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319 6層探索4日目・涼成フラグを立てる?

 クラーケンからドロップしたアイテムをすべて検品してから念動の魔法を使って次元収納へと回収。

 ドロップアイテムに不良品は存在しないんだけど検品したのはレアアイテムが混じっている可能性があるかもと思ったからだ。

 残念ながらひとつも無かったけどね。


『中途半端な時間だな』


 そう言ったのは時計を確認した英花だ。


『どうするの、涼ちゃん? 7層に行っちゃうー?』


『7層を覗いてしまうと探索を続行したくなるかもしれないぞ』


 正直なところ7層を探索する時間はないだろう。

 7層へ至る階段も未発見の現状ではなおのことである。


『もうちょっとあるあるだな』


 英花は身に覚えがあるのか苦笑しながら言った。

 もうちょっとあるあるとは、最初はそのつもりがなくても未知のものがあるかもしれないという思いが先へ先へと誘ってしまう抗いがたいものだ。

 結果として止め時を見失い気付いた時には想定外に時間を費やしてしまっている点が恐ろしい。


 単に帰還するのが遅くなるだけであれば、さほど問題にはならないかもしれない。

 しかしながら、このあるあるの恐ろしいところは気付かぬうちに無理をしているかもしれない点にあるのだ。

 ベテラン冒険者になればなるほど、無理をすることの危険性を身に染みて理解しているため自重するようになるのだが。

 それも条件しだいでは「もうちょっと」が発動してしまう。

 欲望なのか、やむにやまれぬ事情があるからか、人それぞれではあるのだろうけど。


 経験が乏しい初心者などは条件のハードルが低い。

 結果、しくじる冒険者は初心者ほど多くなる。

 痛い目を見て勉強することになるならともかく帰らぬ人になってしまうことも少なくない。


 まあ、それはベテランでも同じことが言えるのだけど。

 俺たちも調子に乗らないようにしないとな。


『じゃあ、少し早いけど帰るー?』


『微妙なところだな。夜まですることがないぞ、真利』


 英花は手持ち無沙汰になることを懸念しているようだ。


『いいんじゃないー? ゲームしたり動画見たりすれば、あっという間だよー』


 平然とした様子で問題ないと返事をする真利。


『それなら7層へつながっている階段だけ見つけておこうか。そこでマーキングして帰るってことで』


『大丈夫か、涼成? そこから、もうちょっとあるあるが発動してしまわないか?』


『それなら浅い層で時間調整して帰ればいいさ』


『む、それもそうか。未攻略の7層に行かなければならない決まりはないんだしな』


『通過してきた層だったら時間調整も難しくはないよねー』


 真利は何が大事か正しく理解しているな。

 目先のことにとらわれて目的と手段を履き違えるなんてことは珍しくもないことだけど。

 現状の目的はあくまで時間調整である。

 それを見失ってしまうような行動は回避すべきなのは言うまでもない。


『という訳で階段目指して前進だ』


『階段を発見したら転移用のマーキングだけして下には行かない、でいいんだな』


 英花が念押しするように確認してくる。

 いつになく慎重だけど嫌な予感でもしているのかな?


『もちろん』


 そうして俺たちはウエットスーツの遊泳モードで移動を再開した。

 進む方向は下りてきた階段の直線上だ。

 バカ正直に真っ直ぐ進んでも階下への階段は発見できないかもしれないが、それでもこの6層の反対側の壁面には行き着くはず。

 なければ壁面に沿って移動するだけである。


 いずれは階段を発見できるはず。

 海底に設置されていない限りはね。

 ただ、それは無いと思っている。

 水中にセーフエリアを設定して階段を設置するのはリソースを食うからね。

 そんなことをするくらいなら中ボスを少しでも強くする方がいい。

 仮に突破されても下の階層で対処すれば良いだけのこと。


 それとリポップのタイミングを少しでも早めたいなら他で余計なことをして負荷がかかるのは得策ではない。

 中ボスが倒されてリポップするまでの間に他の冒険者たちが素通りできるような状態になったら意味がないからね。

 そういう事態に陥りそうになったら中ボスではなく通常の魔物が大量に出てくるトラップの方に切り替えるのかもしれないけれど。


『もしかしたらだけど』


『何だ? どうした、涼成』


『明日、6層に来たらイカ釣りができるかもな』


『例のトラップに変わっていると?』


『ああ。絶対とは言わないけどな』


『涼ちゃん、クラーケンがリポップするんじゃないのー?』


『そのための時間稼ぎみたいなものだ』


『なるほど。あれだけの大物をリポップさせるには数日かかってもおかしくないな』


『通常サイズの魔物をたくさん出す方が負担も少ないかもしれないねー』


『かもしれないではなく少ないのは間違いないぞ、真利よ。それでも一晩はかかるだろうがな』


『そっかー』


『いや、数を減らして間に合わせに出してくることも……』


 最後まで言い切る前に進行方向から魔物の気配を感知した。


『どうやら涼成の言う通りになったようだな』


『フラグ立てちゃダメだよー、涼ちゃん』


 英花と真利はジトッとした視線を俺に向けてくる。


『俺が悪いのかよ』


『そうだ』

『そうだよー』


 2人がハモって肯定してくれた。

 俺が魔物が出てくるかもしれないと言わなかったとしても敵は来たはずなのに。


『理不尽だ』


『フラグを立てる涼ちゃんが悪いんだよー』


『ぐぬぬ』


『ボヤボヤするな。確実に目をつけられてるぞ』


 敵はゆったりとした動作で泳いでいる。

 まだ本気になっていないのだろう。


『なんだか大きくないー?』


『そうか? クラーケンを見た後だと子供のように思えてしまうんだがな、真利よ』


『英花ちゃん、中ボスと一緒にしちゃいけないよー』


『だが、油断していい相手じゃないぞ。あれは砲弾マグロだ』


 砲弾マグロは全長5メートルにもなるマグロの魔物である。

 魔物でないマグロだと3メートルほどが最大のサイズらしい。

 それより二回りは大きいとなると攻撃力もハンパではなかろう。

 攻撃手段は突進からの体当たりのみなんだけどね。


 まあ、その唯一の攻撃が破壊力抜群だったりするのだが。

 故に砲弾マグロと呼ばれる。


『来るぞ!』


 英花が警告を発したものの、まだ巡航速度だ。

 奴らはもっと近づいてから一気にトップスピードへ加速し体当たりしてくる。

 加速のタイミングがなかなかにシビアで回避も難しい。


『来た! なっ!?』


 2回目の警告で砲弾マグロは英花に向けて加速してきた。

 水中戦装備でなかったら回避は間に合わなかったかもしれない。


 英花は自分に向かって来たことで一瞬は驚いていたが、そこからは的確に対処していた。

 高速移動モードで背後へ泳ぐ。

 相対速度を少なくしてから側面に回り込むようにして大剣で切りかかる。

 クラーケンの時と違って、それだけで決着がついた。

 呆気ないものである。


 ドロップアイテムは図体に見合った大きい魔石と3種のマグロ肉だ。

 赤身が最も多く、中トロ、大トロの順に量が減っていく。

 といっても海の魔物の中では図体の大きい部類ゆえか肉のサイズも結構なものだ。

 もちろんすべて回収させていただきましたよ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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