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28 状況説明

 上がり框のところまで来たダボダボのスエット姿の真利は俺を見下ろし涙ぐんだ。


「本物の涼ちゃんだー」


 そこから先も何か言っていたが号泣し始めたために涙声で意味不明であった。

 こうなると泣き止むまでは何をしてもダメなので待つしかない。

 時折聞こえる単語から推測できるのは長い間連絡を寄越さなかった裏切り者というところか。

 俺にも異世界召喚されていたという事情があるとはいえ、コイツはボッチ気質だから4年も音沙汰なしなのは耐えられないだろう。

 故に言いたいだけ言わせることにする。


 待つことしばし。

 それなりに待った気もするが、ずっと泣かれたままだと意外に時間は感じないものだ。

 斜め後ろに立つ英花も黙って待っていてくれたのはありがたい。

 下手に話しかけると泣く時間が増えるだけだからな。


「久しぶり」


「どこ行ってたのよぉ」


 泣き止んだとはいえ真利はまだ愚図っていたが聞き取るには困らない程度なので話を進めることにする。


「ずっと日本にいなかったんだ」


 驚愕に目を見開く真利。

 思いもよらない反応に俺の方が驚かされる思いだ。

 真利は俺の家庭事情を知っているだけあって海外にいる両親に結びつけて考えていないのは想像がつくのだけど。

 何がどうして絶句しているのか、ちょっと想像がつかない。


「訳ありで帰るに帰れなくてな。つい最近になって帰ってきたばかりだ」


 つい最近というのが数ヶ月前というあたり微妙な気もするけれど。


「……よく生き残れたね」


「っ!?」


 一瞬、俺が異世界で勇者として戦っていたことを言っているのかと思ってしまった。

 しかしながら、そんなことはあり得ない。


「オジさんやオバさんは死んだのに」


「どういうことだ!?」


 俺の方が驚かされてばかりだ。

 真利の言うオジさんオバさんが俺の両親であるのは間違いない。

 大昔に会ったことが一度くらいはあったはずだが訃報が知らされるほど親しい間柄ではなかったはず。


「知らないの? 4年前に色んな国が消えたじゃない。日本もダンジョンができて大変だったし」


 異世界の呪いの影響であるのは確実だが、そこまで酷いことになっているとはな。


「それを説明しようと思うと長い上に信じられない話になる」


「じゃ、じゃあ、上がって」


「そうさせてもらうが、先に紹介しておく」


 そう言うと初めて気付いたようにハッとした表情を見せる真利。

 おまけにおどおどし始めて逃避したいと言わんばかりに猫背になった。


「だ、誰っ?」


 大人になっても子供の頃となんら変わらない人見知りぶりである。


「俺が日本に帰ってこられたのは彼女のおかげで今は相棒の──」


「真尾英花だ。よろしく頼む」


「えっ」


 真利が固まってしまった。

 見た目と名前のギャップに加え流暢な日本語に意表を突かれて思考停止したみたいだな。


「生まれも育ちも日本だとよ」


 ただし、こことは異なる世界の日本であり、すでに消滅してしまってはいるが。


「はっ」


 ワンテンポ遅れて俺の言葉を理解したらしい真利が我に返った。


「あ、あのっ、明楽真利です」


 ブンブンと大きくお辞儀を繰り返す真利。

 ボサボサの長髪が激しく揺れ動く様は歌舞伎における連獅子の毛振りを思い出させてくれる。


「いつから髪を切ってないんだ?」


「松葉さんがいなくなってから」


 松葉さんというのは、このあたりで唯一の美容院を営んでいたオバちゃんだ。


「引っ越したのか?」


「うん。すぐ近くにダンジョンができたから。この近所の人たちは皆いなくなっちゃった」


 どうやら俺たちが思っている以上にダンジョンは恐れられているらしい。

 真利が残っているのは頼れる身内が何処にもいないからだろう。


「そのあたりも中で聞かせてもらおうか」


「う、うん。わかった」


 そうして案内されたのは真利の自室であった。

 英花がいるからてっきり玄関脇の応接間に通されると思っていたのだけど、俺がいるからいつものクセが出てしまったらしい。

 人見知りする割に隙だらけというか、うっかりしてるよな。


 ただ、4年ぶりに見た真利の部屋は以前よりも混沌としていた。

 前もオタクの趣味部屋って感じだったんだけど、今はサイバーな雰囲気漂う部屋に様変わりしている。

 よく見ればゲームもマンガもラノベも昔通りにあるんだけどね。


「なんで、こんなにモニターだらけなんだ?」


「そっちの壁面のはネットトレード用だよ」


「よくわからんが大変そうだな」


「全然。今は自作AIに全部任せてるからモニターはただの確認用になってるし」


 真利はしれっと言ったが、とんでもないことを言わなかったか?

 昔から非凡なところがあると感じてはいたよ。

 まさかAIを自作して証券投資をさせているとまでは思っていなかったさ。


「この3面は作業用で、こっちとあっちとそっちがゲーム用、それがテレビと動画を見るモニターだよ」


 ゲーム用に3台もあるがゲーム機ごとにモニターを用意したんだな。

 その代わりすごく小さいけど誰かと遊ぶ訳じゃないからと割り切ったのだろう。

 どうしてそこまでという言葉は飲み込んだ。

 絶句している英花をさらに唖然とさせかねないからね。

 真利はこういう女だからツッコミを入れても必要だからとしか答えないのは明らかだし。


「とりあえず4年前の話からしていこうか」


 そんな訳でさっさと話を切り替える。

 何があったのか脚色することなく淡々と話した。

 召喚されたときから魔王討伐に至るまで。

 もちろん魔王の正体が元勇者である英花だということも。

 後は魔力だけでなく経験値を代償にして世界間転移の魔法で帰還したこと。

 そして、今日に至るまでの出来事のうち主要な出来事のすべて。


 真利は話が終わるまで黙って聞いていた。

 特に疑う様子もないのは俺が話をしたからだろう。

 同じ内容でも英花が説明していたなら、すんなりと受け入れたとは思えない。


「大変だったんだね」


 あっさり俺の話を信じた真利を見て英花が目を丸くさせた。


「こんな荒唐無稽な話を無条件に信じるのか!?」


 どうにも驚きを隠せないようだ。

 俺も真利との付き合いがなければ同じ反応をしたと思うけどね。


「信じるよ。涼ちゃんはウソつかないもん」


 ドヤ顔で答える真利。


「それにこっちもダンジョンとかできたりしたし」


「あー、それがあったな」


 双方が納得できたことを確認できれば、今度は俺たちがこちらで何があったのか聞く番である。

 真利に話を促し聞いていく。

 俺の両親が亡くなったのは赴任していた国が消滅に等しい状態で滅んだからだという。

 天変地異と言うべき事象が発生し滅亡した国は他にも多数あるそうだ。

 ユーラシア大陸の東半分と南米およびアフリカは壊滅だってさ。

 被害が比較的少なかった国々も大きな被害が出た上に突如ダンジョンが出現。

 危険な場所であるために近隣から人が離れていくというニュースは珍しくもないそうだ。


「ある程度は魔物を間引かないとダンジョンが異常活性する恐れがあるから放置もできないんだがなぁ」


「放置するとどうなるの?」


「暴走状態になった魔物がダンジョンから大量にあふれ出す」


「スタンピードってそんな風に起きるんだね」


「発生した所があるのか」


「うん。それで消えた国もあるよ」


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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