257 ウィンドシーカーズ、見学する
呆気ないほど簡単に見学を了承されたウィンドシーカーズの3人。
翌日から、なにわ堂と合同で舎人公園ダンジョンに潜ることとなった。
3層に下りるまで両チームで交わされた会話は挨拶と必要事項のみ。
なにわ堂はとにかく喋り倒してはいるのだけど、ノリについていけないウィンドシーカーズは聞き手に回るしかできない。
どうしてこんなにもダンジョンと関係のない話ができるのかと3人は、ある意味で感心していた。
昨日見たテレビの番組についてとか、資産運用についてとか、次の休みに何処に行くかというのも話題になっている。
橘はよく話題が尽きないなぁと感心。
野川は命をかける場所に来ている自覚はあるのかと呆れ。
芝浦は女子学生の昼休みのようだと数年前の自分たちのことを思い返していた。
それぞれの思うところは異なるものであったが、気がつけば3層にたどり着いていたことに思わず顔を見合わせる。
隙だらけだとか、そういうことはなかった。
常時、誰かが喋っていたものの警戒する面子は会話には加わらず、加わったと思ったら自然と別の誰かが警戒していたからだ。
故に3層に到達するまでに遭遇した魔物に不意を突かれることはなかった。
当然のように狩られていく魔物たち。
2層のサーベルウルフを除く魔物はどれも雑魚であったためか、どれも一刀両断の勢いで瞬殺。
サーベルウルフも初手で致命傷を負わせてすぐに方を付けていた。
最初はダンジョンを舐めているのかと思ったが、そうではなかった。
必要以上に緊張せずベストのパフォーマンスを発揮している。
これが彼らの平常運転なのだとウィンドシーカーズの3人は思い知らされた。
ソードマンティスと戦う前から、すでに学ぶことがあったことに驚きを禁じ得ない。
戦闘技術でも明らかに自分たちより上だと感じる。
雑魚相手でも無造作に踏み込んだりせず魔物が攻撃しづらいタイミングで間合いを詰めることを当たり前のように行ったり。
魔物が勢いよく飛び込んでくるなら確実にカウンターを合わせたり。
逃がさないように考えた位置取りで連携したり。
とにかく、勉強になることばかりであった。
高山が研究会や勉強会のようなものと言って仲間に同じではないと指摘されていたが、あながち間違ってはいない。
少なくともウィンドシーカーズにはそのものと言って良いほど学ぶことが多かった。
それもソードマンティスと戦う前からだ。
途中の休憩で従来の戦い方に修正ができると3人で話し合ったくらい収穫は大きなものだったと言える。
試しに自分たちも修正を加えた状態で戦ってみたが、少し変えただけで戦いやすくなった。
確実に手数が減っていたし疲労も少ないと感じる。
同時にこんなにも差があるのかと驚きを禁じ得なかった。
嬉しい誤算にやる気が増すのを感じる3人。
今ならソードマンティスが相手でも前日のような無様なことにはならないのではないかとさえ思えたほどだ。
「いよいよ、3層な訳やけど」
3層に下りたところで高山が話しかけてきた。
「ソードマンティスは一度に何体も出てくることがあるから注意してや。あまりに多いときはそっちのこと気にしてられへんようになるさかい」
そんなことを言われると誰でもギョッとさせられてしまうだろう。
ウィンドシーカーズの3人もそうだったが、橘が最初に腹をくくった顔を見せ野川と芝浦を強い視線で見据えた。
「逃げるのはピンチになってからでもできるよ」
橘の言葉に逃げ切ることができるかは別問題だと言いたくなった野川だったが、その言葉は飲み込む。
チョイスした言葉は微妙だったが覚悟を決めろという意思表示だと受け止めたからだ。
ビビっていては先には進めない。
自分たちは強くなると決めたのだ。
こんなところで足踏みしている場合ではない。
芝浦も覚悟を決めているようで無言でうなずいていた。
「わかりました」
高山に返事をしたのは野川だった。
橘は相変わらず対人恐怖症が発動してしまっている。
身内相手にとはいえ見得を切っておいてこれでは格好がつかない。
3層に下りてくるまでの間に少しはなにわ堂の面々に慣れたかと思っていたのだけど、会話はまだできないようだ。
大丈夫かと不安になったが、なにわ堂の面々には不審に思われたりすることもなく普通に受け止められた。
そのまま休憩することなく3層の探索を始める。
最初に遭遇した魔物はハーブマンでその次がワーウルフであった。
ハーブマンは語るまでもなく瞬殺。
ワーウルフは数がそれなりにいたが、なにわ堂は冷静に対処し比較的短時間で全滅させていた。
「最初に脚を潰すんだね」
なにわ堂は必ず最初にワーウルフの脚を攻撃していた。
「ワーウルフはスピードで翻弄しながら襲ってくる魔物だから合理的」
橘の呟きに芝浦が話を被せる。
「アレは真似した方がいいわね。確実性が増すわ」
野川も話しに加わってきた。
「そうだね。良いところは真似していかないと」
ウィンドシーカーズには収穫の多い探索となった訳だが、本来の目的はソードマンティスとの戦闘を見学することである。
ここで満足している場合ではない。
その後も探索が続き、三度目の正直でソードマンティスが現れた。
しかも3体だ。
なにわ堂の後ろにいたウィンドシーカーズの3人が自分たちにも出番が回ってくるかと身構える。
が、なにわ堂は何も慌てていなかった。
「岩田は左、小倉は右な」
「はいよ」
「了解」
「国中、外堀、菅谷は魔法で援護。いつも通りで」
高山が次々に指示を出し先の2人は返事をすると両サイドに分かれて走り始めた。
指示を出した高山も中央のソードマンティスに向けて駆け出していく。
援護を指示された3人は返事の代わりに魔法の準備に入った。
「後衛の射線軸からずれて走ってるね」
「魔法の巻き込みを防止するためでしょ。簡単にできることじゃないけど」
「アレなら呼吸を合わせなくても魔法を好きなタイミングで使える」
ウィンドシーカーズの3人は少しでも収穫を得ようと貪欲に観戦している。
そんな中で後衛から魔法が放たれた。
「小さい!?」
橘が驚きの声を上げた。
少なくともバスケットボールより大きな火球が飛んでいくものと思っていたのだが、実際に放たれたのは野球のボールとさほど変わらないサイズの光る球体だった。
「火球じゃないわよ!?」
野川も目を丸くさせている。
「ホップした!?」
少々のことでは動じない芝浦が驚いている。
ソードマンティスの胸元に向かっていた光のボールが急激に跳ね上がったからだ。
そして、顔面に直撃。
「「「なっ!?」」」
ボールが弾けたかと思うとスポットライトを照らしたような閃光がソードマンティスの顔面を覆った。
それは一瞬のことだったが目眩ましには充分だ。
ソードマンティスが無茶苦茶に剣腕を振るうが接近したなにわ堂の前衛には当たらない。
「側面に回り込んだ!? 何をするつもり?」
野川が疑問を吐き出すが、すぐに答えが出た。
前衛3人がほぼ同時に剣を振るいソードマンティスの肩を潰す。
続いて脚の付け根を切り落として倒れ込んできたところを利用して首を切り落とした。
後は心臓を突いて終了。
実に呆気ない幕切れであった。
ウィンドシーカーズの3人が呆然と立ち尽くしてしまうほどの衝撃を受けている。
それは、なにわ堂の面々がドロップアイテムを拾い終わるまで続いた。
読んでくれてありがとう。
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