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315 6層探索4日目・海魔

『とりあえず仮説については後回しだ。寝坊助な中ボスがお目覚めのようだぞ』


 なかなか上がってこないと思っていたのだけど、ようやく戦う気になったらしい。

 ちょっとホッとしたよ。

 無防備に話し込んで誘っていたのに釣れなかったのでは骨折り損だからね。


『待ってましたー。何が来るかなー?』


『待ちくたびれたぞ。我らだけで大物の狩りをすることになるとはな』


 真利も英花もすぐに戦闘態勢を取る。

 ワクワクしている英花に対して英花は興味が薄そうだ。


『しかし、大物にしては浮上してくるのが遅くないか?』


 そこが引っ掛かったようだ。

 言われてみれば確かに遅い。

 ただただ浮力に任せて浮かび上がってきているなら納得もするのだけどイメージとあまりにも違いすぎる。

 もしかすると推進能力に乏しいタイプなんだろうか。


 鈍重だと大きさとか関係なく戦いは一方的な展開になりそうだ。

 もちろん、こちらが相手をタコ殴りにする格好になるのは言うまでもない。

 それを思うと残念というか無念というか。

 巨大なサメとかクジラの魔物を想像していたから、どうしてもガッカリ感が出てしまう。

 英花のテンションが微妙なのもそういうところがあるのかもしれない。


『確実に20メートル超級の奴だと思うんだがなぁ』


『それはスッゴいねー』


 真利はテンションが上がっているけれど。


『昔のアニメに出てくるメカとかのサイズかと思うと燃えるよねー』


『昔のアニメ? ああ、真利の好きなグランダムとかいうロボットアニメか』


 英花も動画の視聴に付き合わされていたせいか、すぐにピンときたようだ。

 グランダムは今でも続編や派生作品が製作されている人気作だということは俺も知っている。

 何度も映画化されているくらいだからね。

 最近も劇場版の製作が発表されたそうだし。

 ただなぁ……


『アレと同じようなイメージでいると幻滅することになりそうだぞ』


『そうなのー?』


『どう考えても鈍重な魔物だし一方的な展開になって終わってしまうのが目に見えているだろ』


『そうかなー。ファーストグランダムではタンクタイプも出てたから遅いのは気にならないよー』


『はあ、そうですか』


『それに!』


 いきなり力のこもった言葉と同時にビシッと人差し指を突き付けられた。

 おかげで面食らってしまったよ。


『それに?』


『遅くてもパワーがあったり装甲が分厚くてタフだったりすることがあるんだよー』


 イメージ的には確かに真利の言う通りだ。


『これで手数が多かったりしたら遅くても手を焼くこと間違いなしだよー』


 それは一理あるか。


『要するに真利は油断するなと言いたいのだろう。涼成、相手の姿を確認する前から気を抜くのは良くないぞ』


 英花に釘を刺されたが本当のことだったので腹は立たない。

 むしろ情けなくて少し凹んでしまった。


『そうだな。どんな奴か先に見ておくか』


 正体が判明していれば対応もしやすくなる。

 それはタイミングが早いほど良いのは言うまでもないことだろう。

 俺は徐々に近づいてくる気配に向けて千里眼を飛ばした。


『げっ!』


『どうした、涼成?』


 思わず仰け反った俺にすかさず反応する英花。


『クラーケンだ』


『なにぃっ!?』


 英花が魔物の正体を聞いて驚愕する。

 中ボスという意識が強すぎて並みの守護者など話にならない奴が出てくるとは思わなかったのだ。

 せいぜい電気クラゲのデカいのが来るのかと思っていたのだけど。


『へー、スッゴいねー。クラーケンって大っきなイカの魔物だったよねー』


『何を言ってるんだ、真利。クラーケンはタコの魔物だぞ』


『えっ!? えっ!? ええーっ!?』


 飛び上がらんばかりに驚く真利に訝しげな目を向ける英花。


『そんなの初耳だよー。てっきりダイオウイカの親戚みたいに思ってたんだけどー』


 もし、そうなら天敵はクジラの魔物なんだろうな。


『それはゲームとか映画とかの影響だろうな。本家本元はタコなんだよ。少なくとも異世界では海魔クラーケンと言えばタコのデカブツという認識だった』


『フィクションでは確かにイカの方が多いかもしれないな。それに亜種の中にイカ型がいなかったか』


『あー、いたな。タコ型をかなり劣化させたのが』


『イカのクラーケンって弱いのー?』


『そっちが出てきたら中ボスって感じだったんだけどなぁ』


 俺がボヤくと──


『タコの方が出てくるなら守護者としてだと思っていたくらいだ』


 英花も同意してうなずいた。


『そんなに強いんだー』


『まず手数が多いのはわかるよな』


『うん。でも、それはイカの方が有利なんじゃないのー? だって足が2本多いよねー』


 真利は単純に足の数で手数に差が出ると考えたのだろう。

 ただ、足の数問題はそう単純なものではない。

 タコの方には裏技のような手があるのだ。


 ちなみにイカやタコの足は正しくは触腕と言うらしい。

 触手っぽいと思うのは俺だけじゃないと思うんだけどね。


『初期状態ならな』


『え? 初期状態ってどういうことなのー』


『タコの方は再生持ちなんだよ。魔力が続く限りどれだけダメージを与えても再生する』


『ええーっ!?』


『しかも足を切り落とすと倍加して再生するから2回以上切り落とせば互角以上になるぞ』


 俺も足と言ったが、わかりやすさ優先であえて言っている。


『ガーン! 大物相手だからトライデントの出番だと思ってたのに、それじゃあ使えないよー』


 十手剣から持ち替えていた真利がショボンとした様子でトライデントを次元収納へと仕舞い込もうとする。


『別に脚を切り落とさなきゃいいだけだ。大剣モードと槍モードを上手く使い分けるんだな』


『できるかなー』


 真利は自信なさげである。


『真利よ、できるかどうか迷うことなどない。浮いてくるクラーケンを前にしたならやるだけだ』


『時間かかりそうだねー』


 どんよりした空気をまとって真利はガックリと肩を落とす。

 戦闘が始まる前から、ウンザリしている感じだ。


『だからと言って気を抜くなよ。クラーケンは再生だけが厄介なポイントじゃないからな』


『まだ何かあるのー?』


 勘弁してほしいと言いたげな顔で見てくる真利だが、そんな目を向けてもクラーケンの能力が削られる訳じゃない。


『あるとも。怪力で悪食だ』


『怪力なのはサイズで想像がつくけど悪食ってどういうことー?』


『なんでも食うってことだよ。死体だろうが武器だろうが口の中に放り込んで食ってしまうんだ』


『ええーっ……』


 予想外の能力を告げられたのがショックだったのか真利はドン引きしている。


『それから──』


『ちょっと待ってよー。まだ、何かあるのー?』


『タコと言えば肝心なものがあるだろう』


 ヒントを出すと真利もすぐにハッとした表情になった。


『墨だー。でも、目眩ましだけじゃないのー?』


『墨ブレスは目眩ましだけでなく遅効性の麻痺効果ありだ』


『麻痺とか勘弁してー』


 心底、嫌そうに言う真利。

 俺も麻痺とかは勘弁してほしいと思うけど、魔法で対処できるからそこまで拒絶的な反応があるとは思わなかったよ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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