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29 真利の部屋にて

 真利の説明により世界の状況は把握できた。

 日本も無事な方だと聞いたが、それでも酷いものだ。

 北海道は全域がフィールドダンジョン化し手がつけられない状態らしいし。

 氷帝竜と呼ばれる巨大なドラゴンが領域内への侵入者をことごとく殲滅するのだとか。

 わずかな生き残りが情報を持ち帰らねばドラゴンがいることも知られることはなかったけど……


「あえて見逃されたっぽいよな」


「ああ、縄張りに踏み込むならば容赦をしないという警告だろう」


 俺と英花の見解は一致した。


「そんなことあるの!?」


 真利が驚きをあらわにして聞いてくる。


「ダンジョンは基本的にダンジョンコアが支配するものだが、ボスの知能が高い場合は立場が逆転することがあるんだよ」


 北海道を縄張りとして気に入っているならダンジョン内の管理もちゃんとするだろうし外に出てくることもないだろう。

 もちろんスタンピードを起こすような真似もすまい。

 あれが発生すると内部の環境が著しく悪くなるからね。

 中に入らない限りは安心できると思う。

 侵入者を追い出すのではなく容赦のない殲滅行動をしたあたりに不安を感じないわけではないのだけど。


「ふえー、ファンタジー小説とかゲームの設定みたいだね」


 俺たち以外に異世界からの帰還者がいて体験談を小説やゲームにしていたのだとしても俺は驚かない。


「ダンジョンなんてその最たるものだろう」


「そうだね。いつの間にか現実になっちゃったけど」


 真利が心なしかションボリしている。

 世界が激変したせいで、ずっと独りぼっちだったからだろうな。

 かつてを思い返せば受け入れがたい現実というやつだ。


 俺としても世界がこんな風になったのは信じたくないところだけど逃避したところで過去に戻れるわけではない。

 前を向いて進まねばとは思うのだが割と悲惨な状況だ。

 両親が亡くなった話は先に真利から聞かされたが、大陸ほどの天変地異はなかったものの日本でもそういう事象が発生し人口は激減したそうだ。


 そのおかげと言うと不謹慎ではあるが、行方不明者だった者が戸籍を回復させるのは難しくないらしい。

 あと脅威的な早さで特殊帰化法が可決し施行されたり自衛隊が解体されて自衛軍として再編されたりしたという。

 前者は激減した人口をこれ以上減らさないための苦肉の策だそうだ。

 優秀な人材を試験で選抜した上で試用期間を問題なく過ごせた者を帰化するんだとか。

 半年の試用期間中は日本人として扱われる一方で期間内に犯罪など起こした場合は即座に追放されると。


「あの少尉も帰化の試用期間中みたいだったな」


「ヘンドリック少尉か。勘のいい男だった」


「そんな人がいるのに涼ちゃんたちよくバレなかったね」


「離れた場所に潜んでいたし気付かれないためのスキルもあるからな」


「スキル!? ホントにゲームみたい」


「ダンジョンがあるのに、そういう情報は出回らないんだな」


「どうかな? ニュースでは聞いたことないよ。調べたら情報が出てくるかもだけど」


「あー、そうかい」


 興味がなかったから調べてないってことだな。


「ネットは使えるんだよな」


「でなきゃネットトレーダーなんてできないよ」


「そりゃそうだ」


 とりあえず次元収納から懐かしのスマホを取り出す。

 バッテリーは切れているが雷属性の魔法で充電すれば使えるだろう。


「涼ちゃん、これ使う?」


 真利がケーブルを差し出してきた。


「おう、サンキュー。真利もリンゴ信者なのか」


「複数台持ちは基本だよ?」


 当然のように言ってくるけど、普通の人は1台だけ持っていれば充分だと思うぞ。

 とにかく4年ぶりにスマホの電源を入れてみた。

 一応は動くみたいなので検索をかけてみるとスキルの情報はちゃんとあった。

 真利の興味がないことは自分で調べた方が良さそうだ。

 人心地ついたところで──


「ホントにスキルってあるんだねえ」


 真利が感心したように言った。

 俺のスマホを覗き込んでいた訳でもないのにどういうことだ?


「さっきの、アイテムボックスでしょ」


 あ、次元収納を無意識で使っていたな。

 外では他人に見せないように気をつけないと大騒ぎになりかねない。


「思っている通りの機能はあるスキルだけどアイテムボックスじゃなくて次元収納だ」


「ふーん。便利そうだね」


「勇者でないと習得できないスキルだけどな」


「そうなんだ。残念」


「影収納のスキルを習得できれば似たようなことはできるな」


「そうなの?」


「次元収納と違って影がないと出し入れできないし中の時間も停止したりはしないけど」


「いいな、それ」


「特級スキルだから習得は難しいぞ。最低でもレベル10はないとな」


 途端に真利はションボリしてしまった。


「なんか無理そう」


 積極的に体を動かすであろう話になると消極的になるのは引きこもりあるあるだね。

 それと魔物とはいえ殺生をすることになるから、その点でも抵抗はあるのかもしれない。


「コンパウンドボウも買ったのになぁ」


「やる気満々だな」


「ダンジョンのすぐ近くに住んでるから護身用に買ったんだよ」


「魔物を殺せるのか」


「どうかな。青き月のウィステリアみたいにやれればいいなとは思ったけど」


 青き月のウィステリアとは俺たちが中学生の頃に放映されていたTVアニメである。

 主人公は藤色の髪のメイド服を着た美少女アンドロイドであるウィステリア。

 異世界から魔王の侵略を受けた地球で仲間たちとともに戦い抜いていくという作品だ。

 実は本当の主人公である少女が昏睡状態の中で見ていた夢だったというオチで物議を醸し後年まで語り草になっているのだけど。


 真利はこのアニメの大ファンでグッズも集めまくっていた。

 そういやウィステリアが劇中で一度だけ音のしない武器としてコンパウンドボウを使ったことがあるな。

 護身用とか言ってるが真似をしたいがために買ったに違いない。


「魔物を殺すのに抵抗を感じないというならパワーレベリングに付き合ってもいいけどさ」


「ホント?」


 期待のこもった目で見てくるあたり問題はなさそうだ。


「あー、でもダメだよ。弓が引けなかったから」


「……あのな」


 コンパウンドボウはその構造から引き切って保持する時が楽になる弓だが、引き始めがキツかったりする。

 アニメで使われていたのは最大の威力を出せる代物だったはずだから素人の真利が引けなくて当たり前である。


「見せてみ」


 そう言うと真利は部屋の片隅に埋もれていた弓を引っ張り出してきた。

 この部屋は20畳は越えるはずなのに、やたらと物が置かれていて狭く感じるんだよな。

 よく見たらウィステリアとその姉妹機の等身大フィギュアまでそろっているじゃないか。


「これだけど」


 手渡されたので今はコンパウンドボウに集中しよう。

 リリーサーをセットし引いて空撃ちをしてみるが確かに素人では引けない手応えを感じる。

 ろくに調べもせずに同じものを買ったのが丸分かりだ。

 このままでは、もったいないので特定の使用者の時だけ魔力でアシストして軽く引けるように魔道具化させてみた。

 リリースした際に使用者に魔力を返還してロスが少なくなるようにしているのが工夫したポイントだ。


「これで引いてみ」


「え?」


 困惑の表情を浮かべる真利だったが言われるまま返却されたコンパウンドボウを引く。


「うそっ!?」


 あまりの軽い引きに真利は目を白黒させる。

 パワーレベリングのためだから、これくらいはちょちょいとね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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