


「さすがに7層まで海ということはないだろう」


 英花は何か誤解しているようだ。


「海かどうかは知らないがゲームのイベントバトルみたいなのが続くのは勘弁してほしいって話だよ」


「なんだ、そういうことか。それは無理な相談だろう。自分たちでデザインし直さない限りはな」


「7層はどんな所かなー」


 真利は明日以降に探索する7層のことで頭がいっぱいのようだ。

 この様子だと今から見に行きたいと言い出しかねないな。


「覗きに行くのはなしだぞ、真利。事前にそう決めただろう」


 俺より先に英花が釘を刺した。


「わかってるよー。ちょっと想像しただけだもん」


 わかっていると言いつつも不服が隠しきれないようで真利は唇を尖らせている。


「ならいいがな。何にせよ、しばらく海は探索したくない」


 英花はこりごりだと言わんばかりに疲れた表情を見せながら溜め息をついた。


「ええー、そうなのー? 美味しそうな食材がいっぱいゲットできるのにー」


 真利にとってはダンジョンに振り回されることより食材の方が大事なようだ。


「今日までに確保した分だけで充分だろう」


「えーっ、そんなことないよー。魚はもっと色んな種類を確保したいしー。カニとかエビも足りないよー。他にも貝類だって欲しいなー」


 食欲全開だな。

 そこまで食いしん坊キャラじゃなかったと思うのだが。

 イカ料理をあれこれ食べたことで刺激されて海の幸が足りていないとでもなったのだろうか?


「そのラインナップだと寿司か。久しく食べていないな」


 ウンザリした表情を見せていたはずの英花が興味を引かれている。

 英花も食いしん坊キャラではない。

 2人して海の幸欠乏症にでもなったのかね。

 それともミサイルスクイッドからドロップしたイカ肉に変なものでも混ざっていたか?


 まあ、それはないか。

 状態異常なら俺も同じようにかかっているかレジストした自覚がないとおかしい。

 気づきが何もなくて2人のように無性に海のものが食べたくなる訳でもないのだから状態異常はないのは確かである。

 そもそも龍神様の加護のおかげで毒無効になっているんだから、妙なことになっているはずはないのだ。


「帰ったらタコ焼きでも作るか?」


 とりあえず7層への興味が強まらないように誘導を試みる。


「いいねー。イカ焼きだけだと物足りないなーって思ってたんだよねー」


「大阪の連中のように美味く作れるだろうか」


 真利はストレートに賛成で、英花は賛同しつつ先の心配をしている。


「美味いかどうかもわからないものを買ってきて食べるよりはいいと思うんだけどな」


「そうだよー。失敗も味のうちだよー」


「何だ、それは?」


 呆れ顔で問う英花。


「ちょっと失敗したくらいの味なら酒の肴にすればいいってことだよー」


「大いに外した時はどうするつもりだ」


「それはないよー」


 自信満々の表情でケタケタと笑いながら真利は断言した。


「だって大阪でタコパした時にいっぱい作ったじゃないー」


 生地の作り方もしっかり教わったし大失敗することはないか。


「む、そうだったな」


 英花も納得したようだ。


「ならば帰るか」


 納得すると決断が早いな。


「ちょっと待ってくれ。念のため千里眼で外周を確認しておく」


 一直線で来たからなぁ。

 外周部だけでも何かないかを見ておきたい。

 なんとなくだが予感めいたものを感じたのだ。


「わかった」


「いいよー」


 2人の許可が得られたので千里眼を飛ばして時計回りに6層の外周をザッと見ていく。

 泳いでいた時よりもはるかに速い速度なので1周するのにそう時間はかからないだろうと思っていたのだが……


「は?」


 推定だが外周の4分の1ほどを飛んだあたりで発見してしまった。


「どうした、涼成。何があった?」


「ここと同じような砂浜だ」


「なにっ!?」


「もしかして階段もあるのー?」


「ああ、下りの階段がな」


 この発見は明日以降の探索に影響してくる。

 どちらの階段を下りて探索するかも検討しなければならないからね。


「場所はどのあたりだ?」


 目印になるようなものが何もない場所で英花は難しい注文をしてくれるじゃないか。


「下りてきた階段とここからそれぞれ同じくらいの距離の外周部だ」


「そうなんだー。じゃあ、もうひとつくらい階段があるかもねー」


 真利はなかなか嫌なことを言ってくれるな。

 俺も同感なんだけど。


「少し待ってくれ。確認する」


 止めていた千里眼を再び高速で飛ばす。

 じきに5層へ上がる階段のあるセーフエリアが見えてきた。


「距離はさっき言った通りだな」


 ここからさらに同じくらい千里眼を飛ばして砂浜を発見すれば当たりということだ。

 もちろん飛ばすのは続行している。

 そして……


「あったぞ。さっき見つけたセーフエリアと丁度反対側あたりだ」


 念のため千里眼はそのまま飛ばす。

 じきに戻ってきたが新たな発見は何もなかった。

 階段が他にふたつもあったのだから、これ以上は勘弁してほしいけどね。


「ここから先は面積が3倍になるのかなー」


 真利が不穏なことを言ってくれましたよ。


「さすがにそれはないと思いたい」


 ダンジョンの中じゃ何があるかわからないから断言はできないのだけど。

 今よりさらに広くなるなど考えたくもない。


「3倍は無いかもしれないが、先の階層が3分割される恐れはあるだろうな」


 英花が否定しづらい推理をしてくれた。

 ダンジョンコアへの負荷を考えると、面積3倍よりもありそうな話だからね。


「できれば、どちらも外れてほしいなぁ」


 ぼやかずにはいられないというものだ。


「同感だ。しかし、ダンジョンはこちらの都合など考慮してくれないからな」


 それはわかっちゃいるのだ。

 けれども楽をしたいと思うのが人間というものである。


「涼ちゃんは疲れてるんだよー」


 同感だが、それを言うなら真利も英花も同じである。


「しばらく休むか。修学旅行の方にシフトしてもいいだろう」


「だねー」


「私もそれでいいと思う。7層への階段が3個所あることについては休暇明けに考えるとしよう」


「賛成ー」


「右に同じだ」


「では、少し早いが帰ろうか」


 これも反対する理由はない。

 俺たちはダンジョン攻略を切り上げて早退することにした。


「帰ったらタコパだよー」


 イカ焼きパーティをしたばかりなんですがね?


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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