313 6層探索3日目・話し合いをするらしい
猿田彦命に続いて転移魔法でやって来たのは芦ノ湖の龍神様御一行である。
もちろん人化した状態でだ。
「やあ、涼成くん。こんばんは」
青龍様がいつも通りのフランクな感じで挨拶してきた。
俺たちも挨拶を返す。
「お主がおるとは思わなんだわ。暇なのか?」
金竜様には意外そうな目を向けられた上に失礼な質問までされてしまった。
こちらが何かを言う前に──
「そうだな。青雲から呼び出されたんだが、もしかしてお前の差し金なのか?」
差し金って……
白龍様の質問からずいぶんと不穏な空気を感じてしまいましたよ?
まあ、気配は抑えていてもドラゴンの存在感は神様たちには丸分かりだろうし。
俺たちが何か企んでいるんじゃないかと思われてもしょうがないのかもね。
「まさか!?」
慌てて否定させてもらったさ。
「いつ皆さんを呼んだのかさえ知りませんよ」
たぶん屋台の中で興奮してダメ出しした後だとは思うけど。
それとも俺たちがネージュを紹介した直後とかだったりするのだろうか。
「俺たちは別件で青雲入道に用があっただけです」
「別件だと?」
隠れ里の中に屋台が並んでいる中でそんなことを言われれば困惑もするというというもの。
訳わかんないもんね。
だから、かくかくしかじかと説明させてもらいましたよ。
ネージュと遭遇したところからだから結構な時間を使ってしまった。
端折って誤解されると、どうなるかわかんなかったから仕方あるまい。
言葉を選ぶのに苦労させられたよ。
間違っても特撮映画の巨大怪獣大決戦みたいな状況にする訳にはいかないし。
そこにまで至らなくてもネージュと敵対的な関係になるのだけは避けなければならなかった。
これは絶対条件だ。
しくじれば最低でも東京が壊滅的な被害を被ることになりかねない。
下手をすれば、その規模が日本全体に及んでしまうこともあり得るだろう。
「──という訳でネージュを北海道に留まったままにするのは不可能です」
無類のイカ好きだもんなぁ。
ある意味、食いしん坊キャラだと言える。
その手のタイプに好物を食べるなと言うのは「よろしい。ならば戦争だ」と切り返されてもなんら不思議なことではない。
「ですから、友好的に接しつつ常識を身につけてもらうしかないでしょう」
スゴく苦労させられそうだけど……
しかも、誰かに丸投げもできないんだよなぁ。
ついさっき青雲入道が興に入って巨大化し、あわや大惨事なんて事態になったばかりだ。
思い出しただけでも背筋が凍り付きそうだよ。
「大変だねえ」
青龍様は他人事である。
まあ、実際そうなんだけどさ。
「敵対しないのであれば問題あるまい」
金竜様の言葉に内心でホッと胸をなで下ろす。
「そうだな。まさかの大物がいたのには驚かされたが」
白龍様も先程の不穏な雰囲気は霧散させている。
説明ミッションはどうにかクリアしたようだ。
「涼成くんは貧乏くじを引いてしまう性分なのかな?」
「それを聞いてしまうとは野暮ってもんですぜ」
猿田彦命の言葉に苦笑する九尾の狐。
「その点に関しては諦めてますよ」
過去のあれやこれやが否応なく証明してくれているからね。
異世界に勇者として召喚された以上の貧乏くじは、もうないと思いたいけど。
「おう、来たな」
屋台ののれんをかき分けて青雲入道が顔を覗かせた。
まったく、気付いてるくせに出迎えるのが遅いんだっての。
おまけに口をモグモグさせてて行儀が悪いったらありゃしない。
どう考えても客を出迎える態度ではないだろう、という俺の考えは顔に出ていたらしい。
「涼の字、気にすんな。いつものことだ」
九尾の狐がフォローしてくれなかったら苦言のひとつも入れていたかもしれない。
嘆息して頭を切り替える。
そこへススッと烏天狗がやって来た。
「準備できました」
彼が来た方を見ると大きなテーブルと幾つもの椅子が用意されている。
「御苦労」
労いの言葉をかけた青雲入道が屋台から出てきた。
口の中にはもう何も残っていないようだ。
「こっちだ」
そう言ってテーブルの方へと向かう青雲入道。
それに来客勢が続くんだけどネージュは屋台に残ったままだ。
何も言われてないものの、これはきっと俺たちがフォローする必要があるんだよな。
普通に考えれば青雲入道が呼んだのは猿田彦命たちと龍神様たちだから俺たちはお呼びじゃないとも言えるし。
そんな訳で取り残されてしまいましたよ。
英花も何も言わないし、真利は賑やかな方へ自分から行くはずがない。
「呼ばれるまで待った方がいいよな?」
念のために2人に確認する。
「でも、涼ちゃん。椅子は余ってるよー」
「しばらく様子を見た方がいいんじゃないか? 青雲入道も居残った我々に何も言わないからな」
「そっかー。こっちから行っちゃうとなんだか怒られそうだもんねー」
テーブルの方を見ながら真利がブルッと身を震わせた。
確かに少しばかりピリついた雰囲気が漂ってくる。
おまけに音声結界まで使われているんですけど?
「こりゃあ完全に来るなってことだよなぁ」
「どうやら、そうらしいな。ついて行かなくて正解だった」
「何を話すんだろうねー?」
「そんなのネージュのことに決まってるだろう」
対応を相談する以外に、あんな空気で話すようなことがあるとは思えない。
「私がどうかしたのか?」
ネージュが、のれんの間からヒョコッと顔を出したかと思うと屋台から出てくる。
「神様たちがネージュとの付き合い方の相談をしてるんじゃないかって話してたんだよ」
「神様? ほう、この世界にも神はいるのだな」
「人前に出てくることはまずないし干渉することもほぼないけどね」
「涼成たちがいるではないか」
「俺たちは例外中の例外だよ」
「それは興味深いな。ぜひとも聞きたいものだ」
「長くなるから、また今度な」
どうせなら三智子ちゃんに会わせるのも一興だろう。
三智子ちゃんも刺激のない生活が続いているから見た目が同年代の話し相手ができれば喜ぶのではないだろうか。
問題はネージュの中身が外見とギャップがあるのと人間の常識にうといことなんだけど。
案ずるより産むが易しと言うし何とかなるんじゃないかな。
「いつだ?」
急かすようにネージュが聞いてくる。
興味津々だな。
「それは向こうの会議が終わってからにした方がいいんじゃないか」
青雲入道たちの方を見ると、ちょうど話し合いが終わったようで音声結界が解除された。
「おーい、こっちにおいでよ」
青龍様に手招きされる。
「そっちの彼女も一緒にね」
ネージュも呼ばれるからには、ちゃんと結論が出ているはずだ。
先程、感じていたピリついた空気はないので悪くない形で収まったんだと思う。
俺たちがテーブルまで赴いて指定された席に着く。
円形のテーブルなので、どちらが上座とかはないのはありがたい。
気を遣うような状況だと息苦しくなりそうだからね。
その後の話でネージュに常識を教えるのは猿田彦命だと告げられた。
青雲入道が外されたのは、未遂とはいえ前科があるので当然だ。
龍神様たちは人の常識には自信がないということで辞退したらしい。
消去法で決まったようなものだな。
とはいえ険悪な雰囲気になることもなく話ができたので、ネージュの友達が増えていくんじゃないかな。
読んでくれてありがとう。
ブックマークと評価よろしくお願いします。