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32 便利道具のようにはいかない

 真利の提案により1号は声を得ることになった。

 ただし、真利の声を加工した訳ではない。


「AIに好きな声で音声応答させたくて、いっぱいサンプリングしたんだよねー」


 という訳である。

 真利がノリノリだったこともあって使わせてもらうことになった。


「どうせなら1号に選ばせようじゃないか」


 英花の提案により1号を連れて真利の家に戻ってきた。


「転移魔法って本当に便利だよね。涼ちゃんは使えないの?」


「どうかな。練習すればできると思うけど使いこなせるようになるまでは魔力効率が悪いだろうなぁ」


「どのくらい?」


「たぶん10倍以上」


「ええーっ!?」


「空間系の魔法はそれだけ難しいんだ」


「機械的に呪文を唱えれば魔法が使える訳じゃないんだね」


「まあな。てか、転移魔法で呪文を唱えてなかっただろ」


「あ、そっか」


「けどまあ、機械的に魔法を使う方法がない訳じゃない」


「そうなの?」


「魔道具があるからな。真利のコンパウンドボウも魔力でアシストする魔道具にしただろ」


「っ! そうだね」


 俺の指摘は目から鱗が落ちるに等しいものがあったようで真利は両目を大きく見開いていた。


「じゃあ、あの国民的アニメの便利道具どこで門とかも作れるんじゃないの」


 期待に瞳を輝かせながら聞いてくる。


「アレとまったく同じ機能を再現するのは不可能だな」


「そうなんだー……」


 俺の返事を受けて真利のテンションは一気に下がった。


「言っとくが、あれはアニメの中じゃ何気なく使われてるが超チート道具なんだぞ」


 まあ、あの作品に出てくる便利道具はそのどれもがチート級なんだけどさ。


「なんと言っても行ったことない場所に行けるだろ。あんなの転移魔法じゃ無理だ」


 真利がキョトンとした顔で見てくる。

 この調子だと、転移魔法で無条件に移動できると思っているみたいだな。


「行きたい場所が自分の知らない場所なんてヤバいだろう」


「そうだな。座標設定があやふやなまま転移魔法を使ったら何処に繋がるかわからない」


 英花も援護するように補足説明してくれた。


「あっ! そっかー」


 どこで門と同等のものを作り出すことがどれほど無茶なことか理解した真利が力なく肩を落とす。


「そんな落ち込むなよ」


「うん……」


 返事はするがションボリしたままだ。

 このままだと俺が悪者になったみたいな気にさせられるな。


「固定された場所同士をつなげるゲートみたいな魔道具ならできるぞ」


「えっ、ホント?」


 ダメ元で言ってみたんだが真利のテンションが復活したな。


「機能を絞りに絞れば問題なく作れるさ」


「それって涼ちゃんの家とここを繋げられる?」


「ああ、座標は固定だし知ってる場所だからな」


「自由に行き来できる?」


 食い気味に聞いてくる真利。


「要するに好きなときに遊びに来たいのか」


「うん。ダメかな?」


「好きにすればいい。そういうことなら繋げるさ」


「ホント!?」


「ウソついてどうするよ」


「だってー」


 嬉しいのか不安なのか真利は半べそをかいている。

 やっぱり俺が悪者にされた気分だ。


「思うんだが」


 ここで英花が話しに入ってきた。

 たぶん真利がマジ泣きしかけているのを見かねてのことだとは思うのだが。

 正直、助かった。


「真利さえ良ければ、我々がここに間借りするのではダメか?」


 英花のその質問に俺も真利もキョトンとしてしまった。

 想像だにしなかった意外な提案でもあったからだ。


「空いている部屋は多いのだろう?」


「うっ、うん。そうだね、その方がいいよ。楽しいよ!」


 真利はフンスフンスと鼻息も荒く大いに乗り気である。

 俺も反対ではないな。

 ここで住めば通信環境の問題も一気に解決する訳だし。

 直接ダンジョンからの出入りを繰り返せば自衛軍に目をつけられる恐れもある。

 うちのフィールドダンジョンを調査するとか言ってたしなぁ。

 ヘンドリック少尉の報告で中止されたとしても人が出入りしていると知られれば、今度は俺たちが調査対象になりかねない。

 そんなことを考えていたら──


「ゲートを繋げなくて良くなるからセキュリティの問題も発生しないぞ」


 英花が大事なことを指摘してくれた。


「あー、泥棒とかに入ってこられると厄介だな」


 泥棒から家の秘密が外部に漏れるということまでは考えてなかった。

 異世界で修羅場をくぐってきたとはいえ日本での社会経験の乏しさが露呈した訳だ。

 用心深いつもりが無防備だったんだから情けないよな。


「だが、繋げるのは無しにはしないでおこう」


 魔道具で転移を行う場合、見かけ上は自前以外の魔力を簡単に使えるからね。

 刻み込む術式がどれだけ複雑だったり膨大だったりしても普通に使う分には見えないし。

 問題は雑魚魔物の魔石程度じゃ、いくつ集めれば起動させられるかってことだな。


「なにっ?」


「転移するたびに自前の魔力を消耗するのはもったいないだろ」


 そんな訳で外部供給する魔力はダンジョンそのものから引っ張ってくることにした。

 俺たちが掌握する前はやたら空間拡張していたけど今は大幅に減らしているのでかなり余力があるんだよな。


「それはそうだが」


 最初からセキュリティを気にしていた英花は安易に賛成はできないようだ。

 固執しているせいか思考停止している部分があるかもしれない。


「要はこの屋敷に不法侵入させなければいいんだろう?」


 俺の問いかけに英花はハッとした顔を見せた。


「なるほど。無防備でなくせばいいのか」


「どうするの?」


 真利が不安げな面持ちで聞いてくる。

 屋敷を魔改造して要塞化するとでも思ったのだろうか。


「見た目は大幅には変えないさ。防犯カメラくらいは取り付けることになるけど」


「あっ、それなら通販で買ったのがあるよ」


「設置してないのかよ」


「ポチったら安心しちゃって」


 荷物が届く頃には設置するためのやる気が萎えていたってところか。

 何にせよ現物があるなら設置して監視体制を整えるまでだ。


 そんな訳で真利が購入したという監視カメラを見せてもらったが、何台もカメラがあるセットものの本格的なやつだった。

 あまりにカメラが多いので監視する際は負担がかなり大きいはずだ。

 使用するカメラの数を限定することも考えたが、それだともったいないしな。

 そういう話をしたら──


「AIに監視させれば大丈夫だよ」


 真利があっさりと解決してしまった。

 元々そのつもりで予定していたので株の売買で使用しているのとは別のAIがあるらしい。

 そんな訳で設置は後日になったけど監視については解決した。


 とはいえ監視するだけじゃ意味がない。

 普通は警備会社と契約して通報したら駆けつけてもらうとかあるんだろうけど、俺たちの場合はそれだとマズい。

 俺たち自身で守ることもアリと言えばそうなんだが、常に即応できるとは限らない。


 ならば専任警備員が必要だよなということで召喚魔法を使うことにした。

 これも後日だ。

 真利も加えて3人で儀式魔法を使うためである。


 そんな訳で爺ちゃんの家と真利の家を行き来できるゲートを作るのは先のことになってしまった。

 急ぐ訳ではないし真利も目標ができて、今まで以上にやる気になっているので良しとしよう。


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