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283 ミケの策に抜かりなし

 ミケが戻って来ない。

 どうやら眠らせるだけでは終わらせないつもりらしい。


(ミケの奴、何をするつもりだ?)


 未だにヒソヒソ声なのは俺たちが帰ってきたことを宿の従業員に察知されたくないからだ。

 夜陰に乗じて隠れ潜んでいるので今のところは大丈夫なんだけど。

 できれば、どうにかして角刈り男たちが眠り込んでいるのを誰かに見つけてもらいたいところだ。


(ロクでもないことをするつもりなら止めなければな)


 そんなことを言いながら今にも飛び出していきそうな英花だ。

 ちょっと冷静な判断ができなくなっているか?

 とにかく止めなければと思っていたのだけど。


(英花ちゃーん、もっとミケちゃんのこと信じてあげようよー)


 真利が抗議したことで前のめりになっていた英花の気配が少し和らいだ。

 ただ、ジロリとにらむような視線をこちらに向けてきている。

 矛先がこちらに変更されただけか。


(真利はそう言うがアレの行動ひとつで面倒事に発展しかねないということを忘れるな)


 言い返してきたところを見ると真利の反論を封じてからミケを制止するつもりのようだ。

 しかも、英花の言うことにも一理あるというか、もっともだと思えてしまうんだよね。


(でも、ミケちゃんは私たちの不利益になるようなことは絶対にしないよー)


 それを持ち出されると英花も反論しづらいようで、ぐぬぬ状態に陥っている。


(そうだな。それだけは間違いない。もう少し見守ってみようじゃないか)


 そうこうしている間にミケは行動を起こしていた。

 角刈り男に憑依して他の眠った連中を乗ってきたとおぼしき軽トラの荷台に積み込んでいく。

 その後は角刈り男に運転をさせて何処かに行ってしまった。


(なるほど。これはありがたいな)


(涼成はそう言うが、ミケの奴は何処に行くつもりだ?)


 英花は疑問を口にしたものの、さすがに軽トラを走って追いかけるようなマネはしないようだ。


(さあ、それはミケに聞いてみないとな)


 目的地が何処かはわからない。

 が、何を意図しているのかは想像がつく。


(連中が待ち伏せしていたことを俺たちが知らない体にしようって腹だろうな)


 俺たちは何も見ていない。

 宿に帰ってきた時には誰かが道をふさいだりなどしていなかった。


(そうなればトラブルにはならないか)


 連中との接触がない以上はでっち上げようがないし、何もないから揉み消す以前の問題だからね。


(ナイスだよ、ミケちゃん)


 真利、そういうのは本人の前で言ってやらないと意味がないと思うぞ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



『ただいまですニャー』


 霊体化したミケが戻ってきた。

 それなりに待たされたが、車で移動したことを思えば仕方あるまい。


(それで連中を何処に捨ててきたんだ?)


 英花の聞き方が微妙に酷い。

 まあ、角刈り男たちの態度からすると仕方のないところはあるか。


『漁港ですニャ。漁師を隠すには海の中と言いたいところを海の近くにしたのは、せめてもの情けですニャン』


 ミケはミケで恐ろしいことを平然と言ってのけるな。

 どうやらミケも腹に据えかねていたらしい。


(言うじゃないか)


 英花がニヒルな笑みを浮かべながら言った。

 ミケが相談もなく勝手に行動したことについてのおとがめはなしのようだ。

 大手を振って宿に帰れるからだろうね。

 それに漁港へ車を乗り捨ててきたのもナイスプレーだ。


 これが他の場所だと連中が目覚めてから何かしらの騒ぎを起こしかねない。

 どうしてこんな場所にと混乱して周囲のものに当たり散らしそうなんだよな。

 その場に誰かが居合わせたら最悪だ。

 何の関係もないはずなのに言いがかりをつける未来が見えるかのようだよ。

 絶対にそこまでするとは言わないが、インストラクターから聞いた話と俺たちに対する敵対的な行動を見る限り否定はできない。


 その点、漁港であれば同業者ばかりの上に連中は若手だ。

 先輩後輩の関係までひっくり返して調子に乗るなら話は別だが、そういうことはないだろう。

 漁業権を剥奪されれば仕事ができなくなるからね。

 その漁業権を得るには漁業協同組合に加盟する必要があるけど新参であれば扱いが軽いのは自明の理。

 連中は俺たちとそう年齢が変わらないように見えたから間違いなく下っ端扱いされているはず。

 漁師たちに囲まれた環境では必然的に大人しくせざるを得ない。


 ミケがそこまで考えて憑依した角刈り男を操って漁港に車を走らせたとは思えないが、そこは幸運だったと喜んでおこう。

 とにかく、いま優先すべき事項は晩ご飯だ。

 さっきから腹が減って仕方がなかったんだよね。

 そんな訳で宿に戻るのが小走りになってしまったのは御愛敬。


「すみませーん。ただいま戻りました!」


 宿の玄関で声をかけると、バタバタと駆けてくる足音が聞こえてきた。

 奥から宿の主人が、食堂の方から女将さんが出てくる。


「アンタたち無事だったのかい!?」


 心底驚いたとばかりに目を見張りながら女将さんが聞いてきた。


「何がです?」


 聞きたいことが何であるかは承知しながらも、すっとぼけて聞き返す。


「何がって……」


 俺たちが無傷で平然としているのが信じられないようで女将さんは言葉を失ってしまったようだ。


「ここに来る道をふさいでいる連中がいただろう」


 宿の主人が引き継いで話しかけてくる。

 俺は英花と真利の方を交互に見た。


「そんなのいたか?」


「いいや。誰もいなかったな」


 肩をすくめて答える英花。


「猫の子1匹いなかったよー」


 真利の返答は少しばかり芝居がかって見えたが、台詞が棒読みでなかっただけマシだろう。

 まあ、宿の人たちにそれを感知できるほどの余裕はなさそうだけどね。


「そんなことより晩ご飯はまだ大丈夫ですか?」


 実は少しだが時間を過ぎているのだ。

 すでに片付けられていても文句は言えない。

 こんなことならミケが角刈り男たちを車で移動させている間に宿へ帰っていれば良かったと後悔するも後の祭りである。


「え? あ、ああ、晩ご飯ね。大丈夫、大丈夫ですよ。時間内でなくても今日は特別です」


 思った以上に動揺しているな。

 それだけ角刈り男たちは島の住人にとって悪辣無比な存在なのだろう。

 俺たちに迷惑をかけたと思ってるんだろうなぁ。

 でなきゃ晩ご飯の時間を過ぎているのに大丈夫とは言わないだろう。


 食堂への案内は女将さんがしてくれた。

 その間に宿の主は従業員をともなって表に出て行く。

 角刈り男たちが潜んでいないか見回ってくるつもりか。

 ちょっと申し訳ない気持ちになったさ。

 ケンカ腰の角刈り男たちと遭遇したらどうしようという心理的重圧を感じながら見回りをするのは心臓に悪いはずだ。

 その上、連中はいないので最後までドキドキしっぱなしで骨折り損となるからね。

 居たら居たで心臓にも胃にも良くないけれど。


 結局、拍子抜けした顔で帰ってきて困惑半分で首をかしげていた。

 連中のしつこさは、それだけ定評があるってことだな。


 そんな訳で晩ご飯の後に明日以降の対策を練ろうとしたのだけど……


『必要ないですニャン』


 その自信は何処から出てくるのかと言いたくなるくらいのドヤ顔を披露したミケは念話で話しかけてきた。


『その根拠は何だ?』


 英花がジロッとミケを睨みながら念話で問う。


『アイツら単に眠らせているだけじゃないですニャー』


 何か仕込みをしている訳か。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] >漁師を隠すには海の中 連中を漁師と呼ぶのは真っ当な人達への侮辱だけど、それはさておき海の中に隠されても泥酔して車ごと海へダイブしたのかとか思われそう
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