300 イカ焼きパーティだよ、全員集合!
結局、九頭龍神社と白龍神社の祭神である龍神たちも呼ばれたようだ。
俺たちも幻影の魔法でアリバイ工作した上で高尾山の隠れ里へと転移する。
人数が人数だったので九尾の狐が迎えに来てくれた。
「よお、変わったものを食べさせてくれるらしいな」
久々にあった挨拶がそれとはね。
「狐が喋った!」
「尻尾がいっぱいあるよ」
「あれはおそらく九尾だ」
ウィンドシーカーズの野川が驚き、橘が瞳を輝かせ、芝浦が推測を述べている。
「喋る狐とはなぁ」
「尻尾もぎょうさんあるし普通やないで」
「そんなん見たらわかるがな」
「ついでに話しかけてる相手は張井はんみたいやけど知り合いなんか」
「スゴいお人や思とったけど人間やない相手にまで知り合いがいてはるとかスケールが違いすぎやせえへんか?」
「ワイはそんくらいじゃ驚かへんで。天狗と知り合いなんやから九尾の狐と顔見知りでも不思議やないやないか」
大阪組もウィンドシーカーズの3人と同じように騒がしい。
「大阪のソウルフード、は言い過ぎか。たこ焼きとかお好み焼きがあるからなぁ」
とりあえず背後で口々に何か言ってる面々はスルーして九尾に返事をした。
「粉もんはすべて大阪のソウルフードやで。ワイらの誇りや」
岩田がすかさずツッコミを入れてきた。
大阪組はそろってウンウンとうなずいている。
岩田以外は驚きで動揺していたみたいなんだけど一瞬で復帰してきたな。
粉ものへの思い入れは、そこまでのものなのか。
これは、たとえ冗談でも下手なことは言えそうにないな。
他人の地雷を踏むようなセンシティブな真似はしたくないから言うつもりもないけどさ。
「とにかく今日はイカ焼きパーティなんだが───」
狐って犬科だからイカはダメなんじゃなかったかと聞こうとしたのだけど。
「ほう、海のものが食べられるのか。久しぶりだな。楽しみだ」
舌なめずりをして食い気味にそんなことを言われた。
「大丈夫なのか?」
「ん? ああ、イヌ科の動物はイカやタコ、甲殻類は食べられないってやつか」
「そうそう」
コクコクとうなずく。
「それ、生で食べるのがダメって話じゃなかったか」
「詳しくは知らないんだ」
「犬に生のイカやタコなんかを食べさせたらアカンのは、いくつか理由があるんや」
そう言いだしたのは大阪組の小倉だった。
「まず人より消化しづらいせいで下痢や嘔吐することがあるねん」
それはダメだ。
「それから生やとビタミンB1を壊す酵素があるんや」
もっとダメなやつだ。
「酵素は熱に弱いから加熱したらええんやけどな」
生でなければ食べられる理由はそこにあるのか。
「せやけど熱しても食べささん方がええやろな。イカとかの血は鉄の代わりに銅を含んでるねん。これがたまってしまうと肝障害を起こしてしまうんや」
「ずいぶんと詳しいな」
「小倉は小学校教師やったけど中学と高校の理科系の免許も持ってるねん」
岩田が補足してくれた。
なるほど。高校の免許は生物なのだろう。
「君子危うきに近寄らずって言うから普通の犬どもは食わない方がいいだろうな」
小倉の説明をじっと聞いていた九尾も同様のことを言った。
じゃあ、九尾も食べない方がいいんじゃないかと思ったところで。
「俺は神格があるから気にせず食べられるぞ。何を食べても毒にはならないからな」
「……それならいいんだ」
さすがは猿田彦命の眷属である。
ともかく、九尾の導きによって俺たちは高尾山の隠れ里へ跳んだ。
一瞬のことだったので大阪組やウィンドシーカーズは目を丸くさせて驚きをあらわにしていた。
大阪組は特にうるさかったけど毎度のことなので放置しておく。
ウィンドシーカーズの3人は言葉もなく唖然としていただけなので声をかければ我に返った。
動揺しているけど、そこは慣れの問題だ。
ただ……
「やあやあ、涼成くん。今日は素敵な宴へのお誘いありがとう」
「あ、どうも。こんばんは。食べ物はイカ焼きだけなので素敵かどうかは微妙なところですが……」
猿田彦命が声をかけてきたので挨拶をして話し始めたのだけど背後でヒソヒソ声で喋り始める女子3人がいた。
言うまでもなくウィンドシーカーズの面々である。
(ねえねえ、桜ちゃん。今日は初対面の人が多いよね)
猿田彦命の正体を知らない橘が呑気な感想を漏らしている。
(パーティだから人を集めたんじゃないの。アタシらもその口だし)
野川も似たようなものだったが。
(というか、あれは陰陽師とかのコスプレなの? えらく古めかしい装束って感じの服なんだけど)
一応は猿田彦命の正体につながりそうなところに着目している。
コスプレと勘違いしているあたりポンコツ感は否めないんだけど。
(青雲入道の関係者では?)
対して芝浦はかなりいい線いってる推理をしていた。
「涼成くーん、僕らも来たよぉ」
少し離れたところから大きく手を振りながら人化した青龍様が歩いてきた。
金竜様と白龍様もそれに続いている。
こちらは猿田彦命と違ってカジュアルな今風の服装だ。
青龍様がスケボーでもやってそうに見える少し着崩した感じのスポーツカジュアル。
金竜様はドレスコードに引っ掛からない落ち着いた色のカジュアルスーツ。
白龍様もカジュアルスーツだったけど明るい配色で金竜様とは印象が違う。
「ワシらも珍しい海の食材が食せると青雲に聞いて誘われたのだ」
と金竜様。
「急に押しかけるような格好になってすまないな。馳走にあずかる」
白龍様は頭を下げたが、詫びられることは何もない。
「いやいや、頭を上げてくださいよ。正直、漁港で水揚げされたのかってくらいイカがあるんで面子が多いほど助かるんです」
(ちょっとちょっと、うちのボスが慌ててるわよ。もしかして偉い人だったりして?)
野川さん、誰がボスなんですかね?
(だね。祐子が言った入道さんの関係者っていうの当たりだったみたいだよ。もしかして仙人みたいなスゴい人たちだったりして)
(それは否定できない。ただ、後から来た人はそういう雰囲気が薄い)
(服装のせいじゃないかな)
(それはあるかもしれない)
橘と芝浦が正解に近づいたり離れたりな話をしている。
もっとも仙人ではなく龍神様だけどね。
「それよりも、うちの面々とは初対面になりますから紹介しますね」
という訳で全員に集合をかけた。
集まったところで──
「こちらが猿田彦命とその眷属の九尾の狐」
「よろしくね~」
相変わらずノリの軽いお方である。
「それから九頭龍神社の祭神である青龍様と金竜様。白龍神社の祭神である白龍様」
「いえーい!」
猿田彦命よりもノリの軽い人がいましたよ。
人じゃなくて龍神様だけど。
「ワシらは涼成に大変世話になった。堅苦しいのは無しで良いぞ」
「よろしくな」
龍神様たちは三者三様といった感じだ。
どう受け止めるかと思ったのだけど、それ以前の問題だった。
隠れ里の民たちの中には卒倒する者まで出る始末だったからね。
ちなみに誰だったかというとエルフ男子のネモリーだ。
意外に繊細だよな。
なんにせよ神様と聞いて九尾が迎えに来たとき以上に泡を食っていたよ。
読んでくれてありがとう。
ブックマークと評価よろしくお願いします。