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301 これが大阪のイカ焼きだ

 混乱するうちの面子は放置した。

 ジェイドのようにすぐ復帰してくる者もいたから、そちらに任せることにしたのだ。

 土下座されるよりマシだろうと言われるかもしれないけれど、とてもそうは思えなかった。

 皆が混乱している様は、ひたすら土下座されるのとそう変わらないのだ。

 騒がしいか静かなのかの差しかない。

 復帰させる大変さはほぼ同等。

 それが何人もいるとなれば、やる気をなくすのも当たり前って訳だ。


「この世界の神とか聞いてないぞ、御屋形様よ」


 唯一、わずかな時間で復帰してきたジェイドには文句を言われたよ。


「ネモリーはあっという間に伸びおったしのう」


「見てないで助けてやれよ」


「今は無理じゃ」


「どうしてさ?」


「そんなことをしてみろ。止める奴もおらん状態で彼奴の愚痴を延々と聞かされることになりかねんわ」


「そりゃ、ごもっとも。じゃあ他の面子を先に起こしていくんだな」


「伸びておるのはネモリーだけじゃ」


「パニック状態の奴も失神してるのと変わんないよ。目を覚まさせてやってくれ」


「御屋形様は手伝ってはくれんのか」


「誰がイカ焼きを作るんだ? 神様たちを待たせて皆を正気に戻していたと知ったらネモリーみたいに繊細な奴は食事も喉を通らなくなるぞ」


「ぐぬぬ」


 スゴく悔しそうな目でにらまれてしまったよ。

 それでも渋々ながら役割分担を了承してくれたけどね。

 俺が言ったとおりの結果になると思ったからだろう。


「という訳で、イカ焼きは長々とはお待たせしませんので仕上がったものから順番に食べていってください」


 神様たちの方を振り返ったけど誰も不服そうにはしていなかったので一安心だ。


「急がせてすまないね。特に用事がある訳じゃないんだが」


 猿田彦命がスゴく申し訳なさそうに返事をした。


「真面目だねえ。今夜は無礼講なんだから何も考えず適当に作っていくだけで良いと思うんだけどな」


 そう言ったのは青龍だ。


「おい、青龍よ。ここは我の隠れ里だということを忘れておらぬか」


「ハッハッハ、ゴメンゴメン。でも無礼講なんでしょ」


「むぅ、その通りだ」


 悔しそうに歯噛みする青雲入道が言葉を続ける。


「でなければ未だに泡を食っておる者たちが宴に参加できるとも思えぬからな」


 ジェイドや復帰してきた隠れ里の民たちの尽力もあって半数以上が回復しつつあるけどね。

 大阪組やウィンドシーカーズの混乱ぶりからすると復帰するのは最後の方になるかな。


 こちらもイカ焼きの準備が着々と進んでいるので皆を待たせることはないと思う。

 焼きながらになるので俺たちが休めるのはずっと後になりそうだけど。


 それでも部外者に目撃される恐れがないので魔法が使えるのがありがたい。

 カセットコンロじゃ効率が悪いのでバーベキューコンロを使うんだけど、炭火をおこすところから始めてたんじゃ遅くなるからね。

 イカ焼きパーティが決定したのが急だったから魔石で魔法の火を起こすバーベキューコンロに魔改造する暇はなかったので魔法の火を使っているのだ。

 炭も入れているので燃え始めれば魔法を使わなくて良くなるだろう。


 焼き網を覆い尽くすほど大きい鉄板を置き、油を引いて馴染ませる。

 熱が通ってきたら真利が用意したタネを流し込み卵を割り入れて焼いていく。

 上にのせた卵の白身に火が通り始めたらコテで浮かせて隣の英花に送る。

 英花の作業は火が通りつつある生地をひっくり返して焼き上がったら半分にたたむことがメインだ。


 半分に折りたたむのは容器サイズの都合である。

 最初は一体化した蓋のある透明のフードパックにしようかと思っていたんだけど、スーパーの惣菜のように持ち帰る訳じゃないんだよね。

 そんな訳で用意したのはたこ焼きで使われるような木製の舟形容器だ。

 細長いから半分にたたまないと大きくはみ出してしまう。


 仕上げにソースを塗って舟に盛るのは急遽呼び出した紬である。

 そして出来上がったイカ焼きを渡していく。

 割り箸はコンロの脇に設置したテーブルに置いてあるものをセルフサービスで持っていってもらう。


「これが大阪風のイカ焼きか。具の少ないお好み焼きといった感じだな」


 青雲入道が舟に盛られたイカ焼きをためつすがめつしている。


「こんな味なんだ。想像していたのとはずいぶん違うね。でも、美味しいよ」


 とは青龍様だ。


「屋台の味といった趣があるな」


「確かに。たこ焼きで使う舟に盛られているからだろう」


 金竜様と白龍様も感想を言い合っている。


「生地がモチモチしているね、九ちゃん」


「イカの噛み応えがそれを引き立ててるんじゃねえですか」


 どうやら神様たちには好評のようだ。

 ホッと一安心である。


「おーい、涼成。酒はどうした」


 イカ焼きを食べながら青雲入道が聞いてきた。


「烏天狗たちに渡してあるよ」


「そうか、わかった。この甘辛い付けダレには酒が合うはずなのだ。噛めば噛むほど味が出てくるイカも酒の味を引き立ててくれそうだしな」


 青雲入道にもイカ焼きは受けたようだけど、酒が基準になるあたり摘まみ感覚なのかもしれない。

 まあ、味の濃いジャンクフードだからそういうところはあるかもね。


 続いてイカ焼きを受け取ったのはエルフ女子メーリーだった。

 復帰が早かった口だな。


「ジェイドさんに御役御免だって言われました」


 言い訳はしなくても仲間を正気づかせるため頑張っていたのは知っている。

 最初から頑張っていたから先に離脱させたというところか。

 まともに戻る面子が増えれば交代していかないと不公平だもんな。

 そういう意味ではジェイドがずっと残っているのは俺が丸投げしたからか。

 後でジェイドが好む酒を出すとしよう。


「フワフワしてますね。噛み応えがあるのがイカですか。すごく美味しいです」


 エルフも大丈夫と。

 次に来たドワーフも美味しそうに食べていた。

 すぐ烏天狗たちが配っている酒の方に向かっていたけどね。

 それはしょうがない。酒好きじゃないドワーフなんてちょっと想像できないし。

 探せばいるのかもしれないけど、少なくともうちにはそういう面子はいない。


 その後もなんとかフル回転で焼いていき、残る頭数も少なくなってきた頃にウィンドシーカーズの3人が来た。


「へー、もっとタコ焼きっぽいと思ってたけど違うのね」


 野川が食べる前にそんな感想を口にしたが、その発想はなかったな。


「これがホオハハホヒハハヒ」


 橘は熱々を頬張ったせいで何を言ってるのか聞き取れない。

 たぶん「大阪のイカ焼き」と言ったんじゃないかとは思うんだけど。


「お好み焼きに似ているけど、似て非なる感じ」


 芝浦は頬張ったままでは喋らなかったので、ちゃんと言ってることがわかった。

 感想もなかなか的確じゃなかろうか。


 そして大阪組の番が来たけど。

 これが一番、緊張したよ。

 本場の味を知っている面子だからね。


「うわっ、入れもんが舟やで」


「タコ焼きちゃうっちゅうねん」


「これで中身もタコやったらタコ焼きかイカ焼きかどっちになるやろな」


「そんなん、タコ焼きに決まってるやろ」


「寝ぼけたこと言うたらアカンで。タコ焼きは真ん丸て相場が決まっとるんや」


「ほな、イカ焼き風タコ焼きでどないや」


「長ったらしいわ。パチもん焼きでええやろ」


「胡散臭い名前になってもうたな」


 味の方はスルーされてしまった。

 ケチはつかなかったから合格ってことでいいのかな?


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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[一言] 後のお台場名物誕生の瞬間? 取ってこれる奴は少なそうだけど
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