27 幼なじみの家へ
あれから自衛軍の面々はヘンドリック少尉の主張した方針で進めることになった。
生真面目な大沢曹長もガチガチに融通が利かないタイプではなかった訳だ。
少尉が生き延びることができた際の話を聞かされたからというのもあるとは思うが。
その後、用意していた車両に乗り込み去っていった。
この時点でミケの監視は解除している。
ついて行かせると何処まで行くことになるかわからないからね。
自衛軍の基地だというのはわかるんだけど、新設されていない限り爺さんの地元にはなかったはずだ。
それに彼らのおかげで人気のない外の場所に出ることができるからな。
ありがたくダンジョンから出させてもらおう。
「ようやく帰ってきたって感じがするなぁ」
外に出るなり俺は大きく伸びをした。
「ここでか?」
怪訝そうな表情で辺りを見回す英花。
そりゃそうだ。
どう見たって山の中の開けた場所だったからな。
山と言っても小高い程度なので地元じゃ遠足でも使われることがない。
そのかわり子供たちの格好の遊び場になっていたので覚えがあったのだ。
「昔はここでよく遊んだからな」
「そういうことか」
俺の説明で納得してくれたようだ。
「これからどうするんだ?」
すぐに話を切り替えてくるのは馴染みがない故だろう。
懐かしさに浸っている場合じゃないな。
「もちろん下に降りるさ」
「夜が明けたばかりだと余所者は目立つぞ」
「そうでなくても金髪は目立つよ」
「あの少尉も金髪だったじゃないか」
「ここは都会じゃないからな。その見た目だと外国人に見られる」
「こっちの日本は思った以上に不便だな」
「それは隠形スキルでなんとでもなるだろう?」
他人から意識されづらくするスキルだからな。
気配を消したり見えなくしたりするものではないので喋ると気付かれてしまうという欠点はあるけれど。
「むう」
英花がうなった。
「使えないのか?」
「使える」
頬を膨らませているところを見ると不服を感じているようだ。
ここは英花の世界の日本ではないからしょうがない。
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(それで何処に行くつもりだ)
隠形のスキルを使っているためにヒソヒソ声で話しかけてくる英花。
町外れとはいえ住宅街に入ってきたから用心は必要だ。
周囲に人はいないんだけど、何処に人の目があるかわからないし。
(連れの家)
俺も声を潜めて応じる。
誰かに見られるようなことがあれば見えない相手と喋っている危ない人扱いされかねないからな。
(連れ?)
眉をひそめて聞いてくる英花。
信用できるのかと問いたいのだろう。
(引きこもりの変人だが口は堅い)
(どういう人物なんだ?)
(爺ちゃんの親友の孫で幼なじみだ)
(幼なじみ? 実家はこの近くじゃないと言ってなかったか?)
(ネグレクトのせいで中学卒業まではこっちに住んでたからな)
(そうだったのか)
(ちなみに高校からは実家で一人暮らしだった)
(なんでだ!?)
(親が海外赴任して留守番を任せられた)
ほとんど強引にね。
以来、連絡をまともにもらったことはない。
生活費などが定期的に振り込まれるので、それで生きていることを確認していたくらいだ。
メールなんて送ってもレスなんてまともに返されたことがあったかどうか。
大学に進学する旨を連絡した際も──
[入学金と授業料]
返信されたメールの内容がマジでこれだけだったからな。
必要な金額をメールしたら送金してくれたけどさ。
おめでとうの、おの字も無かったのは言うまでもないだろう。
もちろんお祝いに何かプレゼントを贈ってくれるということもなかった。
誕生日も祝ってもらったことがないので当然と言えばそうなんだけど。
(酷いな。管理人扱いか)
(まあ、そういうことだ。今更なにかを期待しないよ)
(実家がどうなってるかの確認はしないといけないだろう)
(そうだなぁ)
できれば放置したいところだ。
英花をともなって4年ぶりに帰るなんて何を噂されるかわかったもんじゃない。
まあ、これについては実家が近隣ごと消えてしまったので杞憂に終わるんだけど。
(けど、今は協力者をゲットして情報を集めるのが先だ)
(それで幼なじみということか。どういう人物なんだ)
後で紹介することになるけど先にある程度は知っておいた方がいいだろう。
(名前は明楽真利。年は俺と同じ22才。頭が良かったからたぶん大学を出ていると思う)
(アキラマリ?)
戸惑いの色をのぞかせる英花がしばし考え込んだかと思うと……
(男じゃないのか!?)
目を丸くさせて俺の方を見てきた。
性別は言わなかったけど何か誤解させるようなことを言っただろうか。
(真利は女だぞ。見た目はともかく中身は女子って感じじゃないけどな)
(男勝りな性格をしているということか?)
(いいや、性格は目立たないタイプだぞ。アニメとかの趣味が男子なんだよな)
(なるほど。うん、なんとなくわかった)
(友達とワイワイやるタイプじゃないから、そのあたり気をつけてくれれば助かる)
(了解した)
そんなこんなで歩き続けていると住宅がまばらになっていく。
(本当にこっちでいいのか? どんどん家が少なくなっていくぞ)
(真利の家はいちばん外れにあるからな)
そうやって見えてきた土塀に囲まれた古い家。
(ここか?)
(ああ、ここが真利の家だ)
勝手知ったる幼なじみの家なので遠慮せず重厚な木の門をくぐる。
(まるで江戸時代にタイムスリップしたみたいな家だな)
(爺ちゃんの家より古いのは確かだ)
話をしながら奥へと進む。
庭は木々が生え放題で手入れされていないのが丸分かりな状態であるが気にしない。
最後に見たときより木が少し育ったように見受けられる気もするけど、雰囲気的には昔からこんな感じだった。
玄関に辿り着くと、そのまま玄関をガラガラと開ける。
(おっ、おいっ、涼成。呼び鈴も鳴らさずいきなり開けるのか!?)
英花がアタフタして挙動不審になる。
「いいんだよ。おーいっ、真利ぃ! いるんだろぉ? 俺だ、涼成だ!」
反応がない。
「本当に大丈夫なんだろうな。家の人とかいるだろう」
「いないよ。今は真利だけだ」
「そっ、そうなのか」
なんて話している間にドドドドドッという足音が聞こえてきた。
「来た来た。奥の院から出てきたよ」
未だ姿が見えないのは玄関から入ってすぐのところで廊下が折れているからだ。
故に大きな足音が聞こえてくるほどの勢いで走れば……
「減速しないと曲がりきれんぞ」
ということになるのがオチだ。
それに普通の音量で言ったところで真利には聞こえるはずもない。
という訳で俺が言ったとおりの結果を招いてしまうことになる。
足音の音量が最大になったところで──
「来たぞ」
曲がり角のところに姿を現したものの曲がりきれず顔から壁面に衝突。
バキッ!
「今日は痛そうな突っ込み方したなぁ」
そうは言ったが特に何かする訳ではない。
何度か見た光景だし治療が必要なら後で何とかすればいいだけのことだ。
「あれ、大丈夫なのか?」
英花が心配そうな面持ちで聞いてきた。
「今日のは派手にやった方だけど死にはしないよ。そのうち復活するさ」
衝突したままピクピク痙攣していた真利が俺の言葉通りにもそもそと動き出した。
それなりに痛いらしく顔を押さえながら真利はうつむいた状態でフラフラとこちらに向かってくる。
俺たちはそれを黙って見守るのみ。
英花はなんか呆気にとられている感じではあったが。
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