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286 幕切れとその後

 角刈り男が入院したことで連中からからまれることはなくなった。

 リーダーである奴が動けなくなったことで、奴の仲間たちは士気が極端に低下した状態だ。

 無気力になった訳ではないが能動的に動くことができなくなっている。

 俺たちにケンカを吹っ掛けるどころか漁に出ることすらままならないのだから呆れる他ない。

 指示する者がいないと行動できないなんて子供か?


「呆気ないものだったな。かなりしつこいと聞いていたんだけど」


 肩透かしを食らった気分で嘆息した。

 俺たちが手を下した訳ではないことがそう感じさせるのだと思う。


 ある意味、角刈り男の自爆と言える結末だった。

 自衛軍の調査隊がダンジョンで戦っている最中に横入りしたあげく、ゴブリンシャーマンの魔法を無防備に食らって重傷を負ったのだそうだ。

 右半身は特に損傷が酷く、右目は失明、腕や脚は後遺症が残るらしい。


「そうか? 所詮はあの程度の輩だったのだと思うがな」


 英花は俺のように拍子抜けはしていないみたいだ。


「元々、一般人に毛の生えた程度の連中だったのだからな」


 それには同意する。

 冒険者としては三流以下と言わざるを得ない。


「だとしてもゴブリンシャーマンの魔法であそこまで酷い怪我になるかなー?」


 真利が疑問を感じているが俺も同感だ。


「右目の失明だけならわからなくもないんだがな」


「だよねー」


「後遺症が残るほど腕や脚がやられるものか?」


「そんなこと言われてもわかんないよー」


「普通は風魔法でも腱を切るほどじゃないと思うんだが」


「ズタズタになってるんだよね?」


「そうじゃないのか? テキストの簡潔な報告だと詳細までわからんからなぁ」


 真利と2人で首をかしげてしまう。

 英花は端末で監視システムの記録を確認しているらしく何も言ってこなかったのだが、不意に顔を上げて──


「どうやら魔法で挟み撃ちの状態になったようだぞ」


 と言ってきた。


「「挟み撃ち?」」


 思わず真利と2人で聞き返してしまう。


「ゴブリンシャーマン1体の魔法じゃないということだ」


 そう言いながら端末の映像を見せてくれる英花。

 そこには2体のゴブリンシャーマンが放った魔法が交差する位置に飛び込んでいく角刈り男の姿があった。


「自分から食らいに行ってるぞ。完全にカウンターになってるじゃないか」


 基本の目配りすら満足にできないとは本当に冒険者なのかと言いたくなった。


「しかも倒れた拍子に自分の剣で怪我してるよー」


 右手に持っていた剣は下敷きにしてしまう形で転倒したことで脚に食い込んでいた。

 そして左手の小剣は転倒の衝撃で手放してしまい宙を舞って腕に刺さってしまう。

 つまり悪条件が色々と重なった結果として酷い怪我になってしまった訳か。

 ちょっとあり得ないだろうというくらい酷い結果になったのには驚かされたが、今までの悪行の報いがまとめて襲いかかってきたのだと思うことにした。

 どうせなら俺たちが八丈島に来る前に報いを受けてほしかったけどね。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 その後は特にトラブルになることもなかった。

 元凶である角刈り男が動けなくなったんだから無理もない。


 なお、後に知ることになるのだが歩行は杖なしでは困難となり右手も指を動かすのに支障のある状態となった。

 リハビリをしてこの状態なので一生このままだ。

 右目も失明だし満足に仕事などできるはずもない。

 そのせいで漁師も冒険者もやめて引きこもることになるのだが、それはもうしばらく後の話だ。


 ちなみに統合自衛軍の調査隊に対する妨害行動については、厳重注意だけで終わった。

 調査隊には被害が出なかったことに加え角刈り男が酷いことになっているのが加味された結果のようだ。

 もしも被害があったら刑事告訴に加え民事で損害賠償も請求されていたはずだと聞いた。


 情報源は遠藤大尉なので間違いはないだろう。

 調査隊に参加できなかったことを愚痴っていたけどね。

 守護者がゴブリンキング程度のダンジョンにエースを送る訳がないと思うんですがね。

 まあ、それをゴリ押しで来るのが遠藤大尉なんだけど。

 今回はどうしても都合がつかなかったそうだ。


 角刈り男は自業自得の自滅をした訳だけど、怪我はしなかった仲間たちのその後も遠藤大尉から聞くことになった。

 角刈り男が刑事告訴されなかったおかげで取り巻きたちも同様に逮捕も検挙もされなかったという。

 運のいい連中だ。


 もっとも厳重注意は受けているので、おとがめ無しという訳でもないか。

 そのせいで、すっかり丸くなってしまったそうだ。

 以前のような横暴な振る舞いをしなくなったんだと。

 俺たちは監視用ゴーレムで観察していたので厳重注意を受ける前から牙を抜かれた状態だったと知ってたけど、それを暴露する訳にはいかない。

 監視システムのことは外部に知られる訳にはいかないんだし。


 何にせよ角刈り男の仲間たちも冒険者免許を返納し漁師一本でやっていくことになったという。

 ゴブリンやその亜種と戦ってギリギリの状況をいつまでも抜け出せないんじゃ正解だ。

 漁師と兼業だったとはいえ潜る頻度が少なすぎたのがレベルアップできなかった原因だろう。

 そんなことを教えるつもりも義理もない。

 教えたところで、すっかり大人しくなった連中が冒険者に復帰することはあるまい。


 なお、連中が大人しくなったことで島の住人たちとの関係性に変化があった。

 真面目に漁師一本で仕事を続けていることで受け入れられるようになったのだとか。

 英花などはその話を聞いて──


「甘すぎる」


 と言っていたが、発言に反して表情は穏やかなものだった。

 取り巻き連中は角刈り男の言いなり状態だったので、さほど腹を立てていなかったのかもしれない。

 印象が薄かったのもあるとは思うけど。


「それにしても東京に遠征に来てまでダイビングに行くとはな」


 遠藤大尉が話の終わりにそんなことを言い出した。


「勘違いしないでほしいですね」


「勘違いだって?」


「俺たち、東京には大人の修学旅行で来ているんです。ダンジョンにも潜っちゃいますが、そっちはついでですよ」


「はあ~、大人の修学旅行だって?」


 半ば呆れ顔で聞かれてしまった。


「真利が学生時代に修学旅行を経験できなかったものですから」


「ふーん? 学生時代にできなかったことを今リベンジしますってことか」


 遠藤大尉はいまいち納得できないようだが、こっちの知ったことではない。


「それにしたって修学旅行でダイビングなんてするかぁ?」


 何か探りを入れるような目で見てくる遠藤大尉である。

 俺たちの本当の目的に気付くとは思えないが、それでも何かあると直感したのかもしれない。

 これだから、この大尉は油断ならないのだ。


「する学校もあるそうですよ」


「あるそうって、学生ん時の修学旅行じゃやらなかったのか?」


「言ったでしょ。大人の修学旅行だって」


 遠藤大尉は今ひとつ意味をつかみかねるのか怪訝な表情を浮かべている。


「かつての修学旅行を完全再現するのが目的じゃないんですよ」


「ほう?」


「修学旅行の気分が味わえるなら何でもありなんです」


「何でも?」


「そうですよ。やりたいと思ったことは全部やっちゃうんです」


「やっちゃうのか。そいつは楽しそうだなぁ」


 ようやく納得はしてもらえたようだ。

 もしかしたら、まだ何か引っ掛かっている恐れはあるけどね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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