表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

281/380

281 色々と話してみた

 翌日は朝からダイビング体験ツアーの続きである。

 潜るスポットを変えて海の中の景色を楽しませてもらった。

 水深は前日と同じように数メートルまでだったので移動範囲は限られていたけどね。

 目先を変えるだけでもガラッと印象が変わるから退屈はしなかったよ。

 これは明日も楽しみだね。


 そして、昼前からはフリー観光だ。

 前日の晩に話し合った結果、郷土富士でトレッキングをしてみることになった。

 もしも角刈り男たちが俺たちのことを見つけて接触しようとしてきても引き離すのが容易だ。

 そもそも連中の体力では端から話にならないけどね。

 つまり、昨日と同じように力の差を見せつけて戦意を喪失させるのが目的なわけだ。


 俺たちの予定をインストラクターに話したところ途中まで車で送ってもらえることになった。

 実にありがたい。

 インストラクターには感心しながらも苦笑いされたけどね。


「タフですねえ。他のお客さんでここまでアグレッシブに動かれる方は初めてですよ」


「これくらいできないと冒険者としてやっていけませんよ」


 この言葉に偽りはないし盛っている訳でもない。

 中級免許持ちなら充分に可能だからね。

 言ってみれば冒険者も体力勝負という観点からすればアスリートのようなものだ。

 自分の命がかかっているので、本気でやろうとすればシビアになるけどね。


 だからヌルく活動している者たちも少なくない。

 安全マージンを充分に取れば危険もそれだけ減るのだし。

 それでも一般人と比較すれば体力お化けのようなところはある。

 魔物を倒し経験値を得てレベルアップすればレベル1とは差がついて当然だ。


 中にはレベル2や3でずっと停滞しているヌルすぎな連中もいるけどさ。

 昨日の角刈り男とその仲間たちなどは、その典型例だろう。


「やっぱり本物は違うんですねえ」


 感心した様子でうなずいているインストラクター。

 島にいる冒険者は偽物だと言わんばかりだ。

 そして、その偽物が誰であるかということについては言及しないでいる。

 俺たちに不快な思いをさせないよう気を遣っているのだろう。


 昨日、宿に帰ってから宿の人に聞いてみたけど地元民で冒険者なのはFMという5人組のチームだけのようだ。

 角刈り男こと大迫をリーダーとする島の鼻つまみ者集団であるのは言うまでもない。

 ちなみにチーム名はフィッシャーマンを短縮させたものだとか。


「自衛軍の部隊もダンジョンの間引きに来るでしょう」


「彼らは軍人じゃないですか。冒険者ってイメージが湧かないんですよね」


 そういうものだろうか。

 冒険者をやっていると日常的に彼らの姿を見るので、あまり他の冒険者との差を感じないんだけど。

 せいぜい服装が統一されているので統合自衛軍のダンジョン攻略部隊なんだなと見分けたりするくらいかな。


「あんまり見かけませんし馴染みがないんですよ」


 なるほど。

 八丈島の住人からすると定期的に来訪するとはいえ頻繁ではないし、任務で来ているから俺たちのように島民に関わる訳ではないか。

 だとすると露骨な隔意はないまでも遠い存在なんだろう。

 軍人という肩書きがあるために身構えてしまうところもあるようだ。


 そう考えると世間で思われている冒険者のイメージはそう冷たいものではなさそうだ。

 メディアで流れている資源供給をしている欠かせない存在という政府広報の宣伝も影響しているのかもね。


「島にお金を落としてくれませんし」


 インストラクターが苦笑する。


「そうでもないですよ。派手に散財してくれる訳ではないでしょうけど」


「え?」


「冒険者事務所の職員も統合自衛軍の兵士ですからね」


 彼らは常駐しているので休みの日などは島内で過ごすこともあるはずだ。

 日帰りで島から出るとなると大変だからね。


「ええっ!?」


 目を丸くさせて驚くインストラクターだ。

 冒険者にあまり接する機会のない一般人だと認識はそういうものなんだな。


「だって軍服を着ていませんよ」


「そんなの着ていたら物々しいじゃないですか。冒険者を威圧しても何のメリットもないですし」


 俺がそう言うとインストラクターは悔恨の思いにとらわれたかのように表情を曇らせた。


「何かあったんですか?」


「いえ、……大迫たちが調子に乗って迷惑をかけているんですよね」


「あー」


 角刈り男たちが受付の職員さんをナンパするか横柄な態度で困らせているのだろう。


「アイツらのせいで冒険者事務所が閉鎖されたりしたらと思うとシャレにならないですよ」


 ダンジョンを管理する者がいなくなれば、どうなるかは一般人でもよく知っているみたいだな。


「御心配なく。それはないですよ。目に余るようなら被害届が出されたりはするでしょうけど」


 いくら角刈り男の親戚が警察官であろうと、もみ消しができない相手だ。

 仮に揉み消したとしても何も進展がなければ問い合わせされるはず。

 その際に届けが出されていないことになっていたら確実に騒ぎになるのが目に見えている。

 そして誰が揉み消したのか調査されてジ・エンド。

 その後がどうなるかなど、わざわざ想像するまでもないだろう。


 どう転ぶにせよ自衛軍から被害届が出た時点で角刈り男たちは詰みだ。


「もしかすると今は証拠を集めている段階かもしれませんよ」


「だと、いいんですけど」


「大丈夫です。一介の冒険者などよりダンジョンの方が優先されますからね」


 そう言ってみたもののインストラクターは簡単には不安を拭い去れないようだ。

 角刈り男たちが逮捕されれば、さすがに心配の種も潰えるとは思うけどね。

 それがいつになるかまでは読めないけれど。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 トレッキングはやりがいがあった。

 離島の山だからと侮ることはできない。

 サンダル履きで行ったりすれば確実に後悔するだろうね。

 もちろん俺たちはちゃんとした靴を履いていたよ。


 色んな景色を楽しめたのが良かったかな。

 空気も澄んでいて清々しいとは正にこのことである。

 人がいないので貸し切り気分も味わえたし。

 天変地異の前は観光客も今よりずっと多かったそうだけど。

 ダンジョンがある上に冒険者が少ないということで敬遠されるらしい。

 そう考えると地元経済は大丈夫なのかと心配にもなったが補助金が出るので破綻はしないようだ。


 帰りは登山道近くの牧場で休憩した。

 飼われているのは乳牛ではなくて肉牛ということで白黒まだら模様の牛がいなかったのがちょっと新鮮だったね。

 乳牛がいないのにソフトクリームの販売をしていたのは意外だったけど。


 なんだかんだとのんびり過ごしたので宿に帰ってきたのは、とっぷりと日が暮れてからだった。

 あえてそうしたんだけどね。


(やっぱり来てるなぁ)


 声を潜ませているのは独り言だからではない。

 待ち伏せしている角刈り男たちに感付かれないためだ。

 この程度のことで、いちいち魔法を使うのも馬鹿馬鹿しいし。


(あの様子だとケンカを吹っ掛けてくるというよりは襲撃しようとしているようにしか見えないな)


 英花の言う通り革鎧を着込んで剣を持っている時点で誰の目にもそれは明らかだ。

 今回も揉み消せると思っているのか、やることが大胆極まりない。


(どうしよっかー?)


 相手の視線を感じないせいで真利の人見知りモードは発動していない。

 半ば臨戦態勢に入りかけているからかもしれないけど。


(コイツらがゴブリンだったら殲滅するんだがなぁ)


 人間相手にそれは無理だ。

 犯罪者にはなりたくないもんな。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ