290 まさかまさかの
水中戦装備の慣熟訓練を芦ノ湖で行うのは当初の予定通りである。
想定外だったのは白龍様が魔力で練り上げた人形で仮想敵として対戦を申し出てくれたことだろう。
実にありがたいことだ。
そして、その結果はというと……
コテンパンにやられてしまいましたよ?
水中戦装備に慣れていなかったからなんてのは理由にならない。
各モードに慣れてまともに使えるようになるまで最初は待ってくれたからね。
それでも使いこなすには時間がかかるので十全に戦える訳ではなかったけれど、それを加味して手加減してくれていたので言い訳はできないだろう。
水中戦の不利はあるよ。
向こうは水の神様だからね。
でも、陸上だったとしても余裕で負けるのはすぐにわかった。
格が違うのだ。
俺たちはレベル63でしかないので力量は遠く及ばない。
技術でカバーしようにも覆しようがない差の開きがあるから話にならないんだよね。
悔しいとか思う以前の問題だった。
思わず「ありがとうございます」って言っちゃったくらいだよ。
ここまで手も足も出ないと良い訓練になって本当にありがたかったのだ。
おかげで水中戦装備の扱いはグングンと良くなっていった。
しかも訓練が終わる頃にはレベルが64に上がっていたよ。
これくらいになると半日訓練したくらいではレベルアップしないものなんだけどね。
「また明日も来るが良い」
終わってヘトヘトになった俺たちは座り込んで返事もできない有様だったけど、何とかうなずいて応じた。
今日で慣熟訓練を終わらせてお台場ダンジョンの6層に挑むつもりだったけど、喜んで訓練の続きをさせてもらうことにしたよ。
滅多なことでは、こんな機会に恵まれることなんてないからね。
そうそうレベルアップはできないだろうけど。
それでも訓練を続ければ今より強くなれるという予感があった。
という訳で翌日も九頭龍神社の神境へとやって来ましたよ。
そして、青龍様に捕まってしまう。
「今日こそは負けないぞ」
もちろんゲームの話だ。
始める前からゲンナリ状態だよ。
英花や真利も勘弁してくれという目をしている。
ただ、昨日とは少しばかり勝手が違った。
何戦かプレイしてみたところ、いずれも勝ちはしたけれど薄氷の勝利という感じだったんだよね。
最初こそ接待プレイをしようと思っていたけど、思わぬ苦戦を強いられてつい本気になっていた。
しかも、使うキャラが対戦し直すたびに違っているのだ。
ライバルキャラで何度も練習したという感じではないのが恐ろしい。
適応能力の高さに戦慄させられたね。
「急に強くなりましたね」
「フフフ、秘密特訓を重ねたからね」
不敵に笑みを浮かべる青龍様だ。
「ワシと白が夜明けまで付き合わされたのだ」
ウンザリ顔で金竜様が呟いた。
「それは何と言いますか……」
昨日の俺よりも酷いことになっていた金竜様にかける言葉が見つからない。
簡単な慰めの言葉では足りないと感じたから。
「明日も来るといいよ」
昨日の白龍様と同じような台詞だけど、少しも嬉しくない。
俺たちはゲームしに来ているんじゃなくて訓練のために来ているのだ。
休みの日なら付き合うなんて迂闊なことも言えないけど。
夜通しゲームを続けてケロッとしている相手だからね。
逃げる口実がない分どんな目にあうのかは想像に難くない。
ほどほどで終わらせてくれるなら俺も休日のリフレッシュタイムを楽しめるとは思うんだけどさ。
何にせよ、青龍様から解放されたので水中戦装備の慣熟訓練だ。
今日も白龍様の分身人形を相手に水中戦である。
どちらも水中とは思えない機動をしているが、いいように俺たちがあしらわれている。
3対3の状況で個々の能力が誰も及ばないのだ。
余力のある向こうには翻弄され、こちらは何とか連携しようとしても容易に分断される。
それを逆手にとって隙を突こうとしても易々と対処されてしまう。
3対1でも状況はさほど変わらない。
後ろに目がついているのかと言いたくなるくらい余裕で全方向の攻撃に対処する。
囲んだつもりがスルスルと抜け出されて簡単に背後を取られることも当たり前のようにあった。
最初は何が起きたのかと呆気にとられたよ。
昨日の反省点を生かして、どうにか勝てはしないまでも粘ってみようとしたけどダメだった。
後に白龍様から聞いた話によると俺たちの動きが良くなるたびに分身人形の方も少しずつ加減するのを減らしていっていたのだそうだ。
道理で追いつけない訳である。
そんなことにも気付けないのかと情けなくなったけど、白龍様が上手くやっていたのだと思う。
英花に聞いても疑念すら抱かなかったと言っていたくらいだし。
逆に真利の方が違和感を感じていたらしい。
ただ、それが何であるのかはまったくわからなかったと言っていたので、英花とさほど差はないだろう。
五十歩百歩だ。
もちろん俺もそこに含まれる。
つくづく修行が足りないと痛感させられましたよ。
訓練としてはいいとこなしのように思えるが、そんなことはない。
異世界の勇者をしていた頃の戦闘の勘が戻ってきたような感覚を得られたし。
レベルも最終的には70にレベルアップしていた。
1週間の訓練だったから1日1レベルずつ上がっていたことになる。
2日目以降はさすがに上がらないだろうと思っていたので確認したのは最終日が終わってからだった。
「うわっ、レベル70になってるぞ!?」
「なにぃっ!?」
俺が驚きの声を上げると英花も驚愕した。
「あ、そうなんだー。スゴいねー」
真利はどれだけ大変なのかわかっていないようで、あっけらかんとしていたけれど。
そのせいで俺も英花も毒気を抜かれたようになってしまったさ。
こうなると再び驚いた瞬間のテンションに巻き戻せるはずもない。
驚きの余韻のようなものは残っていたけどね。
ちなみに青龍様との格闘ゲーム勝負は五分五分のところで終わった。
3日目は1勝もできないだろうと思っていたんだけどね。
金竜様や白龍様が特訓に付き合ってくれなくなったからみたい。
それと少しでも勝てるようになったことで納得してしまったようだ。
そのかわり4日目からは落ちものパズルに付き合わされたよ。
何処から手に入れてきたのかSEDAのドリームキャットがあって驚かされたね。
とっくの昔に販売終了になって入手困難なはずのゲーム機なんだけど執念を感じたよ。
ゲームは、同じ色のゼリーを5個そろえて消していくぷるぷる~んだった。
フィールド上部から3個ずつ落ちてくるので落ちきる前に配置を換えて色がそろうようにしていく。
上手く連鎖すると相手のフィールドに寒天を落とすことができ、フィールドが寒天やゼリーで埋め尽くされるとゲームオーバーになる。
これは真利が得意なジャンルだったのでバトンタッチしたんだけど容赦なかったね。
〈ぷるん〉
〈ぷるぷるぷる~ぼよよ~ん〉
青龍様が連鎖なしで消したタイミングで真利は4連鎖。
為す術なく画面が寒天で埋め尽くされた。
〈もう食べきれないよ~〉
青龍様の選択したキャラが画面上でお腹を膨らませて引っくり返っている。
「もう1回!」
再戦するも、青龍様が上手く連鎖を組めずに苦戦している中で真利は的確に連鎖の仕掛けを組み上げていく。
〈ぷるぷるぷる~ん〉
たまに偶然で青龍様が3連鎖を決めても──
〈ぷるぷるぷる~ん〉
即座に3連鎖で相殺して寒天をもらわない。
相手のフィールドの状態も把握している証拠だ。
それどころか──
〈ぷるぷるぷるぷる~ごっくん〉
このゲームでは至難の業と言われる5連鎖まで決めて完封してしまった。
マジで容赦ない。
戦意喪失させて早めに切り上げようって腹だったみたいだけどね。
読んでくれてありがとう。
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