268 狙われたウィンドシーカーズ
青雲入道のところで一応の成果を見せたウィンドシーカーズの3人だが、まだまだ道半ばである。
とりあえず模擬戦は卒業できたけれど。
ちなみに次回からは魔法の制御を徹底して鍛えることになったようだ。
というのも……
「何をしておるかっ!? 気力を垂れ流して術を使うなど児戯にも劣るぞ!」
「そんなこと言われたってえっ」
魔法の修行を始めるとなった際、真っ先に指名された野川が自信満々に魔法を放った結果がこれである。
肝心の魔法の評価など二の次三の次で魔力制御のなってなさをボロカスに指摘されていた。
続いて魔法を使った橘や芝浦も同様である。
本人たちからすれば自信があったはず。
少なくとも野川が魔法を使う直前までは。
魔法を切り札にしていると言っていただけあって発動はスムーズだったと思う。
初心者にしてはだけどね。
欠点は枚挙にいとまがないと言うと大袈裟だが、それなりにあった。
順番にダメ出しをしていけばウィンドシーカーズも自信を粉々に打ち砕かれていたことだろう。
発動までのタイムラグや射出スピードに始まり、使った魔力に見合わない威力など改善点はいくらでもある。
その中でも魔力操作のつたなさは青雲入道を呆れさせるほどであった。
「3人とも話にならん」
とバッサリである。
「いや、初心者同然なのは認めるけどさ」
簡単にはめげない野川がどうにか反論を試みようとしていた。
「それでも、モタつかずに魔法が使えたでしょ」
そこは誇ってもいいはずだとばかりに胸を張る野川だったが。
「愚か者めが!」
「うひぃっ」
「あんな状態で術を使えば命がいくつあっても足りぬわ!」
青雲入道に雷を落とされる憂き目にあうのであった。
命云々に関しては言い過ぎじゃないかとは思った。
だが、そうはならないと一笑に付すこともできない。
ウィンドシーカーズの3人が自分たちの魔法は切り札と言っていたから危機的状況で使うのは明白。
万全であることなど望むべくもない訳だ。
ならば、あの雑で乱暴な魔力制御による魔法の使い方では命に関わる事態に陥ってもなんら不思議ではないだろう。
少なくともウィンドシーカーズには良い薬となった。
青雲入道の雷はさすがに応えたのか、3人とも青ざめた顔でションボリしている。
「まあ、なんだ。知らずに使い続けるよりは良かったんじゃないか。これから青雲入道がみっちり仕込んでくれるさ」
あまり下手なことを言うと青雲入道の目論見に水を差すことになりかねないので、これが精一杯のフォローだ。
もちろん、この程度の言葉で復活できるものではない。
その日はどんよりした空気をまとったままウィンドシーカーズは帰って行った。
とはいえ、3人もベテラン冒険者である。
翌日以降に凹んだ気持ちを持ち越さないだけの強さは持ち合わせているようだ。
ダンジョンでのパワーレベリングに支障はきたさなかったことからも、それは明らかだろう。
レベルが上がりにくくなってきてはいるけれど。
それは彼女らのメンタルとは別の問題だ。
現に三度目の高尾山における修行では青雲入道のスパルタな指導に食らいついていっていた。
それで劇的に魔力制御がよくなるという訳でもなかったのは仕方のないところである。
ほぼ我流で魔法を習得したが故の弊害だ。
まずは悪癖を修正するところから始めないといけなかった。
修行が終わる頃にはボロボロである。
「ウィンドシーカーズの修行も簡単にはいかないものだよなぁ」
「そうか? 筋が良い方だと思うが」
ふと漏らした言葉に英花が反論してきた。
「勇者や英雄と一緒にしては可哀想だろう」
「それもそうか」
普通の人間は易々とコツをつかめたりできるものではないということを失念していた。
特に魔法では苦労してこなかったから忘れがちになる。
気をつけないとな。
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この日も順調にパワーレベリングを終えてダンジョンの入り口まで戻ってきた。
「魔法もスムーズに使えるようになってきたわよね」
野川が調子に乗っている。
「青雲さんが言っていた。私たちはまだまだだと」
すかさず釘を刺す芝浦。
「わかってるわよぉ。いーじゃん、ちょっとくらい」
歯をむき出しにしてイーッとうなる野川。
まるで子供である。
「良くないよ。桜は調子に乗ると止まらなくなるんだから」
見とがめた橘がバッサリ切り捨てた。
「うぐっ」
さすがは幼馴染みだ。
調子に乗りかけていた野川を見事に封じてみせた。
「じゃれ合いはそれくらいにするんだな。ほら、今日の戦利品だ」
話の区切りを見て取った英花が野川にドロップアイテムが入った鞄を渡す。
「へーい。行ってきまぁす」
対して疲れてもいないだろうにダルそうな雰囲気を出しながら鞄を持って受付へと向かう野川。
橘と芝浦もそれに続く。
まあ、ここ最近のルーティンだ。
「俺たちも行くか」
ウィンドシーカーズのパワーレベリングで来ているが、俺たちも魔物は狩っている。
一緒に来ているのに俺たちだけ収穫なしでは不自然だからね。
そこからパワーレベリングのことを知られたら厄介だしカモフラージュは必要だろう。
「涼ちゃん、ちょっと待って」
不意に真利が声をかけてきた。
「何だ?」
「ほら、あの人たち」
そう言ってコソコソした感じで俺に近づいて小さく指差した。
「あの人たちだって?」
真利の指差した方を見る。
「うわ、いかにもな連中だな」
何処の世紀末でヒャッハーしてる奴だよと言いたくなるような出で立ちのモヒカン野郎どもが3人。
そいつらが冒険者事務所の玄関の近くで威圧感たっぷりな態度で周囲を見渡している。
ホールにいた他の冒険者たちが、そそくさと端っこに寄っていくほど関わりたくない見た目と態度だった。
人を見かけで判断するのは良くないとは言うけれど、この連中はダメだ。
確実に何かやらかすつもりの気配を感じる。
素人くさいが殺気もバラまいているんじゃ疑う余地はないだろう。
「どうやらウィンドシーカーズが目的のようだぞ」
英花が指摘したようにモヒカンどもはウィンドシーカーズに向けてヘラヘラした態度で周囲を威嚇しながらゆっくりと近寄っていく。
ウィンドシーカーズの3人も周囲の雰囲気からすぐに異常を察知したようだ。
「げっ、モヒカンズ!」
野川が嫌そうな顔をあらわにして叫んだ。
どうやら知り合いらしい。
芝浦や橘も表情を険しくさせているところを見ると、確実に嫌われているな。
「それにしてもモヒカンズって、もうちょっと何とかならなかったのかねえ」
「いいんじゃないか。名は体を表す、だからな」
「そんなことより放っておいていいの?」
俺や英花の後ろにコソコソと隠れながら聞いてくる真利。
「今のウィンドシーカーズをどうにかできるのは大阪組くらいだろ。あのモヒカン3人組じゃ、やられ役のモブもいいとこだ」
「橘の対人恐怖症が気になるところだったが、大丈夫そうだし問題ないだろう」
英花の言うように橘も野川や芝浦の後ろに隠れることなく堂々と迎え撃とうとしている。
そう、完全にケンカ腰だった。
「よほど嫌われているんだな。涼成、アイツらがやり過ぎそうになったら止めるぞ」
そっちの心配をしないといけないか。
「了解した」
さて、どうなるやら。
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