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306 6層探索3日目・イカで竜を釣る?

『それでネージュはイカが食べたいんだな』


『そう。でも、いない。ここにいるはずだったのに』


 どういうことだろう。

 罠が作動すれば出てくるはずなんだけど作動しなかったようだし。

 海水温を低温にすればトラップを発動しないようロックさせられるとか?

 そんな訳あるかいと、すかさずツッコミが入りそうだ。


『この階層に出てくるミサイルスクイッドのドロップアイテムなら持ってるぞ。食べるか?』


 コクコクと高速でうなずくネージュ。


『ならセーフエリアまで戻ろうか。落ち着いた場所の方が味わって食べられるだろ?』


 さらに高速でコクコクコクコクコクコクとネージュはうなずいた。

 通常の3倍のスピードかよ。


 セーフエリアへ移動することについて、いくつか懸念がない訳ではなかった。

 まずは魔物が入れない問題。

 竜も魔物の一種のはずだ。

 でなければ北海道全域を領域とするフィールドダンジョンの守護者として召喚されたことに対して説明がつかない。


 この問題は簡単に解決した。

 ネージュは北海道ダンジョンのダンジョンコアを掌握したそうでダンジョンの呪縛からは解放されているのだとか。

 もっと簡単に言うとダンジョンから独立した存在となったのでダンジョンには自由に出入りが可能でセーフエリアに弾かれることもないということだ。


 次の問題は氷の中にいることだ。

 ネージュ自身は小学生くらいの幼女の姿をしているとはいえ中を自在に動けるサイズの巨大な氷だからセーフエリアを占拠してもスペースが足りないことは明白だった。


『その氷、何とかならないか』


『何とかとは?』


『セーフエリアは広くない』


『そんなことか。この氷は水に濡れないために覆っているだけ。海から出たら消す』


『そうなんだ……』


 濡れないためだけの割にはやたらとデカいんですがね。


『こっちはてっきり体温維持のために必要なんだと思っていた』


 ただし、維持するのは低温だから人間の感覚とはまるで違うのだけど。


『そんなに柔じゃない。あんまり好きじゃないけどマグマの近くにいても平気』


 さすがはドラゴン。耐性のスケールが桁違いだ。

 ただ、濡れるのが嫌というのが普通すぎて、どう受け止めていいのやら。

 それと氷の中にいて自在に動き回っているのに濡れるんじゃないかとも思った。

 このあたりは人間的な感覚がそう推測させてしまったわけだが、ハッキリ言って誤解らしい。


 人間の体温で氷に触れれば想像通りになるかもしれないがネージュは氷帝竜だ。

 彼女の平熱は人間に触れると凍傷を起こすほどの低温なので、氷に触れても溶けるはずがないという訳だ。

 食事の時なんかも凍らせてしまうんじゃないかと思ったけど、魔力の薄膜でワンクッション置けばそういうことも防げるらしい。


 という訳で、5層へ上がる階段前のセーフエリアにやって来ましたよ。

 確かにネージュが先に説明したとおり氷なしで砂浜に降り立った。


「涼成、イカだ。イカをはやく!」


 さっそく地声でリクエストされた。

 今の人化した少女の姿に似つかわしい子供の声だ。

 小学生くらいなので、つい矢倉三智子ちゃんのことを思い出してしまったさ。

 今は元養護教諭の沢井良子が面倒を見ている。

 たまに顔を出すけど、少しずつ元気になっているようだ。

 最初の頃は無気力無感動といった感じだったもんな。


 ただ、同年代の友達がいないのが心配なところである。

 主治医の野木一二三によれば、子供の友人がいないのは精神面での成育によろしくないようだ。

 特にイジメを受けていた三智子ちゃんには悪影響があると言っても過言ではないそうで。


 そう言われても俺たちも彼女の友達になれそうな小学生の知り合いなんていない。

 地元に帰ればエルフやドワーフの子供たちがいるけどさ。

 それに東京で友達ができても近いうちに別れることになりそうだしと積極的に探すようなことはしていなかった。


 こんなことを思い出すのも何かの縁だろう。

 そんな風に思ったのは、ネージュを会わせてみるのもありではないかと考えたからだ。

 もちろんネージュが友好的な立場になることが絶対条件だが。

 そうなると単にイカを渡してしまうだけでは一手足りない気がする。

 完全に胃袋をつかんでしまうくらいはしておきたい。


「そう慌てるな。どうせなら、より美味しく食べたいだろう?」


 それまで急かす気満々でプレッシャーをかけてきていたネージュだったが、俺の言葉を受けてピタリと静止した。


「より美味しく? どうする?」


「難しいことはしない。多少、時間はかかるが料理するだけだ」


「それで美味しくなるのか?」


「ああ、下手くそでなければな」


「涼成は下手くそではないのだな」


「でなきゃ、こんな提案はしない」


「では、はやく料理する」


「はいはい」


 という訳で、期せずしてダンジョンの中で料理することになってしまった。

 手っ取り早く作るならイカ焼きだろう。

 イカ焼きそばとかシーフードカレーとかも捨てがたいけど。

 焼きそばは手持ちに麺がないし、カレーは作るのに時間がかかるから却下だ。


 とにかく作業台とバーベキューコンロ、鉄板や調理道具その他を出してイカ焼きを作っていく。

 その間のネージュは目力がスゴかった。

 目からビームでも出るんじゃないかと思ったほど、食い入るように調理作業を見ていたからね。

 やりにくくてしょうがないので、先に串に刺した切り身を渡しておいた。

 生のままだったけど新鮮だしイカ焼きとの比較になるだろうと考えてのことだ。


 イカ串を受け取ったネージュの視線はありがたいことに俺たちの調理から己の手元へと移った。

 助かったよ。これで落ち着いて調理できる。

 もちろん、ネージュがイカ串を食べ終わるまでの間だけど。


 子供の一口で終わるようなサイズではないとはいえ相手の中身はドラゴンだ。

 強力な顎の力であっという間に咀嚼してしまう恐れだってある。

 ササッと手早くイカ焼きを作っていく。

 ネージュは匂いに釣られながらもイカ串を丹念に味わっていた。


「魔物がこんな味に化けるとは……。こんなことならドロップアイテムにしてから食べるんだった」


 なんて言ってるので、魔物を直食いするばかりでドロップアイテムを食したことはないのは確定的となった。


「美味しい。縄張り近くで捕獲したイカよりも味が良いとは……」


 なんだか泣きながら食べてますよ?

 ちょっと不安になってきた。

 素材のままの味の方が良いとか言われたらどうしたものか。

 そんなことを考えてしまうくらいネージュの感動ぶりが尋常ではなかった。


 そして、イカ串を食べ終わるのとほぼ同時にイカ焼きが完成。


「できたよ」


「これがイカ焼き」


 まずは鼻をスンスン鳴らして香りを堪能している。


「複雑な匂いがする。野菜や果物が使われている? なのに酸っぱさや塩味も感じる」


 それはたぶんソースのことだな。

 匂いだけで、そこまでわかってしまうとは驚きだ。


「イカの匂いが遠い」


 続いてそんなことを言われてドキッとしたよ。


「この奇妙な形をした棒きれは?」


「フォークだよ。それを横にして小さく切って先端部分で刺して食べる」


「ふむ、手を汚さぬ知恵か」


 ちょっと説明しただけで器用に使いこなしてイカ焼きを食べ始めた。

 一口食べたネージュが目を見張る。

 少し間を置いて、一心不乱に食べ始めた。

 その間も俺たちはイカ焼きを焼いていく。

 1枚で満足するとは限らないからね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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