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273 水中戦装備が必要です

 6層を見に来たが、もちろんミケの報告通りであったのは言うまでもない。

 ただ、それでも実際に見に来たのは間違いではないとも思った。


 階段を抜けると白い砂浜が真っ先に目に飛び込んでくる。

 そして青い海。

 残念ながら空はない。

 天井は洞窟型のダンジョンらしいゴツゴツした岩肌だ。

 ハッキリ言って違和感しかない。


 だからこそ、ここがダンジョンの中だと実感できたのだけど。

 もしも青空が広がっていたならダンジョンの外と錯覚したかもしれないほどに海だけはリアルに感じられた。

 視覚情報だけでなく潮の香りがしていたからというのもあるのだろう。


「なんだか奇妙な光景だねー」


 感慨深げに海を見る真利は自分の中にある常識をなかなか上書きできないようだ。


「仕方あるまい。ここはダンジョンの中なんだ。チグハグな環境に思えてもダンジョンの中ではこれが普通だということだ」


 ダンジョンの中という言葉を強調して語る英花。

 真利の認識が甘いと感じているのだろう。

 一歩間違えば致命的な事態を巻き起こしかねないことを異世界で味わってきたからこその言葉だ。


「魔物の気配は感じないな」


 あえて話を切り替える。

 英花の言葉だけで充分に伝わると思ったからだ。


「階段の近くだからだろうな」


「どうするのー? 海に入って確認する?」


「やめておこう。装備が不充分だ」


「そうだな。レベルの高さで対応できると高をくくると痛い目を見るかもしれん」


「それもあるけど濡れた状態で帰ると何事かと思われるぞ」


 乾かせばいいと言われそうだけど、それはそれで磯臭さを放つことになりかねないんだよね。

 1層2層に海水の湧き出した場所なんて存在しないのは地図が完成していることからバレバレだ。

 そうなれば嫌でも3層以下のことを報告しなければならなくなってしまう。

 そのことを説明すると真利も納得した。


「そっちの方が良くないよねー」


「そういうことだから今日のところは引き上げだ。海に入るのは対応した装備を用意してからだな」


「そんなの売ってたっけ?」


「んな訳ないだろ。作るに決まってるさ」


 一から作り上げるのではなく、すでにあるものを魔道具化するので厳密に言えば改造と言うべきなんだろうけどね。

 改造の結果が別物になってしまうから作るでもいいような気はするけれど。

 なんにせよベースとなる素材の買い出しから始める必要がある。

 魔改造も含めると何日かかかりそうだな。

 一気に仕上げるよりも5層の探索をしながら合間を見る感じで進めていくのがいいかもしれない。


「大変だよー?」


「そうでもないと思うけどな」


「だって人数分を用意するんでしょ。サイズとか体型とか全然違うから時間かかるんじゃない?」


 そりゃあ男女差とか俺の方が背が低いとかあるけど、3人分くらいなら大して時間もかからないはずだ。

 なんならサイズを自動調整する機能を付与すればいい。

 それなら最初のひとつを仕上げれば後は錬成のスキルをフル活用して複製を作るだけで事足りる。

 うん。サイズ調整機能は絶対につけよう。


「試してみたい機能も付与する予定だから作業時間を正確に見積もれないけど、余程のことがない限り何日もかからないと思うぞ」


「ええっ!?」


 真利は目を大きく見開いて驚いている。

 なんか大袈裟すぎて違和感バリバリなんですけど?


「涼成、真利は勘違いしているようだぞ」


 英花の指摘は俺も疑い始めていたところだ。


「もしかして隠れ里の民たちの分も作るとか思ってないか?」


「もしかしなくても、それ以外は考えられないだろう」


 真利が返事をする前に英花が断言した。

 果たしてその通りだったんだよね。

 真利はコクリとうなずいて肯定したからさ。


「当面は俺たちだけで6層の探索をするつもりだぞ」


「どうして? 皆でやった方が効率がいいよー」


 こういう疑問を抱くあたり強くなっても経験が足りないと感じてしまうところだ。


「下の階層に行けば行くほど魔物も強くなる傾向があるだろ」


 お台場ダンジョンは3層から5層までは、ほぼ同じ魔物の分布構成だけどね。

 だからこそ次もさほど変わらないと思ってしまいやすいのだろう。

 けれども、難易度がいきなりガラッと変わることはある。

 ここでも3層でブラッドブルが出現するため2層までより危険度は確実に上がっているし。

 3層に常連を連れて来たら、どれだけの面子が生き残れるだろうか。

 少なくとも誰かしら犠牲者が出てしまうことだけは間違いないと思う。


「ましてや環境が一変している階層だぞ」


「あっ、そっか。海だから魔物もガラッと変わっちゃうんだねー」


「そういうこと。今までよりもずっと強いのが出てきてもおかしくないだろ」


「うん」


 相づちを打つ真利だが、いまひとつ反応が鈍い気がする。


「それこそジェイドやネモリーですら太刀打ちできないようなのがいるかもしれないぞ」


 そこまで言って初めて真利が血相を変えた。


「先に水中戦装備なんか用意したらアイツらは止めても来るしな」


 とにかく俺たちの役に立ちたいという気持ちが先走りしてしまうからね。

 対応できる装備がなければ自分たちで作ろうとしかねないが、それは上手くいかないと思う。

 魔物と水中で戦ったことはおろか漁をしたこともないそうだからね。

 ノウハウがないから時間がかかるのは必至だ。

 よしんば独自に水中戦装備を完成させられたとしても、それまでに粗方の調査は完了しているはず。


「犠牲が出てからでは遅いからな。我々が先に問題ないことを確認してからでないと、ここには呼べないな」


 英花も援護してくれたことによって真利も6層で効率を優先するのは危険だと納得したようだ。


「さて、そうなると次の休みはダイビングだな」


「えっ!?」


 真利が驚きの声を上げる。


「ウエットスーツを魔道具化するためのカモフラージュだな。使いもしないものを買うと怪しまれるだろ」


 俺たちは統合自衛軍にマークされているからなぁ。

 遠藤大尉に釘を刺しているので、じかに尾行されたりはしないけど行動のチェックはされているっぽい。

 店舗で何を購入したとかは把握されてると思う。

 なのに使わないものを買うのは怪しまれて当然だろう。


「そっかー」


「大人の修学旅行でダイビング体験をすると思えばいいんだよ」


「なるほど。楽しんだもの勝ちということだな」


「大丈夫かなー」


 俺の言葉に英花は不敵に笑うものの真利は不安げだ。


「ダメそうなら途中でギブアップすればいい。魔道具化させるときは陸上で活動するのとそう変わらないくらいには仕上げるからさ」


「案ずるより産むが易しだ、真利」


「うん、わかった」


 俺と英花からプッシュされたことで、どうにか重い腰を上げる気になったようだ。

 金槌って訳でもないのに昔から泳ぐのは嫌がるんだよな。

 小学校の頃などはプールの授業の後に感じる眠気や倦怠感を嫌っていたし。

 そのせいで水の抵抗を感じると重労働させられている気がしてダメになったと聞いたことがある。


 引きこもり気質だった真利らしいエピソードだ。

 最近は冒険者として頑張ってるおかげかダイビングへの拒否感もさほどではなかったけど、昔の真利だったら頑として拒否していただろうな。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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