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267 青雲入道、ダンジョンに興味を持つ

 再び高尾山に来た。

 もちろん模擬戦から始まる。


「わざわざ来なくても面倒は見るぞ」


 青雲入道からはそう言われたけど前回とは違うところを見られそうだから来ているのだ。

 来ない方がもったいない。


「今回は面白いことになりそうだからね」


「ほう? ずいぶんと自信ありげじゃないか。さぞかし驚くような結果を見せてくれるのだろうな?」


 楽しそうに青雲入道が聞いてきた。


「そこまでじゃないさ。前回は言っちゃなんだが期待外れだったろ。それが少しはマシになっていると思う」


「謙遜ではなく本気でそう思っているならニヤけ面は引っ込めた方が良いぞ」


 そんな風に忠告してくれるが、青雲入道も俺とさほど変わらない表情をしている。


「そっちこそ頬がゆるんでいるぞ」


「さて、どうだかな」


 青雲入道は空とぼけるが今の会話でウィンドシーカーズがどれほど実力アップしたのか当たりをつけたようだ。

 それで楽しげに笑えるのであれば、こちらとしても一安心。


 もちろん期待外れに終わる恐れもあるので完全に気を抜くことはできないのだが。

 後はウィンドシーカーズがヘマをしないように願うばかりである。


「涼成、始まるぞ」


 英花が声をかけてきた。

 見れば前回と同様に広い土俵の上で3対3の模擬戦が始まろうとしている。

 前回と違うのは烏天狗たちが野川用の盾を用意していたことだ。

 本人から話を聞いて、それっぽいのを用意してくれたみたいだな。


「盾まで用意させてしまったみたいで、なんかスマン」


「構わぬよ。あのどら焼きと日本酒の礼だ」


「そんなに気に入ってくれたのか。それなら近いうちにまた持ってこよう」


「おいおい、それでは返したはずの借りが我らの方に戻ってきてしまうではないか」


「別に貸しにした覚えはないんだが」


 青雲入道は頭を振る。


「そういう訳にはいかぬよ。あれは言ってみれば供え物のようなものだ」


「そんなつもりも無かったけど」


 またしても頭を振る青雲入道。


「お主らにそのつもりがなくても結果がそうなってしまったのだ」


「はあ?」


 思わず間抜けな声を上げてしまう。

 意味がわからなかったからね。


「あの土産を飲み食いした我らの活力が増したからのう。単に旨いだけの貰い物でこうはならぬよ」


 そう言われてしまうと、こちらはぐうの音も出ない。

 まあ、味の評価も貰えたので良しとしよう。


「涼ちゃん、もう始まってるよ。見なくていいの?」


 今度は真利が言ってきた。


「おっと、いかんいかん」


 ちゃんと見ておかないと、何のためにここに来たのかわからなくなってしまう。


「ほほう。さっそく結果が出ておるようだな」


 青雲入道がニヤリと笑う。


「前回はあたふたしていた空気が最後まで拭いきれんかったがのう」


 そう言われて前回の模擬戦を思い返してみる。

 最初は惨たんたるものだった。

 途中からは地に足がついていると感じはしたけど、それでも必死すぎて些細な変化も見逃すまいとピリピリしているのが丸分かりだった。

 余裕がないのは誰の目にも明らか。

 端から見ていても胃に穴が開くんじゃないかと思ったほどの緊張感を感じていた。


 ところが今回は、そういう焦りのようなものが薄まっている。

 力量の差は今も明確であるものの、それをウィンドシーカーズも感じていながら落ち着けているように見受けられた。


 前回とは明らかに違う。

 それだけでも進歩したと言える。

 身内びいきと言われそうな気もするが、青雲入道もそれなりに評価してくれているようなので依怙贔屓の類いではないと信じたい。


「ほう。合間にどうにか反撃するだけだったのが緩急をつけるようになったか」


「少しは動けるようになっただろ」


「うむ、そうだな。たった数日でここまで速くなるとは正直思わなんだ」


「ダンジョンで鍛えてきたからね」


「それは面白い。我らの修行に取り入れるのも面白そうだな」


 青雲入道は声に出して笑う。


「いいけどさ。ダンジョンは統合自衛軍が厳重に管理しているから正体がバレないように頼むぞ」


 人間に変装しただけで押し通るなんて真似をされると怖いからなぁ。

 一悶着あった末に正体がバレることにでもなったらと思うとゾッとしない。


「ふうむ。そこは窮屈であるな」


 青雲入道たちならやりようはあると思うから、釘さえ刺しておけばどうにかしてくれるはずだ。

 どのような手を使うのであれ免許は取得できないから非合法になるのは確実なんだけど。

 もしも免許の取得を目指すとするなら戸籍からどうにかする必要が出てくる。

 本籍や住所を高尾山にする訳にはいかないし、そこは仕方あるまい。


「しょうがないさ。通常のダンジョンは魔物があぶれ出すと一般人がパニックを起こしかねないし被害も出るからね」


「すたんぴぃどとか申すのであったな」


「よく知ってるな」


「高尾山に来る者たちは様々ゆえ話題には事欠かぬよ」


 退屈だから登山客の会話に耳を澄ませているんだな。

 そのことを指摘すると修行の一環とか言い訳されそうだから、ここはスルー推奨か。


「だったらフィールドダンジョンのことも聞いているんじゃないか」


「おおっ、それも耳にしたことがある。なんでも切り取られたように別の場所になった空間ということらしいな。隠れ里の出来損ないのようではないか」


「その認識でいいんじゃないか。亜空間であること以外は大してわからないんだし」


「なんと、左様であったか」


 青雲入道は軽く驚きを見せたかと思うとなにやら考え込み始めた。


「何を思いついたのかは知らんが、変なことはしない方が無難だと思うぞ。アレは呪いの産物だから変にちょっかいを出すと痛い目を見やすいからな」


「ううむ、それがあったな。ここへ魔物だけを引き寄せる手はないかと考えておったのだが」


「おいおい、物騒なことを考えるなって。ダンジョンなんて呪いにまみれた場所と聖域をつなぐような真似はダメだろう」


「うむ、安易に考えすぎておった。魔物もダンジョンの産物であるなら穢れに満ちておるはずだ。そんなものを引き込んでしまっては修行どころではないわ」


 ここまで来ると修行バカというか修行オタクだよな。


「面倒事を避けられて修行もできるかと思っておったが、穢れを引き込んで聖域を汚しては本末転倒というものよ。すっぱり諦めるのが吉よな」


「それは同意するが、魔物と戦う修行の方は諦めなくてもいいと思うぞ」


「何だとぉ!? そのような都合の良い手立てがあると申すかっ? して、どのようにっ?」


 青雲入道が前のめりになって聞いてきた。

 その勢いは両手で青雲入道を押し止めないと顔を押しつけてくるんじゃないかと思うほどだ。


「落ち着けよ」


 辟易しながら言うと、ようやく我に返って座り直した。


「すまぬ」


「いいけどな。気になるのは、よく理解できたから」


 今も目がギラギラしているからね。


「いま言ったフィールドダンジョンだよ」


「ほうほう」


「あれは自衛軍も持て余してて監視もロクにしてないからオススメだな」


「なんとなんと、左様であったか。抜け道はあるものよのう」


 からからと大口を開けて笑う青雲入道。


「だからといって人目を気にせず侵入すれば通報されるからな。自衛軍に嗅ぎ回られることになるぞ」


「ふうむ。やはり簡単ではないのう」


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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