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30 パワーレベリングしよう

 結論から言えば、真利は抵抗なく魔物にトドメを刺せた。

 俺たちのダンジョンに転移魔法で招待したのだけど、それも軽く驚きはしたがビビったりはしなかったのも収穫だ。


「さすがは幼なじみ。信頼されているな」


 などと英花に言われたが、それよりもゲームやアニメの知識で転移魔法がどういうものかというイメージが固まっていたのが大きいと思う。

 魔物を倒すことにしても同様だ。

 まあ、初っ端からゾンビはさすがにハードルが高いと思ったので用意した魔物は頭突きウサギだったが。

 動きは素早い魔物だが、それは俺たちの魔法で固定してしまえば問題ない。

 パワーレベリングなんだから当然の作戦だな。


「でもさ、涼ちゃん」


「何だ? やっぱり魔物を倒すのは嫌になったか」


「じゃなくてレベルって簡単に上がらないんじゃないの? 魔物をいくら倒しても強くなれないって聞いたことがあるよ」


「あー、それな」


 ダンジョン関連のことに興味が薄い真利でも知っているということは世間でもありふれた情報なんだろう。


「これは秘密にして欲しいんだが」


「うん、涼ちゃんのお願いなら絶対秘密にする。言う相手もいないけど……」


 真利は力強く返事をしたものの続けた一言で自滅した。


「勇者スキルを持たない者は魔物を倒しても経験値をすべて得られるわけじゃないんだよ」


 何故かは俺たちも知らないが、そういう仕様というかシステムになっているのだから受け入れるしかないだろう。


「えーっ!?」


「しかもレベルが上がるごとに獲得できる経験値の減少が顕著になっていく」


「そこはゲームみたいだね」


「だったら、低レベルの魔物を倒すだけでは、いずれ頭打ちになるというのもわかるな」


 だから俺たちが目撃した自衛軍の部隊は結構な精鋭だと思う。


「うん」


「ところが勇者スキルを持っていると、そういうことがない。レベルアップに必要な経験値が増えていくのは同じだけどな」


「へー、そうなんだ。やっぱり勇者はチートなんだね」


「それだけじゃないぞ」


「えっ?」


「勇者パーティに入ると勇者でなくても通常よりレベルが上がりやすくなる」


 一瞬の間があった。

 言葉を理解し受け入れるまでのタイムラグなんだろう。


「ええーっ!?」


 もっと軽く受け止められると思ったんだが想像以上に驚かれてしまった。

 真利以外の人間ならわからなくもないんだが。


「俺や英花が勇者スキル持ちだって言ったじゃないか」


「それは聞いてたけど、こんな追加情報があるなんて知らなかったし……」


 奥歯に物が挟まったような言い方をする真利。

 言いたくても言えないことがあるとは思えないのだが。


「知らなかったし、何だ?」


「勇者スキルってそんなにレアなの?」


「唯一無二と言っていいんじゃないか。異世界召喚されないと付与されないスキルなんじゃないかと俺は考えてる」


 黙って話の成り行きを見ている英花に目を向けると無言でうなずかれた。

 それを見て真利が絶句する。


「一種の呪いだからな。異世界召喚そのものが呪いだった訳だし」


 呪いによって付与されたのが勇者スキルであれば英花が勇者呼ばわりを毛嫌いするのも納得だ。

 その割に魔王と呼ばれても怒らないのは不思議だけど。

 ちなみに俺は別に勇者と呼ばれるのは嫌ではない。

 古い特撮ヒーローものの設定にあるような悪の組織に拉致されて改造された主人公みたいなものだと思えば、ね。


「涼成が言うように、アレは異世界召喚によってのみ得られる呪われたスキルだろう。その呪いをさらに強めたことで私は魔王にまでなったしな」


「で、俺が解呪したら人間の姿に戻ったし」


 結果は運良くという感じだったが一か八かでやったことは内緒にしておこう。


「じゃあ、勇者スキルも解呪したら消えてしまうってこと?」


「生憎とスキルは消せないんだよ」


「だったら尚更、人には言えないね。バレたら、きっと大変なことになるよ」


 青い顔をさせて真利が言った。


「だから秘密だって言ったろ」


 コクコクコクと激しくうなずく真利である。

 ようやく事の重大さがわかったか。


「さて、そんなことより真利のレベルアップだな」


 場所はセーフエリアを出てすぐの少し開けた所だ。

 魔物は近寄れないように設定し直しているが例外がない訳ではない。

 それこそが真利をパワーレベリングさせる方法に繋がる。


「魔物のいる場所に移動するの?」


「そんなことしてたら真利はすぐへばるだろ」


「うっ」


 昔から俺より背が高かったくせに万年、引きこもりだからなぁ。

 4年ぶりに再会したら、さらに身長が伸びてるし。

 俺なんてずっと168センチのままなのに真利の奴は180だと。

 分けてくれって言ったら「無理だよぉ」って言いながら困ってたけど真に受けすぎだ。

 ちなみに英花も176センチあるので仲間内で俺が一番チビなんだよね。

 せめてあと2センチあればとは思うが、こればかりはレベルと違って努力ではどうにもならない。


「今から俺と英花が交代でここに魔物を召喚する」


「うん」


「真利は弓で攻撃するだけでいい」


「攻撃するだけって初心者だよ。練習しないと的に当てるのだって無理だよぉ」


 半泣きで泣き言を言う真利だ。


「裏技を使うから大丈夫だ」


「どうするの?」


 真利は不安そうに背中を丸めながら聞いてくる。

 とてもじゃないが、これから戦おうとしているようには見えない。


「ここに立って」


「うん」


 英花が真利を誘導する。

 俺たちが話している間に書き上げた魔法陣の真ん前だ。

 そう、儀式魔法を使って召喚するつもりである。

 魔法陣といっても大きなものではなく両手を開いたくらいのサイズしかないけどね。

 それこそが裏技だ。


 召喚魔法を使った後の魔法陣は結界にもなるため魔物は外には出られない。

 更には自分より小さいサイズの魔法陣だと一切動けなくなってしまう。

 あまりに小さすぎると結界が壊れてしまうけど今回は頭突きウサギなので問題ない。

 攻撃ができるのかという話もあるが召喚された側からは結界として機能する魔法陣も外部からは何の妨げにもならない。

 召喚コストも低いので、かなりの数をこなせるだろう。

 俺と英花が交代するのは魔石から魔力を吸収して回復させるためだ。


「今からこの魔法陣の上に魔物を召喚するから、それを攻撃する。いけるわね?」


「わかった」


 泣き言を言ってからずっとオドオドしていた真利だったが返事をすると表情を引き締めていた。

 ビビりの割に覚悟を決めると度胸はあるんだよな。

 覚束ない手つきでリリーサーをDループに引っかけ準備を始める。

 使うのは矢ではなく小さな鉄球だ。

 パチンコ代わりにしようというわけである。


「じゃあ始めるわね」


 英花が準備が整った真利に声をかける。

 真剣な面持ちでうなずきを返す真利。


 そうして少し重苦しさの感じられる開幕となったパワーレベリングだが一度始まってしまえばどうということはなかった。

 英花が無詠唱で召喚したので最初こそ真利もビクッと反応していたけれど攻撃すること自体は迷いなくできていたし。


 その後は当然ビクつくこともなく淡々と鉄球を当て続けた。

 これならレベル10になるのも、そう時間はかからないだろう。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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