314 6層探索4日目・罠じゃない?
俺たちが常識を教えることがなくなったからと言って疎遠になる訳じゃない。
ネージュは青雲入道のところで修行に加わったりとか龍神様たちとゲームで勝負したりするようになっていく。
もちろん猿田彦命のところで常識を学ぶことが優先されるんだけど。
いずれにせよ、もう少し先の話である。
本日はお台場ダンジョン6層攻略の4日目。
前日にネージュと出会った場所まで転移してからの探索再開だ。
『何か大きなものがいるみたいだよー?』
真利が念話を送ってきた。
確かに海の底の方から大きな気配がする。
『下か。前のように電気クラゲではないのだな。罠のパターンを変えてきたか』
英花がそんな風に推理したけれど、何がなんでもトラップで対応してくるとは限らないと思う。
『そっちじゃなくて本命じゃないか?』
可能性としては、そちらの方が高いと思う。
気配を感知されやすい大物を罠に使うのは非効率だろうし。
そちらに注意を向けさせて別の方向からトラップが発動するということも無いとは言わないが。
ただ、遮蔽物がなくだだっ広い海洋においては考えにくいことだ。
『本命か。……そちらの方が可能性として高そうだな』
英花も自分の考えに固執することなく賛同した。
『ということは中ボスってことー?』
『絶対とは言わないが、そういうことだな』
『大物で中ボスとはな』
英花は落胆の表情を見せたかと思うと嘆息しながら言った。
『これでは守護者が貧相で貧弱な魔物になっていそうだと思わないか、涼成?』
そして疑問をぶつけてくる。
『だといいな。その方が世話がなくて助かるってものだ』
『どういうことだ? まるで私とは真逆の予想をしているようだが』
『あくまで仮説の話だけどな。最近は6層など序の口なんじゃないかと思い始めているんだよ』
『えーっ!? ここが序の口ってどういうことー?』
驚きをあらわにしたのは英花ではなく真利だ。
『真利の言う通りだぞ、涼成。あれだけの規模のトラップを仕掛けた上に中ボスまで設置しておいて序の口など考えられないことだ』
英花も騒ぎ立てこそしないものの俺の見解には異議を唱えてくる。
『言ったろ。あくまで仮説の話だって』
『でっ、でも、涼ちゃんはここが超のつく大迷宮なんじゃないかって思ってるんだよねー』
『仮説通りならな』
『あり得ない。ダンジョンコアの能力を完全に超越している』
真利は半信半疑だけど英花は異世界のことを熟知しているだけに完全否定してきた。
『英花が否定したくなるのもわかる。異世界で得た知識ではあり得ないことだからな』
ウンウンとうなずいている英花。
『だから異世界の常識を否定しない範囲で超常的なダンジョンが成立しそうな仮説を立ててみた』
この念話を受け取った2人の反応は正反対だった。
真利は瞳をキラキラと輝かせて仮説の内容を聞く前からスゴいことを知ったと言わんばかりである。
一方の英花は胡散臭いものを見たという顔で残念なものを見る目を向けてきている。
両極端だけど、どちらも仮説を説明する前からこの態度ってどうなのよ。
『念のために聞いておこうか』
信じてはいないが英花も相棒として一応は聞く耳を持ってくれるらしい。
真利などは早く聞かせてほしいと食い気味だ。
『そんな大層な代物じゃないぞ。ぶっちゃけダンジョンコアはひとつじゃないって考えただけだからな』
『ひとつじゃない』
復唱した英花が固まってしまった。
盲点を突かれたというところか。
『でもー、変じゃないー?』
今度は真利が異を唱える。
『ダンジョンって独立してて合体するようなことはないんでしょー?』
『そうだな。ダンジョン同士は合体はしない』
隣り合わせになっているダンジョンというのも存在するものの、合体に至ったという事例は異世界でも見たことがない。
討伐されて不活化したダンジョンコアならば他のダンジョンコアに吸収されることもあるのだけど。
うちのリアのようにね。
『まさかっ!?』
今の会話で何かしら閃きがあったらしい英花が驚愕の表情を浮かべている。
『他のダンジョンを潰してダンジョンコアを吸収しているのかっ?』
『さあ、どうだろう。そのあたりは情報が少なすぎてわからないがリアという前例はあるよな』
『やはり、そうか。だが、我々が支配下に置いたリアと違って普通のダンジョンコアにそんな真似ができるのか?』
『リアのように融合するパターンだと、そこがネックになるんだよな』
だからこそ英花も一考することすらしなかったのだ。
『どういうことだ?』
困惑の表情を浮かべる英花。
『パターンと言うからには他の可能性もあるのか?』
リアという前例に引っ張られているのか他の可能性を考慮していないようだ。
『俺が仮説として考えたのは他のダンジョンコアを支配下に置くパターンだよ』
融合するにせよ支配するにせよ処理のリソースは稼げるはず。
『それはどこからダンジョンコアを持ってきたのかという話にならないか?』
『だよねー。融合説とそんなに変わらないよー?』
もっともな疑問である。
『そうだな。極めて可能性の低い偶然がなければ成り立たない説であることだけは確かだ』
『説明は可能なんだー』
『いや、鼻で笑われるレベルの話だぞ』
無理やりそれっぽい理由をつけたようなこじつけだからね。
『この世界にダンジョンが出現した時に複数のダンジョンが同じ場所に出現してしまったなんて荒唐無稽な話だからな』
ギョッとした顔を見せる英花。
『あり得ないと言いたいところだが、それを言ってしまうと異世界への勇者召喚そのものがあり得ない話だからなぁ』
むしろ勇者召喚の方がレアケースだと言えるのではないだろうか。
『もしダンジョンがいくつも重なってしまったのだとするなら最悪の事態を想定しなければならないぞ』
『そうなのー?』
キョトンとした顔で小首をかしげる真利。
『俺も無いと思いたいんだけどさ。重なった数しだいでは限界までレベルアップしないと攻略できない恐れがあるんだよなぁ』
『ええーっ、そんなにぃーっ!?』
英花の言葉ではピンときていなかった真利だがレベルの話で具体性を持たせると飛び上がらんばかりに驚いていた。
ここまでのレベルアップも大変だったからなぁ。
現在のレベル70でもぶっちぎりで他の追随を許さない状態だし、それで足りないとは夢にも思っていなかったのかもしれない。
『それもこれも先の階層を見ればわかるだろうさ』
大して階層が残されていないなら、虚仮おどしのダンジョンということになると思う。
俺の仮説は杞憂だったということで終わる訳だ。
その方がありがたいけどね。
『もしも倍以上の階層が存在するならどうするつもりだ、涼成』
この広さで12層というだけでも大変なことだ。
そこまで想定する者は俺たち以外にはいないだろう。
複数のダンジョンコアが存在するということでもある。
『場合によっては攻略を保留するしかないだろうな。いのちだいじには基本だろ?』
現実はゲームのようにセーブとロードを駆使して攻略することはできないからね。
読んでくれてありがとう。
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