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262 確保なるか?

「学校の規模については詳しく言えないが、マンモス校でないことだけは確かだ」


「「「へ?」」」


 ウィンドシーカーズの3人がそろってポカーン顔をさらしている。


「何処で何をどう感違いしたか知らんが、君らの想像の逆だよ」


「じゃあ、どうして我々を?」


「冒険者をやってて教員免許を持ってる人間なんて、そう多くはないだろ?」


「「「は?」」」


 3人とも意味がわからないという顔をしている。


「どちらの免許も持っていて冒険者としての実績もある人材となると尚更だ」


「もしかして冒険者を育成するための学校とか?」


 不意に何かを思いついた顔をした野川が聞いてきた。

 それなら納得できると言わんばかりだが、そうではないんだよなぁ。


「冒険者に関連するカリキュラムも組まれるだろうけど、それがメインの目的にはならない」


 野川は撃沈した。

 すぐに考え込んでしまうが、この調子ではノーヒントで正解にはたどり着けないだろう。


「では、三智子ちゃんが編入するのはどうしてなんですか?」


 今度は芝浦が質問してきた。


「事情により近くに引っ越すからだ」


「事情ですか?」


 俺はさらに問うてくる芝浦を横目に沢井の方を見た。

 それだけで言いたいことを察してくれた沢井はしかし黙って小さく頭を振る。

 虐待については話をしていないようだ。


「それについては詳しくは言えない。採用が確定すれば話は別だが」


「もしかして入院していることと何か関係が?」


 芝浦が聞いてくるが、それにも答える訳にはいかない。

 そんなのに答えていたら情報をつなぎ合わせて答えにたどり着きかねないからね。


「そうやって情報の絞り込みができる質問にも答えられない」


 残念そうな表情は見せたものの芝浦は食い下がってこなかった。


「とにかく三智子ちゃんは例外だ。全国から生徒を集めるようなことはしない」


 ウィンドシーカーズに誤解されたのは三智子ちゃんが、うちの新設校に編入するからだろう。

 その一点だけで類推して色々な地域から生徒を集めていると勘違いされたんだと思う。


「じゃあ、編入試験が実施されたりはしていないのですか?」


「そういうのはしてないね。今後もすることはない」


 この返事で芝浦も納得したようだ。

 ただし、謎が深まったようで困惑顔になってはいたけれど。


「事情については採用すれば開示されると思う」


「守秘義務が発生すると?」


 それを聞いてきたのは野川だ。


「現時点でも発生してるんだけど」


 そう答えると野川だけでなく橘や芝浦も表情を引き締めていた。

 教師としての経験は無くとも自覚と責任感はあるらしい。

 そうと知れたのは大きな収穫だ。

 弟子入りを志願した理由からも無責任な人間ではないとは思っていたが、教師という立場でもそうであることがわかったからね。


 少なくとも教師という職業を忌避していないのは間違いあるまい。

 採用に向けて肯定的な判断材料になったと言える。


「私たち教師として就職できなかったから学生時代からの延長で冒険者をしているようなものなんですが」


 橘が不意にそんなことを言ってきた。

 その表情は不安に彩られている。

 採用される可能性について無意識に探りを入れているのだろう。


「採用試験はあると思うけど俺たちは専門家じゃないからその点についてはノータッチだ」


 橘がますます不安そうになっていく。

 この返答は失敗だったかな。

 知りたいことには答えられたとは思うのだけど、それが逆に不安を募らせてしまったみたいだ。


「生徒に教えるための学力が維持されていないと困るからな。そこがクリアされれば経験などは重視されないはずだ」


 それを言ったのは英花だった。

 フォローしてくれたことに目で礼を言っておく。

 気にするなと柔らかい視線が返ってきた。


「学校を卒業して2年ほどになるんですが、その間は塾に勤めたりもしていません」


 その発言は芝浦だった。

 ハッキリとは言わないが本当に経験が重視されないのかを確認したいのだろう。


「人材が不足しているから問題視されないと思う」


 絶対ではないだろうだけどね。

 そもそもこういう事情も話すべきではないと思うのだけど、それだけ人が足りていないということだ。

 不安を抱かれたままだとメンタルが試験に影響するようなこともあり得るだろうし。

 そうならないよう少しでも不安は払拭してほしいところである。

 まあ、これでダメならしょうがない。


「そういう不安をここで語られてもな。それとも今ここで辞退するか?」


 英花が挑発的なことを言うが、これはあえてだろう。

 本人は背中を押しているつもりだと思う。

 果たして本人たちに、その意図が通じているかどうかは不明だが。


「どうすれば試験を受けることができるんですか?」


 橘が聞いてきた。

 人見知りする割にここぞというところで負けん気が湧いてくるみたいだ。


「希望するなら後で連絡が入るようにする」


「お願いします!」


 即決で橘は頭を下げた。

 ウィンドシーカーズの仲間たちと相談か確認をしてから決めるのかと思いきや、これだ。


 ちょっと先走っているのか?

 野川がやれやれといった面持ちで芝浦の方を見ているし。

 芝浦も肩をすくめている。


「それでお願いします」


 芝浦が頭を下げ野川もそれに続いた。

 こうしてウィンドシーカーズは教員採用試験を受けることとなった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



『教員免許を持つ冒険者なんて、よく見つけてきましたね』


 電話の向こうで大川曹長が驚いているのがわかる。


「そんなに驚くようなことですか?」


『教員が冒険者として活動し命を落とすようなことになったら人員補充で苦労することになるでしょう』


「そうですね」


『そのため文部科学省は冒険者免許の取得を推奨しないとしています』


「そうだったんですね」


『その上、各都道府県の教育委員会では禁止しているところが多いようです』


「それは手厳しい」


 ということは、学生のうちに冒険者免許を取得したウィンドシーカーズはそれで採用試験に落ちたということも考えられるのか。


「それはわかりましたが、彼女らを見つけたのは三智子ちゃんですよ」


『あの行方不明で発見された小学生ですか? 入院中の?』


「ええ、そうですよ」


『一体どうやって……』


 大川曹長の困惑が伝わってくる。

 入院中の小学生がどうやって見ず知らずだった教員を捜し出すことができたのかと思っているのだろう。


「単なる偶然ですよ。ウィンドシーカーズも同じ病院に入院したことで知り合ったみたいですから」


 出会いがどんなものだったかは軽く触れる程度に聞いている。

 沢井と一緒に病院の屋上庭園にいたところ話しかけられたそうだ。

 よくそれで三智子ちゃんが拒絶しなかったとは思うが、そのことを考えるとウィンドシーカーズは教師に向いているのではないだろうか。


『そうですか。なんにせよ筆記も面接も実技も文句なしです』


「実技、ですか?」


 筆記と面接はわかるが実技ってどういうことだ?

 ロールプレイで授業でもやったということだろうか。


『冒険者としての実力を見せてもらいました』


 そういうことか。

 お台場ダンジョンで普通に活動できるチームだから当然だろう。

 舎人公園ダンジョンではヘマをしたようだけど、それでも命拾いしている。

 大川曹長が文句なしというのもうなずける。


 なんにせよ教員を確保することができそうで何よりだ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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