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296 6層探索2日目・次の魔物は

『こんな巨大ダンジョンで中ボスって……』


 真利の念話が震えた感じになっている。

 ここが水中でなく普通に喋ることができる状態だったとしても声は震えていたことだろう。


『ここの広さに比例した強さになるだろうな』


 英花が素っ気なく答えた。


『さすがにザラタンクラスじゃないと思うけど、並みの守護者よりは強いんじゃないか』


 推測の範囲だが具体的な強さを説明しておく。


『水中でそれって厳しいんじゃない?』


 恐る恐るといった具合に聞いてくる真利だ。


『何を言うのだ、真利。これが本命の守護者だったら桁違いに強いことになるぞ』


『ええーっ』


 真利は、そんなことないよねと俺に視線を向けてきた。


『異世界での経験から言えば、十中八九は中ボスだ』


『ガーン!』


 念話とはいえ自分で言うかね。


『それじゃあ、このお台場ダンジョンで守護者と相見えるようなことになったら……』


 そこから先の言葉が出てこないようだ。

 守護者の強さを想定しきれないのだろう。


『そこはピンキリだなぁ』


『え?』


 訳がわからないという顔をする真利。


『ダンジョンコアがリソースにどれだけ余裕を持っているかで変わってくるんだよ』


『どういうこと?』


 混乱したのか真利は訳がわからないと言いたげに聞いてきた。


『入り口の方で本気を出しすぎて、いざ本丸が近くなると息切れする可能性もあるってことだ』


 もちろん最後まで息切れせずにスゴいのが待ち構えていることもある。

 今回はどっちなんだろうね。

 ちょっと想像がつかない。


『虚仮おどしというやつだな』


 ニヒルな笑みを浮かべる英花。

 このお台場ダンジョンでそうなることは考えられないと言いたいのだろう。


『その可能性ってすごく低いんじゃないかなー』


 真利も同意見のようだ。


『ああ、限りなく低いと思う』


『じゃあ、どうして?』


『心構えができていれば万が一そういうケースに遭遇したときに拍子抜けしなくてすむだろ?』


 ただそれだけ。俺の言った言葉自体には深い意味はない。

 軽口を叩いたことでリラックスできたという、たったひとつの事実を除いてはね。

 魔物となかなか遭遇しない今の状況下においては意味のある行為だったと思っている。

 探索を始めたばかりで精神的に消耗するのは望ましくないからね。


 その後は緊張でピリピリするでなく弛緩してだらけるでもなく先に進んだ。

 相変わらず見渡す限り障害物がない水だけの世界に気が滅入りそうになったけどね。

 一度リラックスしていなかったら厳しいものがあったかもしれない。


『なんか変だよー?』


 最初に念話で確認してきたのは真利だった。


『ああ、魔物の気配がしているのに姿がないな』


 不機嫌な感情が乗った念話で応じる英花。


『幻影や光学迷彩を使っているような感じじゃないよねー』


『嫌な感じだ。すぐ近くにいるようなそうでないような。知覚にデバフがかけられたのか』


 英花がそんなことを言い出したが、そういう痕跡はない。


『もしかしてモンスターハウスみたいなトラップかなー?』


『半分正解かもな』


『わかるのか、涼成!?』


『下に意識を向けてみるといい』


 俺の念話に下方を見る2人。


『これは……』


『かなり下の方にウジャウジャいるよー』


 という訳だ。

 普段、地に足をつけて活動しているために下には意識が向きにくいのが災いしたな。


『先に言っておくが、俺も気付いたばかりだ』


 ずっと変だ変だとは思っていたんだけどね。


『上がってきてる?』


『にしては遅いな。このまま突っ切れそうだ』


 この英花の念話には、そうした方が良いのではないかと言外に込められていそうだな。


『それをして他の魔物が出てきたら挟み撃ちにされるぞ』


『くっ、面倒な。この数を相手にするのか』


『しかも思い当たる魔物が、少々厄介な奴なんだよね』


『なにっ!? 知っているのか、涼成!?』


 まるで某マンガの定番台詞のようなことを言ってくる英花だ。


『思い当たる節はないか? これだけ遅く移動する海の中の魔物を』


『そんなのがいるのー?』


 真利は知らなくても仕方ない。

 ゲームとかでも似たような魔物はメジャーじゃないからね。


『まさか電気クラゲか!』


『それしか該当する魔物っていないんじゃないか』


『……確かに』


 苦々しい表情になる英花。

 アレの厄介さをよく知っている証拠だ。


『よりにもよってか』


『そんなに危険な魔物なんだー。やっぱり名前通り触れると電気でビリビリ攻撃されるとか?』


 ビリビリって……

 間違っちゃいないんだけど、その表現だと緊張感が薄れてしまうな。


『それもあるが厄介な特長があるのだ。奴らを残して先に進むのは退路を塞がれるのと同じだ』


 そう、特徴ではなく特長だ。

 傘の部分を切断されると電気クラゲは個別に再生してしまう。

 電気クラゲにとっては長所と言えるが相対する側にしてみれば厄介極まりない。

 それを説明すると──


『ええーっ! 切り離したらどっちも再生しちゃうのー!? 何処を切ってもー?』


 真利はドン引きで驚いていた。


『どこでもって訳じゃない。傘の部分だけだ』


『そこはちょっとでも切り落とすとアウトってこと?』


『小さくなればなるほど時間はかかるがな。傘の部分は直径2メートルほどあるが1割以上を切り離すと戦闘中に再生してくると思った方がいい』


『再生って言うけど、それはもう増殖みたいなものだよねー』


 否定はしない。


『しかも大きいしー。エチゼンクラゲ並みじゃない?』


 エチゼンクラゲ、デカくて重くて漁業被害がどうのというニュースで見たことある奴だな。

 サイズはそれくらはあるかもしれない。


『形状とか色は違うぞ』


『どんな見た目なのー?』


『どんなって言われてもなぁ。半透明で8本の長い触手がある。確か4メートルくらいだったか』


『うーん』


 いまひとつ伝わっていないようだ。


『電気クラゲの形状はビゼンクラゲに酷似しているな』


 英花がフォローしてくれた。

 ただし、ビゼンクラゲを俺は知らない。たぶん真利も。


『食用のクラゲがあるだろう』


『酢の物にして食べるあれのこと?』


 そういえば電気クラゲも食用肉をドロップしたな。

 味と栄養がなくて食感を楽しむだけのやつを。


『そうだ』


『それなら水族館で見たことあるよー。触手が赤かったけどー』


『触手ではなくて口腕だ。電気クラゲはその部分も半透明だがな』


『そうなんだー』


 触手じゃなかったとは俺も知らなかった。


『それから口腕には注意しろ。触れると電気を発生させてダメージを負わせてくるからな』


『だから電気クラゲなんだねー』


 注意しろと言われているのに真利はマイペースである。


『威力はソリッドマーリンでさえ一撃で瀕死になるほどだ』


『かなり危険だねー』


 具体的に言われても本当にそう思っているのかと言いたくなるような反応だ。


『そのかわり毒はないがな』


『じゃあ、その口腕って部分だけを切り落として攻撃力を無くさせるのがいいのかなー』


『それは無意味だぞ、真利』


『どうしてー?』


『口腕は再生しないが本体の方が口腕を再生させるからな。一時的に攻撃を封じるくらいにしかならんぞ』


『ガーン』


『倒すなら熱を加えるのが効果的だ』


 海の中だから火は使えないけどね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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