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285 やってくれたよ

 次の日も前日と同じパターンだった。

 午前中に違うスポットでダイビングをして昼前からフリーの観光。

 本日は昼に島独自の寿司を食べ、昼からはレンタルサイクルを借りて街中をブラブラと走り回る。


「こういうサイクリングも悪くないよねー」


 離島の生活風景ってどんなものか知りたいという真利の言葉からこうなったのだが、確かに悪くない。


「真利、これはサイクリングではない」


「へ? どういうこと、英花ちゃん」


「サイクリングとは目的地を決めて自転車で走ることだ」


「あー、今日の俺たちは目的地を決めてないよな」


「サイクリングじゃなかったらなんて言うのー? 散歩じゃないよね?」


「自転車でブラブラと適当に走るのはポタリングと言うんだ」


「へえー、そうなんだー」


 俺も初耳である。

 ダイビングといい今回の話といい英花はアウトドア派なんだなと思う。


 それでポタリングをしてみて思ったのが、確かに田舎町って感じではあるけど生活に困るほどの田舎ではないよなってことだ。

 スーパーやパン屋がいくつかあったからね。

 もちろん、それだけで何不自由なく生活できるとは言えない。

 それでも俺の中にある田舎のイメージってスーパーは車でそれなりに時間をかけなきゃ行けないものだ。

 当然のことながら近隣にパン屋などあるはずもないという思い込みもあった。

 ところが、この島には何軒かあったんだよなぁ。


 その中でもインパクトがあったのは、くさやの干物を使ったくさやパン。

 あの独特な臭気を放つくさやをパンと融合させて惣菜パンにしようという発想が正気を疑ったよ。

 怖いもの見たさ半分で購入したけど、そこまで極端な味ではなかった。

 くさやが臭い控えめだったのが大きいと思う。

 でなきゃパン屋の中でくさやの干物の臭いが充満していただろうし。


 そんなこんなで最初はさほど期待していなかったんだけど色々と楽しめた。

 おかげで角刈り男たちのことなんて、すっかり忘れていたくらいだ。

 監視システムからは何の報告もなかったし。

 連中はダンジョンに潜りはしたものの先に進もうとはしなかったのだろう。


「ん?」


 不意に監視システムからスマホに偽装した端末へ連絡が入った。

 端末を出して報告のテキストを読むことしばし……


「アホだろ、アイツら」


 報告を読み終わった俺は思わず嘆息していた。


「何だって?」


 英花が聞いてきたので端末を渡す。

 英花と顔を寄せ合うようにして読んでいく。

 読み進める間に俺と同じような呆れ顔になっていた。


「バカだバカだと思っていたが、ここまでとはな」


「何を考えてるのかなー?」


 真利が首をかしげたくなるのも仕方のないことだ。

 角刈り男たちは統合自衛軍のダンジョンを調査に来たチームともめたというのだから。

 何やってんだか。


「きっと何も考えてないぞ」


 後先を考えている者が自衛軍とトラブルを起こすなど普通では考えられない。


「同感だな。連中は自分たちさえ良ければ他のことはどうでもいいと考える節がある」


 だからこそ島の住人たちから忌み嫌われるのだ。

 そんな連中が自衛軍にケンカを売った。

 相手にはされなかったようだが、ダンジョンの中で調査を始めたチームを妨害。

 まさかそこまでするとは思わなかったさ。

 予想の斜め上を行ってくれる行動に呆れるしかなかった訳だ。


 まあ、これだけなら監視システムから報告が入ったりはしない。

 妨害したことで魔物の攻撃の矛先が角刈り男たちの方へ向き、ゴブリンシャーマンの魔法を受けた1名が瀕死の重傷を負ったというのが結末だ。


 その結果を招いたのは自衛軍が現場にいたからである。

 正しくは連中が乱入したと言うべきか。

 いずれにせよ、これは監視用ゴーレムが介入できない。

 連中の目は誤魔化せても自衛軍にまで監視用ゴーレムの存在を知られぬよう魔法を行使するのは無理がある。


 監視していることがバレる訳にはいかない。

 そう考えたから監視システムには他者の目がある場合は手出ししないように指示を出してあった。

 他の冒険者、すなわち自衛軍の調査隊がいれば連中も死にはしないだろうという目算もあってのことだ。

 結果から言えば裏目に出てしまったと言わざるを得ない。


「だからこそ面倒なことになった」


 人死にが出ていないだけマシではあるのだけど。

 これで角刈り男たちが俺たちを逆恨みして因縁をつけてくることも考慮しなければならなくなった。

 俺たちのせいで仲間が死にかけたってね。


「連中のリーダーなら言いがかりをつけてくるくらいは普通にしそうだな」


 英花も同意見のようだ。

 普通に考えて常識のない話なので現実味がないのだけど連中ならやりかねない。

 充分に警戒しておく必要があるだろう。

 当然、監視用ゴーレムでの監視も継続だ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 結論から言うと夜が明けても角刈り男たちは来なかった。

 朝一で来るかもと身構えていたんだけど。


「来ないなんてことがあると思うか?」


 連中のことを読み違えたかと思い英花と真利の2人に聞いてみたのだが。


「いいや、連中なら間違いなく来るはずだ」


 英花は角刈り男たちの不埒な行動に確信を持っていた。


「先輩の漁師に捕まってるとかかなー」


 真利はそんな予想をしていたが充分に考えられるな。

 とにかく2人とも連中が来ることは確定事項として見ているのは間違いない。

 俺が不安に思うまでもなかったな。


「病院へ見舞いに行ったのかもしれないぞ」


 英花の意見もあり得る話だ。


「えーっ、まだ面会時間の前だよー」


「そんな常識が連中に通用すると思うのか?」


「ソウダネー」


 辟易した表情で真利が同意する。


「確かめてみるか」


 スマホ風端末で監視システムを呼び出して角刈り男たちの位置を地図上にマーカーを表示させて確認する。

 1人は病院で残りは漁港で集まっていた。


「真利の予想が当たったかな?」


「そうでもなさそうだぞ」


 別の端末で監視用ゴーレムの視覚映像を確認していた英花が言った。

 見ているのは病院の方だ。


「入院したのは、あの角刈りのようだぞ」


 まさか重傷者が連中のリーダーである角刈り男だったとはね。

 昨日の報告はテキストに限定していたため誰が怪我をしたのかまでは知らなかったのだ。


「こっちは、なんだかお通夜みたいになってるよー」


 真利は漁港で集まっている残りのメンバーの方を確認していた。

 俺も監視映像に切り替える。

 ついでに会話を字幕で表示するようにもした。


[船長はしばらく動けないんだよな]


[どうする?]


[どうするって俺たちだけでダンジョンに行くのか?

 無理無理。船長が抜けたら誰が指示を出すんだよ]


[だよなぁ]


[今日の漁だって休んだしよぉ]


[明日は出るよな]


[船長がいないと無理じゃね?]


[無理だよな]


[けどよぉ、稼がねえと食ってけねえぞ]


[んなこたぁ言われなくてもわかってんだよ。

 いくら俺が操船できたって船長がいなけりゃ船は出せないだろぉが]


[勝手に漁に出て船を少しでも傷つけたら殺されるもんな]


[なら、ダンジョンに行くしかねえぞ]


[だから無理だって]


 こんな具合で会話が続いていた。

 後は堂々巡りで結論など出ないので早々に見るのをやめたけれど、リーダーが動けなくなっただけで何も決断できなくなるとはね。

 それって大人としてどうなのさ。

 俺たちとしては連中が身動き取れなくなったのはラッキーなんだけど。

 人の不幸を喜ぶのはどうかと思うが、それも自業自得な訳だし。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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