277 隠れるダンジョンコア
『お待たせしましたニャン!』
ちょっと心配になってきたところでミケが戻ってきた。
「遅い! 何処で道草を食っていた。ここはお前が手間取るほど広いダンジョンではなかろう」
真っ先に英花の雷が落ちた。
『申し訳ありませんニャー』
平伏してしまうミケ。
「まあまあ、そう目くじらを立てるなって。ミケが仕事をさぼるような奴じゃないことくらい英花もわかっているだろう」
「むぅ……」
俺がフォローを入れると英花も小さくうなってピリピリした空気の発散を止めた。
「確かにそうだな。とにかく報告だ」
「ハイですニャ!」
霊体モードのままで敬礼するミケだが、ジロリとにらむ英花の視線に一瞬で縮み上がった。
『隠し階段は、このすぐ先ですニャー。それで4層を見てきましたニャ』
「魔物の構成は3層と変わらないのか?」
俺が問うとミケは頭を振った。
「4層はゴブリンがいなくなって、かわりにゴブリンシャーマンがいますニャ。ホブゴブリンとの組み合わせは初心者には脅威ですニャー」
俺たちにはあまり関係ない話だが、ミケの口ぶりからするとホブゴブリンの数が多くてゴブリンシャーマンは少なめなんだろう。
低威力とはいえ魔法を使ってくる相手は面倒だ。
「よりによってゴブリンシャーマンか。鬱陶しいのが出るものだな。そのくせドロップは質の良くない杖だからな」
英花が忌々しそうに愚痴っていた。
無理もない。
ゴブリンシャーマンが使う杖など人間にとっては薪も同然と言って良いほど使えない代物である。
魔法を行使するときに使っても制御力が気のせいレベルで向上する程度だからね。
要するにあってもなくても変わらないってことだ。
そのくせゴブリンシャーマンから杖を取り上げると魔法が使えなくなるのだから不思議なものである。
「4層を見つけた証拠にはなるか」
「報告するのか?」
怪訝そうに聞いてくる英花。
「俺たちが特級冒険者だと知られている以上は相応の成果を見せないとダメだろう?」
「む、それもそうか」
『それなんですがニャー……』
なにやら言いづらそうに報告しようとしてくるミケである。
「どうした? 他にも魔物がいるのか?」
『4層の報告をするということは必然的に5層も報告する必要が出てきますニャン』
「なにっ、5層もあるのか!?」
英花は驚きの声を上げているが、俺としては逆に納得がいった。
「5層も見てきたから遅くなったんだな」
『そうですニャー』
「だが、5層の報告が必須というのはどういうことだ?」
疑問を口にする英花だが俺も同感だ。
報告は4層だけにしておく手もあるだろう。
『4層と5層は普通の階段でつながっているからですニャ』
「なっ!? 隠し階段じゃないのか」
英花は唖然としているが無理もない。
俺もこんなパターンは久々だったからだ。
こちらの世界に帰ってきてからだと初めてだし。
「それで5層は厄介な魔物がいるのか?」
『ホブゴブリンのかわりにゴブリンナイトが出てくる感じですニャ』
「それはまた面倒な……」
ゲンナリした表情を隠そうともせず英花はグッタリと脱力した。
気持ちはわかるぞ。
ホブゴブリンより強いくせにドロップアイテムはガラクタ同然の鎧か武器だからな。
「ねえ、涼ちゃん。ゴブリンナイトってそんなに面倒な相手なのー?」
英花の辟易した様子が気になったらしく真利が心配そうに聞いてきた。
「レベルが2桁に達してれば雑魚だよ。冒険者になりたての初心者だと固くて攻撃力の高い厄介な相手だけどな」
ナイトなんて強そうに思えるかもしれないけど所詮はゴブリンキングより弱い中途半端な魔物である。
「そのくせドロップするのは品質の悪い装備品だから売っても二束三文なんだよな」
こっちの世界の相場は確認してないけど、鎧も武器も使い古したバッチイ感じの代物だから鉄くずとしての価値しかないと思われる。
「それってわざわざ足を運ぶ価値はないんじゃないー?」
「言われてみれば、そうだよな。じゃあ、ここらで切り上げて帰るか」
『お待ちくださいニャー!』
あたふたして身もだえしながら必死な様子で止めてくるミケ。
「何だ、どうした?」
『5層にはボス部屋がありますニャ! 攻略してしまえばダンジョンの改変も思いのままですニャー』
そういうことか。
守護者に手間取らなければ今日中にクリアするのも可能だ。
「で、そう言うからにはボスの姿は確認してきたんだよな?」
『もちろんですニャン。ゴブリンキングでしたニャー』
予想通りのボスでしたよ?
「そういうことならクリアしてしまうか」
という訳でミケの案内により5層のボス部屋を目指す俺たち。
4層のホブゴブリンとゴブリンシャーマンの連係攻撃も魔法を相殺してやれば意味をなさず瞬殺状態。
5層に下りてからもホブゴブリンがゴブリンナイトに変わっただけで結果は大して変わらなかった。
そして、ボス部屋の前にたどり着く。
ドアのないタイプの部屋なので中を覗くことができるけど、守護者が1体だけで待ち構えるオーソドックスなダンジョンだった。
さすがにダンジョンコアは目につく所にはなかったけどね。
そこはゴブリンキングを始末してから考えればいいだけのことだ。
この程度の守護者相手に手こずることはないので、さっさとボス部屋に入る。
ゴブリンキングが俺たちに反応して戦闘モードに入ったところで3人で鉄球を投げた。
タイミングとコントロールが上手い具合に噛み合い、ちょうど眉間のあたりで鉄球がかち合う結果に。
そして鉄球は散弾のように弾けてゴブリンキングの頭部は上半分が無くなった状態となった。
当然、生きていられるはずもない。
じきにゴブリンキングは魔石と素材を残して消えていった。
王の割にはドロップアイテムが皮なんだけどね。
下っ端よりは品質がマシなんだけど高級品という訳じゃないし、所詮はゴブリンの親玉である。
そんなことよりダンジョンコアの方が大事だ。
ただ、ボス部屋を見渡しても無いのはわかっている。
「普通に考えれば、ダンジョンコアはこの下だよなぁ」
「そのはずだが気配が薄くてわかりづらいな」
英花が苦々しい表情で愚痴った。
ダンジョンコアの捜索に時間がかかれば守護者がリポップしてしまうからね。
強力な魔物を配置しなくても生き残る術はある訳だ。
守護者が弱いなりに自己防衛のしようがあるのは敵ながら見事と言う他ない。
「隠蔽や隠密行動などにリソースを割いているんだと思う」
「忌々しい真似をしてくれるじゃないか」
「それだけ向こうも必死なんだろ」
「だとしても姑息がすぎるではないか」
食い下がるように言ってくる英花。
思った以上に苛立っているみたいだな。
「こういうタイプの方が真っ向勝負をしてくる脳筋より厄介なことが多い。気をつけないと足をすくわれかねないぞ」
俺がそう言うと英花はますます機嫌を悪くしていく。
そんなことはわかっていると顔に書いていた。
「大丈夫だ。普通ならリポップの前に発見できないくらい厄介な相手でも、俺たちに通用するものじゃない」
「なにっ!?」
「うちには頼れる斥候がいるだろう」
隠された通路や階段を見つけるプロ中のプロがね。
「ミケかっ!」
「その通り。もう見つけてるんだよな」
『もちろんですニャ』
前足で上を指すミケ。
『天井の一部に擬態していますニャー』
居場所さえわかってしまえばこちらのもの。
後は掌握して情報を上書きしてしまえば終わりである。
読んでくれてありがとう。
ブックマークと評価よろしくお願いします。




