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258 入院したんだって

「ねえ、涼ちゃん。あの人たち無茶してるみたいだよー」


 ホテルの部屋でスマホの画面を見ていた真利が声をかけてきた。


「あの人たちって誰だよ?」


「名前は何だったかな? ほら、弟子入り志願のー……」


 うーんとうなりながら考え込むが簡単には思い出せないようだ。


「ウィンドシーカーズの3人だろう?」


 そう問い返したのは英花だった。


「うん、そうそう。その人たちだよー」


「対人恐怖症のリーダーがいるチームだな。個人の名前は思い出せないが」


「しょうがないよー。一度しか会ってない相手だもん」


「そんなことでよく彼女らの動静がわかったな」


 英花が冷静にツッコミを入れた。


「チーム名だけは覚えてたからねー。ちょっと格好いいじゃない?」


「そうか?」


 真利はネーミングセンスがいいと思ったようで英花に同意を求めるがピンときていないようだ。


「そんなことより、どんな無茶をしたんだ?」


「あっ、うん。大川曹長からメッセージもらったんだけど3人とも入院してるってー」


 話がそれていたことに痺れを切らして俺が問うと真利はそう返事をした。


「命に関わるような怪我でもしたのか?」


「それは大丈夫みたいだけどー。舎人公園ダンジョンの3層にずっと通っていたらしいのよ」


 ソードマンティスをメインターゲットに狩っていたのか。

 あれはワーウルフと同格だと目したこともあったが、攻撃力だけで見れば格上とも見て取れる。

 剣腕の切れ味とリーチはワーウルフの比ではない。

 その上、それを使いこなす技術もある。


 侮ると痛い目を見るだけではすまない相手なのだが。

 そのソードマンティスと戦って入院で済んでいるのは幸運な方だろう。

 もっとも部位欠損をやられた場合はその限りではないが。

 冒険者を引退しなければならない怪我を負ってしまえば収入が得られなくなってしまうのだし。


「で、怪我の具合は?」


「全治3ヶ月らしいよ」


「骨折だったのか」


「スゴい。よくわかったねー」


「骨折で完治するのがそれくらいだからな。部位欠損でどれくらいかかるかは知らんから当てずっぽうだよ」


「骨折だとソードマンティスやワーウルフではないな。守護者に挑んだか」


 英花がそう推理した。

 あそこは密かに攻略済みだが、ソードマンティスがいることもあって弱い守護者に置き換えれば怪しまれると判断したので変更はしていない。


「あそこは確かブルボアだったな」


 マッドボアの親玉とも言うべき魔物だ。

 牛よりも一回り大きいサイズのままイノシシを大型化させた姿をしている。

 そのブルボアに部位欠損するような攻撃を受けたなら、まず即死はまぬがれないだろう。

 骨折で済んでいるなら致命的な一撃はもらっていないということだ。

 勝ったかどうかまでは不明だが。


「それ以前に、どうしてこっちに彼女らの情報が流れてくるんだ?」


 俺が疑問を口にすると一瞬だが英花が目を丸くさせた。


「確かにそうだ。まともに話したのは一度きりだったな」


「あのねー、なにわ堂の人たちと何度か組んでたんだって。それでこちらにもつながりがあるかもしれないから念のためってことで情報を送ってくれたみたい」


「なにわ堂……、大阪組か。このところ姿を見ないから帰ったと思っていたが違ったのか」


 英花がスマホを取り出して操作し始めた。

 大阪組と連絡を取るのだろう。


「舎人公園ダンジョンでずっと潜ってたみたいだよー。ソードマンティスを狩りつくす勢いで剣腕を納品してたって」


「ということは大阪組も怪我をしたのか?」


「それは違うみたい。なにわ堂が休みの日にウィンドシーカーズが単独で潜ってボロボロになって帰還したんだってー。その場で救急車が呼ばれたらしいよ」


「よく生きて帰れたな」


「引き際は見誤らなかったんじゃないかなー」


「それなら最初から調子に乗らなきゃ良かったと思うんだが」


「調子に乗ってたのかなー」


 真利はウィンドシーカーズの3人がそんな軽率な行動をするとは思っていないようだ。


「ブラッドブルに敵わないと悟って弟子入り志願するくらいだから自分たちの実力はちゃんとわかってると思うんだけどー」


「魔が差したということもあり得るだろう。ソードマンティスと戦ううちに強くなったと思い込んでしまったとかな」


 ソードマンティスを安定して狩れるようになったとかすれば、無いとは言えない話だ。

 フレイムマンとして活動していた頃の堂島氏がやらかしたようにね。

 もちろん、そうではない可能性もある。


「そのあたりは本人たちに聞いてみたらどうかなー」


「は? 意味がわからないんだけど」


 薄い顔見知り程度の相手に話を聞きに行くはずがないだろうに。


「えーっとね、大川曹長が見舞いに来ないかって」


 真利も乗り気ではないようで困惑した表情を見せながら言った。

 まあ、親しくない相手に会いに行くなど人見知りの真利にはハードルが高い要求だ。


「何を言ってるんだ、あの人は」


「遠藤大尉が面会に行くから一緒にどうかだって」


 つまり、大尉の差し金ってことか。


「また面倒なことを考えてそうだな。あのお気楽大尉は」


「だよねー。放っておいてよって言いたくなっちゃうよ」


 同感ではあるが、真利は本人を前にすると何も言えなくなるだろう。

 人見知りってだけじゃなくて遠藤大尉みたいな陽キャタイプは苦手にしているし。


「だったら親しくもない相手だからと断っておけばいい」


「うん、わかったー」


 さっそくメッセージを送る真利。

 こういう時は行動が早いな。


「涼成」


 しばらくスマホに向き合っていた英花が声をかけてきた。


「どうした?」


「どうやらあの3人が入院する原因の一端は大阪組にあるようだぞ」


「何だって!?」


 英花がスマホの画面を見せてきた。

 そこに表示されていたのは大阪組の高山とのやり取りだった。


 そのメッセージを読み込むことしばし……


「おいおい、勘弁してくれよ」


 高山の報告を要約すると次の通りだ。

 まず見学の申し出を受けてこれを大阪組が了承。

 同行すると筋が良かったので合同でのカマキリ狩りを提案し何度か一緒にダンジョンに潜った。

 チーム間の連携も上手くいったが力量差も感じたので褒めながらアドバイス。

 これを受けてウィンドシーカーズが奮起し無茶をした。


「大阪組も悪気があった訳じゃないんだ。仕方ないだろう」


 英花は怒っていなかった。

 むしろ大阪組に同情的である。

 俺もそれを否定するつもりはない。


 元教師の大阪組から褒めて伸ばすことが身に染みついているが、これはもう一種の職業病だと聞いたことがある。

 そのノリで接したためにウィンドシーカーズが勇み足になってしまった。

 悪意を持って誘導したならともかく、これで大阪組が全面的に悪いとは言えないと思う。

 ウィンドシーカーズの証言も聞いた上でどちらにより責任があるかといった話になるだろう。


「だからこそ俺たちも見舞いに行かざるを得ないよな」


 大阪組が身内でなければ、どうでも良かったのだけど。


「そこは大阪組が詫びに行けば充分だと思うが」


 そんな風に言っておきながら英花も気にしているようだ。


「大阪組の言葉で無茶したというのが引っ掛かるんだよ。後味が悪いっていうかさ」


「それだな。見舞いに行けば多少はモヤモヤも薄れるか」


「たぶん」


 という訳で遠藤大尉たちとは日程をずらしてウィンドシーカーズの見舞いに行くことになった。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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