299 イカ焼きパーティ何処でする問題
売ることのできない素材が売るほど集まった。
6層の魔物のドロップアイテムだ。
魔石はともかく電気クラゲの食用肉は山ほどあっても使い道に困るんだよね。
食感はいいんだけど、味と栄養はほぼないから。
酢の物にして食べるのはいいんだけど、そればっかりだと飽きが来るのが目に見えている。
不幸中の幸いというかミサイルスクイッドの方はイカであるが故に──
「イカ焼きパーティしよー!」
「「「「「おーっ!」」」」」
真利の呼びかけに応じる隠れ里の民たちが多数いて消費も少しは進みそうだ。
「そうは言うが、大勢で調理して食べるなら場所を探さねばならないぞ」
と言ったのは英花であった。
確かにその通りだと思う。
まさか公園でバーベキューコンロを使う訳にもいくまい。
下手すりゃ逮捕案件だ。
「そっか、だよねー。いい場所ないかなー」
「キャンプ場は無理だろうな」
「どうしてー?」
「人数的に何日も待たされそうじゃないか?」
「うっ……。じゃあ、レンタルスペース的な場所かなー」
「真利よ、それも調理スペース込みでとなると借りるのは高くつくはずだぞ。頭数が多いからな」
英花の言葉に隠れ里の民たちが頭を抱えていた。
今から探して見つけられる自信が無いからだろう。
すっかり日本に馴染んだとはいえ、元は異世界人。
縁もゆかりもなければ社会のルールの細かいところは未だに不慣れなところもある。
調理器具のそろったレンタルスペースなんて頼むのは至難の業ではないだろうか。
そもそも、たかがイカ焼きパーティをするのに高い使用料を払うのは納得がいかない。
泊まっているホテルの広間を貸し切ることは不可能ではないけど、できれば回避したいんだよな。
大阪で世話になった高級ホテルの総支配人である内海氏の紹介で宿泊しているホテルだから下手な真似はできないのだ。
泊まっているホテルの品位を下げると思われて印象が悪くなると内海氏の面子も潰してしまうことになりかねないし。
「場所は何とかなるかもしれませんわ。今日はちょっと無理やと思いますけど」
不意にそう言ってきたのは大阪組のリーダー高山である。
「何とかなるだって!?」
驚き桃の木山椒の木だ。
東京には縁もゆかりもないはずの大阪組にそんな伝手があるとはね。
まあ、長期遠征になっているから、その間に何かしら俺たちの知らない人脈ができたのかもしれない。
大阪組は教師として社会人経験もある訳だし、そういう経験に乏しい俺たちより大人のコミュニケーション能力は高いのだろう。
そんな風に考えたのだけど……
「涼成さんらも知ってはるやないですか」
「はあっ!?」
ますます驚かされてしまいましたよ?
俺の知り合いだって!?
いやいや、そんな立派な場所を用意しつつ無礼講のようなことをしても笑って許してくれそうな相手はいないぞ。
「我々が知っていて今日は難しい、か。なるほどな」
英花がそう呟いたかと思うと苦笑いをした。
が、俺にはサッパリ見当がつかない。
真利の方を見てみるが困惑の表情でフルフルと頭を振られた。
わかったのは英花だけのようだ。
『普通の人脈で考えるから思いつかないんですニャー』
霊体モードのミケにまで言われてしまった。
「普通の人脈……」
何かが引っ掛かるのか真利が呟いて考え込む。
それがヒントになることしかわからないのが実にもどかしい。
「あ、そっかー。いるよ、いるいるー、宴会好きの人がー」
「は?」
とうとう真利まで高山の言う俺たちの知り合いに思い当たったようだ。
残るは俺だけである。
「ギブアップだ。マジでわからん」
俺は両手を挙げて降参した。
「知り合いだけど人じゃないって言えば、さすがにわかるんじゃないかなー」
「あ……」
そこまで言われれば一瞬でわかったよ。
むしろ今まで気付かなかったのが何故なのかと自分を問い詰めたくなったさ。
「青雲入道かぁ」
甘味と酒をこよなく愛する青雲入道なら確かに酒を持って誘えば快く受け入れてくれるだろう。
隠れ里だから部外者の誰かが迷惑を被るなんてことにもならないし。
一緒にイカ焼きパーティをするなら隠れ里の主である青雲入道も不満を抱くようなこともないだろう。
むしろ酒があることで歓迎されると思う。
イカ焼きの方は未知数だけど、ゲテモノやマズいものを食べる訳じゃないから拒否されることはないんじゃないかな。
「ちょっと聞いてみる」
「ええっ、もう日が暮れてますやん!?」
「今から高尾山へお邪魔するてなったら、近隣の人らに変に思われまっせ」
「完璧に不審者ですやん」
「通報されるんとちゃいますか」
「それはあり得るわなぁ」
「やめたほうがええんとちゃいます?」
俺が確認しようとしたら高山たちが次々とツッコミを入れてきた。
「向こうの都合は確認するさ。それに正規のルートで行く訳じゃないんだよな、これが」
問い合わせが今日だからといって必ず今から行くことになる訳じゃない。
そこまで非常識なつもりはないさ。
それと、この大人数で青雲入道の元へ向かうなら現地で隠れ里に入るのはリスクが大きい。
目撃者とか出てきそうだからね。
「「「「「へ?」」」」」
ポカーンと口をあけた間抜け顔をさらす大阪組一同。
簡単には復帰してこれなさそうだ。
その隙に青雲入道に念話で話しかけてみた。
『おーい、青雲入道。いま大丈夫か?』
『おお、涼成か。こちらは大丈夫だが、何か問題でも起きたのか?』
日が暮れてから連絡を入れたせいか妙な誤解をされてしまったらしい。
『いや、そういうことじゃないんだ。問題はない』
『んん?』
戸惑いが感じられる念話が返された。
『今日、ダンジョンで珍しい食材を手に入れてな』
『珍しい食材とな?』
『イカだよ』
『なにぃっ、ダンジョンとは洞窟の中のような場所ではないのかっ!?』
青雲入道の念話が頭の中で強く響く。
これが通常の会話だったら、どれほどの大声だったんだろうなという強度の念話だ。
『念話が強すぎだって。頭にガンガン響くから抑えてくれないか』
『おおっ、スマンスマン。海のものがダンジョンで得られると聞いて驚いてしもうたわい』
『巨大なダンジョンだと、まれに海や湖ができたりするんだよ』
『うむむ、なんという摩訶不思議な……』
『それで真利がイカ焼きパーティがしたいと言い出してね』
『イカ焼きの宴か。なるほど、それで我にも声をかけてくれた訳か』
『正直に言うと、そういうのができる場所が確保できなさそうでな。酒を持参するから一緒にどうかなと』
『ハハハ、そういうことか。構わぬ構わぬ。我も御相伴にあずかれるのだ。文句などあるはずがない』
『助かるよ。恩に着る』
『何の何の。しかしイカ焼きと言えば丸焼きのことであろう? 酒のあてには良いかもしれぬが宴の主菜にするには物足りぬのではないか?』
丸焼きって……
たぶん姿焼きのことを言ってるんだろうけど。
山住まいの青雲入道たちからすると海のものは食す機会がないせいかもしれないな。
『それは現物を食べてから言ってくれないか。想像しているイカ焼きとは見た目も味もまるで違うからさ』
『なんと? イカ焼きはイカ焼きであろう』
『大阪のイカ焼きはひと味違うんだよ』
『ふうむ、それは興味深いものだ。ならば猿田彦殿や九尾も呼ばねばならぬな。今夜は忙しくなるぞぉ!』
『えっ、ちょっと。今からなのか? 都合のいい日を聞こうと思っていたんだが』
『善は急げだ。そちらは問題ないのだろう?』
そういう意味で言ったんじゃないんだけどな。
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