298 6層探索2日目・イカへのこだわり?
飛んで離脱すれば安全だと思っていた時期が俺にもありました。
「くそっ、コイツらの存在を忘れていた!」
「私もだ! ブレードフィッシュがいるとはなっ」
水面から飛び出してくる全長1メートルほどのデカいトビウオ。
海の生き物に詳しい英花によると普通のトビウオの3倍ほどの大きさだとか。
普通のトビウオは英語でフライングフィッシュと言うそうだが、海から飛び出して滑空する際に発達した胸びれを使う。
ブレードフィッシュもその点は同じだ。
ただし、その胸びれは獲物を切り裂くブレードにもなる。
名前の由来はそこからだろう。
そして、俺たちは今そのブレードの洗礼を受けていた。
数が多い上に滑空のスピードが速く、避けるのに苦労させられる。
十手剣を使って胸びれを切り落とすことは可能だと思うが、あの胸びれに少しでも触れようものならザックリ切られそうなんだよね。
ウエットスーツが。
そんな訳で回避一択というのが現状である。
「こんなことなら、もっと高度を取っておけば良かったねー」
回避しながらボヤく真利。
「今さらだ。それに高く飛んでいても攻撃を届かせてくる魔物もいるからな」
英花が応じている。
「そういや、アレもいたな」
ちょっと憂鬱な気分になった。
まあ、ブレードフィッシュの方はこちらの都合など考えてはくれないので回避しながらなんだけど。
「アレって?」
真利が聞いてくる。
「ミサイルスクイッドのことだ。見た目は全長1メートルほどのヤリイカだな」
奴らは吸い込んだ海水を勢いよく吐き出すことで高速移動し体当たり攻撃してくる。
高度を取っていても飛んで来ることがあるため要注意と言えるだろう。
名前にはミサイルとついているが追尾はほぼしない。
ロケットと言った方がしっくりくるかもね。
「下から飛んで来るんだー」
「そういうこともある」
と言った次の瞬間、海面から噂のミサイルスクイッドが飛び出してきた。
冗談キツいよ。
まだ飛翔するブレードフィッシュの群れの中だ。
横に回避しなきゃと思っていたら下から攻撃されるとはね。
「弾幕シューティングじゃねえっての!」
視界を埋め尽くすほど攻撃されている訳ではないがゲームと違って2Dではなく3Dで回避しないといけないので結構シビアだ。
「踏ん張れ! もう少しでブレードフィッシュの方は抜けられるぞ」
英花の言うとおり終わりが見えてきた。
縫うように魔物という弾幕をかわしていく。
場合によっては体を捻ったりくねらせたりしなければならない。
誰かに見られていたら奇妙なダンスを踊っているかのように思われたことだろう。
それでも、どうにかブレードフィッシュの群れからの攻撃をかわしきった。
当面は奴らが戻ってくることはないだろう。
残るはミサイルスクイッドのみ。
「ホントにイカだねー」
余裕が出てきたせいか軽口を叩く真利。
「イカ焼きが食べたいなー」
「包囲網を突破しようとしている時にする話じゃないだろ」
「イカ焼きなら帰ってから食べに行けばいいではないか」
「違うよー。東京のイカ焼きを食べたいんじゃないのっ!」
東京のがダメって意味がわからないんですけど?
何処かイカが有名な所へ行きたいとか言うんじゃないだろうな。
確か北海道の函館とか青森県の八戸が有名なんだっけ?
後で調べてみたら石川県の小木と合わせてイカの3大漁港らしい。
この時点で判明している近場で青森だったけど今日中に行って戻ってくるなどできる訳がない。
石川だとしても無理だ。
無茶を言ってくれるものである。
「無茶言うなよ。イカ焼きなんて何処で食べても同じだろ」
「そうじゃなくて関西風のイカ焼きが食べたいのーっ」
なるほど、わかった。
そういうことなら真利が拒否ってくるのも納得だ。
東京のというか全国的に見てイカ焼きというと姿焼きのことだからね。
ところが大阪遠征したときに食べたイカ焼きは違ったのだ。
短冊状に切ったイカと卵以外の具がないお好み焼きみたいなものがイカ焼きだというのだ。
特にある百貨店で売られていたものは長蛇の列ができていた。
それだけのことはある味だったよ。
さすがは粉モンの街。
しかしながら、大阪以外の遠征地では見かけたことがない。
東京でも例外ではなかった。
まあ、関西風イカ焼きに限定して探した訳じゃないので、もしかすると本気で探せばあるのかもしれないが。
ただ、外に出てから探して見つかるかどうかわからないものを安易に約束するのはどうかと思う。
「それこそ無茶だろう。今から大阪に行けってのか」
いくら大阪はマーキングしたポイントが多々あるとはいえ緊急事態でもないのに転移魔法を使う訳にはいかない。
「そうじゃなくて素材をゲットして自分で作るのーっ」
「おいおい」
なんか想定の斜め上を行く無茶なことを言い出したぞ。
「素材って、まさかミサイルスクイッドのことじゃないだろうな」
「そのまさかだよー。おあつらえ向きに無防備なのが、いっぱい降ってきたしー」
的を外したイカどもが一旦は上空に飛んでいったけど重力には逆らえない訳で。
今や下から体当たりアタックをしてくるミサイルスクイッドはおらず下へと落ちてくるものばかりとなっていた。
真利の言う通り無防備なので、その気になれば乱獲レベルで取り放題だろう。
「少しだけだぞ」
「やった───────────────っ!」
万歳三唱でもするんじゃないかと思わせられるほどテンション爆上がりの真利である。
すぐさま小さめのトルネードを発動させたかと思うと巧みに操ってミサイルスクイッドを竜巻に巻き込んでいく。
「一網打尽ーっ! からのーぉ」
小さな竜巻の上から雷撃を落とすように放つ。
こうすれば全体に電撃が行き渡る訳で耐性のある電気クラゲと違って有効な攻撃だ。
火炎放射は今のところ俺のオリジナルなので選択しようがないし種族特性で無効にされないなら、こちらの方が効率がいい。
現に無数のミサイルスクイッドがあっという間にドロップアイテムと化していく。
それらが燃えることもない。
「ミケちゃーん、回収お願いねー」
『お任せくださいニャー』
真利がトルネードの魔法を解除するとドロップアイテムが上から降ってきた。
竜巻の勢いがついているので拡散気味である。
だからミケに回収をさせるのか。
ミケは霊体なのにシュババババッと残像をいくつも残しながら落下してくるドロップアイテムに接近。
霊体ではアイテムに触れられないので念動を使ってキャッチ&スロー。
真利が受け取って次元収納へと格納していく。
すべてが完了するまで、ものの数分とかからなかった。
それでも時間のロスであるのは間違いない。
が、しかし……
『どうやらミサイルスクイッドで包囲網は終わっていたようだな』
敵の気配は間近にはない。
『ソリッドマーリンあたりが来る前に撤退だ』
英花がそう言って監視用ゴーレムを投下した。
隠密行動に特化しているから魔物たちが大挙して押し寄せてきても攻撃を受けることはないだろう。
問題があるとすれば、明日ここに転移しようとしてもマーキングポイントで魔物がうようよしている恐れがあることか。
それを確認するための監視用ゴーレムだが、魔物を排除できる訳ではない。
どうか魔物たちがこのあたりで集結していませんように。
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